愛は世界を救う・勇者はふりだしに戻る
勇者のやり直し。 @短編その33
@ヒロイン名、変更しました(笑
懐かしい。
何もかもが、懐かしい。
あの角を曲がると、アッキーの店。
そして、店にいつも張り付いているデイブ。
あいつはアッキーが大好きだからな。
6年後、デイブの思いは実って、結婚したんだよな。
ここから少し先には、騎士団の宿営地がある。
あと5年もすると、ちゃんとした建物になるんだよな。
ああ、警備のルワンもこの頃からいたんだ。
万年警備のおっさん。でも彼がいるとみんな安心したもんだ。
なつかしいなぁ・・
「おい、何をしに来た。ここは騎士団員以外は入れないぞ」
ルワンが怒った。
そうだった。
俺は今はまだ12歳だった。
来週の騎士団員募集で、合格してからだったな、中に入れるのは。
つい昔の気分で、すいすいと入るところだった。
俺は17歳で勇者認定され、18歳で魔王を討伐に行った。
そしてみんなを裏切り、魔王の側近になるんだ。
この街も、俺がぶっ壊した。
みんなまとめて劫火で焼いた。
だって、人間達が、俺のナイジェラを殺したから。
勇者と共に行動した、親友であり、恋人だったナイジェラ。
どこかの姫が、勝手に俺に惚れて、邪魔なナイジェラを罠に嵌めて処刑したんだ。
今までナイジェラに感謝し、信頼してくれていた筈の仲間も、故郷のみんなも、ナイジェラを信じなかった。
姫はこの都で人気があり、嘘をつくとは思われなかったのだ。
俺に他の任務を与え、いない間に事件は起きた。俺は助けることさえ出来なかった。
抵抗出来ないように口を封じ、目も潰し、首を括ってぶら下げたんだ。
帰ってきた俺が見たのは、ぶらんとぶら下がった、愛する者の亡骸だった。
その後俺は、魔王の仲間になった。
人間を殺し、殺し、殺し、殺し尽くしたある日、聞いたんだ。
「いやあ、まんまと騙されましたな、あの勇者は」
「姫を恋に狂わせ、残忍な処刑をしろと導いて、勇者が怒り狂う。そして、人間共を自らの手で殺戮させる。いやあ、お見事です、さすがは魔王様」
「ははは、人が人を殺す。我らがそのような事をせずとも、勝手にやってくれるのだ。有難い事だ」
魔王の高笑いを聞いた瞬間、俺の目の前が真っ赤に染まるのを感じた。
ナイジェラが殺され、絶望した俺を優しく慰めてくれた魔王・・・
考えてみれば、あいつは魔王なんだ、優しいわけないのだ。
お前が大本だったのか。お前が真の悪だったのか。
俺は踊らされたのか。
魔王の企みが、裏が分からなかった、馬鹿な俺。
いや、あの時、何故かナイジェラは俺にいてくれと言った。
一緒に行けばよかったのだ。
仲間が冷やかして、熱々だな、なんて言うから、照れ臭くて置いて行った。
『そうだよ、熱々だよ。羨ましいだろう?』
と、惚気ていればよかったのだ。
足で魔王の頭を踏み、グリグリと床に擦り付ける。
頭と胴体は随分と遠くに離れて転がっている。
魔王とその側近、そして護衛を一人で相手をしたから、かなりの損傷を負った。
俺ももう長くないだろう。
俺の手でほぼ壊滅した人間達。
でも騙されていたとは・・・これはナイジェラに怒られてしまうな。
ナイジェラが死んだとき、俺の心も死んだ。そして、神を呪った。
神よ・・・今更許せとは言いません。
この魂を、どうか封印してください・・・
そして、殺した人々の魂に、祝福を・・・・
「おい、どうするんだ?騎士になりたいんだろ?お前」
デイブが俺の顔を覗き込んでいる。
「あ?」
「何寝ぼけてるんだよ。騎士団入隊する気だって言ってたじゃないか」
そうだった。
あれ、もう締め切りの日か。
俺の手には、申し込み用紙。
「ほれ、俺が出してきてやるよ!」
俺の手から申し込み用紙を奪い、だーーーっと受付まで持って行ってしまった。
戻っている。
12歳の、あの時に。
騎士団に入る、申し込みの受付の時に、戻ってる。
ナイジェラと出会うのは、15歳の夏。
魔族との戦いで、隣国の支援があって、そのメンバーの中にいた。
神は・・・やり直せと言っているのか?
