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続・お祓い屋 京助 報復の城  作者: 浮子 京
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激震 薙ぎの院

薙ぎの院 激震


「さてと、専務も着く頃だし、もう一度モニターの波形だけでもチェック入れときますかねえ、勝山さん、このモニター見てて下さい、近藤は波形の微調整な」


それを聞いた京助が、言われたとおり、目の前のモニターに目線を凝らした。


「で、何を見てればいいんだ?」


モニターの前に陣取り、聞いた。


「あ、はい、そこに出ている波形に変化がないか見張ってて下さい。少しでも揺れるようだったら直ぐに言って下さい」


「わかった、とにかく現状の波形と睨めっこって事か」


10インチ程の液晶画面に映し出されている四本の紋様が、幾つもの小刻みな波となり、左から右へと流れてゆく、それを眺めながら、退屈な時間だけが京助の頭の中を支配し始めた時だった。


「よう、ご苦労さん、どんな感じだ?」


背後からだった、いきなりの声で振り向いた京助の心臓が、一瞬で凍り付いた。


(よ、与一!)


思わず声になる寸前、ぎりぎり喉元で止めた。

そう、今、京助の目の前に居る男、まさしく与一、だが、少しだけ雰囲気が違う。


「あ、専務、早かったですね、ご苦労様です」


すかさず、渡辺が言った、それと同時に、モニターの下に潜り込んでいた近藤も、その手を止めて挨拶をした。

チャコールグレーのスーツに白のワイシャツ、絞められた紺色のネクタイが、やけに地味なスタイルとなってこの場に現れた男、リーゼント風に後ろへと流された髪が、ポマードで光っていた。


(専務?そうか、こいつが弟・・・根岸与一の・・・しかし、そっくりだな)


「専務、社長の具合、どうでした?」


渡辺が聞いた。


「ああ、大丈夫だ、殺しても死にゃあしないよ、兄貴は。ところで、此方の方かい、手伝ってくれてるって人は?」


一通り見回すと、目の前に居る京助に目を止め、二人に尋ねた。


「ええ、朝から・・・、えーっと、勝山さんです」


渡辺が紹介がてら、京助を指差した。


「突然ですみませんでしたね、こいつ等が無理言ったんじゃないですか?」


丁寧な物言いに京助も恐縮した、そして、兄弟とは言え明らかに与一とは違うこの男に、驚いていた。


(しかし・・・、そっくりだな)


「いえ、大丈夫ですよ、こっちからお願いしたようなもんですから、気にせんで下さい」


軽く微笑んだ。


「なら、良かった。じゃあ、もう少しお付き合い下さいね」


そう言うと、三人を前に、彰が笑った。


「さあ、始めようか、要領は分かってるな」


彰の号令の下、作業が始まった。そして、時の針は進み、西へと傾いた日の光が、作業する男達の影を長く伸ばし始めていた。


「やはりな・・・、渡辺の言う通りだった、動いている・・・と云うよりも、ねじれちまってるな・・・信じられん事だが・・・」


確認した彰が呟いた、先程、渡辺が指摘した通り、西側の祠が微妙な角度でずれていたのだった。


「専務、これって・・・、祠が単体でってことじゃないみたいですね、地盤の、それもかなり深いところで何かあったようですね」


モニターを見ながら、波形の変化を捉えていた近藤が指摘した。


「ああ、これを見てみろ、ディプスのZ値が示してる通り、かなり深いな、それに、この波形だ、まるで・・・のたうつ蛇の様じゃないか」


彰の信じられないと云う表情が、近藤と渡辺の顔に暗い影を落とした。


「まずいな、波形が上へと、少しづつだが・・・上がって来ている様だ」


そう云うと、彰が携帯を取りだし、発信した。


「あ、兄貴か、ああ、俺だ、ちょっとまずい事になりそうだ、今日中には終わりそうもないな、否、大丈夫だ今の所はな、後で詳しく話すよ、じゃあ」


携帯を閉じるなり、此処にいる男達に手招きをした。京助を含む男三人が、急ぎ彰の前へと集まった。


「作戦変更だ、やり方を変えなくてはならなくなった、とにかく機材は据え付けたまま、今日は早じまいと行こうか、本堂を借りて、今夜は作戦練るぞ」


そして、京助の方に向き直った彰が言った。


「勝山さん、お手伝いはこれで終わりと云う事で、近藤に日当貰って、引き揚げて下さい、今日は有難う御座いました」


深々と頭を下げ礼を言った彰が、近藤に目配せをした。


薙ぎの院は裏手の山麓、午後7時を回り、ようやく暗くなり始めた頃、めったに人の入らない此の地に、幾つかの影があった。


その頃、薙ぎの院厨房では、忙しなく夕餉の支度に暇ない若い修行僧と静香の姿があった。


「静寂院様、お伝えしたいことが・・・宜しいですか?」


厨房に入って来た一人の僧が、静香に声を掛けた。明らかに修行僧とは違う雰囲気を醸し出している。


勇見ゆうけんさん、どうしました?」


直ぐに振り向いた静香が、支度の手を止め、目の前