魔族を滅ぼせと。
人を殺すなと。
・・・愛するものを守れ、と?
そう思った瞬間、ナイジェラとの思い出全てが蘇る。
初めて会った時、怒鳴りつけられた事
剣が折れ、やばい!そう思った時、火球で助けてくれた・・俺の腕も焼けたが
夕飯を作る時、がしゃーーんと落として、食べれなくなった彼女に、半分分けた事
誕生日と聞いて、道端に花が咲いていたので渡したら、頬を染めて喜んだのが可愛かった
ふたりで潜入することになって、彼女がドジをして崖から転げ落ちるのを必死で抱き止めた
ここを二人で攻略して抱き合って喜んで、二人でお祝いをして、酒を飲み過ぎて・・気がつくとベッドに二人で寝てて
良き相棒で
可愛い恋人で
彼女は聖女の能力に目覚めて
俺と共に、魔王を討伐のメンバーに選ばれ・・・
魔王の根城の結界を解き、魔障を清浄化する力があるから
だから彼女は魔族に狙われるようになって・・・
守るんだな。
ナイジェラを守るんだな。
そして魔障を清浄化して、地を清めるんだな。
それがナイジェラの役目だったと。
どういう流れで俺は人生を歩んできたか。
全く同じに進めないだろう。
ただ、ナイジェラは隣国にいる。これだけはわかる。
それに、彼女は前世と同じく俺を好いてくれるだろうか。
そもそも、俺はまた彼女を恋人にするだろうか。
全く同じく、人生が進むことはないだろう。
俺たちが恋人になるきっかけと同じ事が起こるとは思えない。
だから・・・
ただただ、ナイジェラを守れば良いのだ。
ナイジェラが死ぬのは、どこぞの姫の横恋慕がきっかけだった。
だから・・俺が愛さなければ・・・彼女は殺されない。
仲間として、見守るんだ。
前の人生とやはり同じくはいかないが、大筋は同じ。
前世の俺はストイックで、自分のことで精一杯で。
でも2度目だから、いろいろ先読みが出来たり、剣の技も理解しているのですぐ熟せたり。
まあ・・・程々モテる人生となった。
美男子ではないが、ほどほど好感のある顔だそうで。
15歳、隣国の支援メンバーの中に、ナイジェラがいた。
だが声を掛けるのはやめた。
だから、前世と同じ喧嘩する件が、起こることは無かった。
1ヶ月滞在して隣国支援団は帰って行った。
この間、俺とナイジェラは一度も話をしなかった。
俺が避けていただけだが。
前世でもそうだったが、17歳で勇者認定された。
そして18歳で魔王討伐のメンバーに選ばれた。ここまでは同じだ。
ナイジェラとついにメンバーとして出会った。
今のナイジェラだが、前世のナイジェラと同じ性格には思えなかった。
彼女には仲良しの男がいて、そいつと一緒にいる事が多かった。
男は討伐メンバーではなく、隣国騎士団の騎士だそうだ。
前世と同じ作戦を、俺とナイジェラが受けることはやはり無かった。
ところが・・同じような出来事が起こったのだ。
食事時、彼女が何かに躓いて、食器をがしゃーーーんと落とした。
どうする?
思う間もなく、俺は彼女に近寄って、
「ドジだな。食うか?」
と、声を掛けた。食事も遠征中はおかわりなんて無い。食いっぱぐれるしかない。
前世では『大丈夫か?腹が減ったら力出ないだろ?ほれ、半分やるから』
なんて言ったよな。長いな、セリフ。
「け、結構よ。ご親切に!」
そして落とした食器をがしゃがしゃ積んで、さっさと持って行ってしまった。
まともに話したのは・・・これが初めてだった。
前世では『・・少しもらうわ』と素直だったのにな。
まああれは15歳の隣国支援の時だった。
今は18歳。恥ずかしいかもな。でも一応助けたんだ。続行だ。
俺はたったと近寄って、彼女の口にパンを突っ込んだ。
「食っておけ。力出ないぞ」
何か文句を言おうとしたのだろうが、口は塞がっている。面白い顔だ・・
くくっとつい笑ってしまったら、ギロリと睨まれた。
ああ、今世では、こうして仲間として付き合っていくんだな。
俺はそれで良いと思った。
恋人になれば、あの姫みたいな事件に繋がるかもしれない。
もう1年もすれば、ナイジェラは聖女認定される。
狡猾な魔族達の陰謀を、しっかり判断していかなければならない。
ナイジェラを死なせるわけにはいかない。
それからはナイジェラと挨拶を交わしたり、無駄口を叩いたり、普通に接するようになっていった。
見れば見るほど・・・前世とは違う。別の人格?
まあ、ナイジェラが俺に恋してくれていたのだから、違う対応は当たり前だ。
気がつくと、俺とナイジェラは親友となっていた。
ツーカー、以心伝心、戦闘時の連携、前世のように動き、動けるのだ。
戦い終えると、手をパァン!ハイタッチで挨拶だ。
ハグだってさらっと出来るようになって、頭を撫でたり、おでこにキス。
このくらいなら。
・・が、どんどん進んで・・・
気がつくと・・・気がつく、ではないか。もう我慢が出来なかった。
「おい、起きろ」
「ん〜〜・・・」
ナイジェラは隣で寝ぼけている。
結局・・・こうなってしまった・・・俺か?俺が悪いんだな?
まあ、誘ったのは俺だし・・・反省はしているんだ、うん。
守るから。どこ行くにも、べったりだよ。
ただ、あの姫にだけは会わないようにしている。
俺、そんなハンサムでも無いし。なんでまた、好かれたんだ?謎だ・・
なんと、その謎が・・分かった。
城下にお忍びで来ていた姫を、偶然だが俺は助けたんだ。姫とは知らずに。
で、惚れられた。
なんだとぁ〜〜〜?勘弁してくれ!!
あれほど気をつけていたのに!!
ああ、もうこれはなんだええーーい!!
ナイジェラを引っ張って、神殿に連れていくと、俺は神官様に言ったんだ。
「ナイジェラと結婚します!!」
プロポーズ無しでいきなり結婚、急いでいたから指輪無し。
そりゃあもう、膨れましたよ。ごめん。
でも、これもお前を守るためだから!!
これでいつでも一緒で問題無し!!照れはするが、もう離さない。
その後の俺たちがいくところ、魔族にとっては厄介だっただろう。
バカップルの精神攻撃だ!!ラブアンドパワー。
どの魔族も、頭痛そうだったからなあ!そうか、頭に直撃か!!
「く、来るな!来るなーーー!!」
腰が抜け、立てないから後ろに引きずるように下がる魔族。だが俺達は容赦はしない。
「ナイジェラーーー!」
「なぁに?」
「愛してるーーー!」
『ぐはっ!!』魔族、血反吐吐いたわ。
魔族はこういう流れが『しんどい』ようで、だいたいこれでガタガタになる。
締めはナイジェラの聖女の力、キラキラと消える魔族。
こんな死に方はいやだーーーー・・・
毎回こんな絶叫で終わるんだよ。ナイジェラの聖女の力、スゲーー。
でもこの死に方、させてやるからな。
前世があまりにもダークじゃったからな。覚悟せえ。
俺はやっぱりナイジェラに惚れて、どうしたって彼女が好きで、これからもずっと一緒にいたい。
だから、俺たちの為に、死ねや魔王。
愛は世界を救う、マジで。
ほぼ毎日短編を1つ書いてます。随時加筆修正もします。
どの短編も割と良い感じの話に仕上げてますので、短編、色々読んでみてちょ。
pixivでも変な絵を描いたり話を書いておるのじゃ。
https://www.pixiv.net/users/476191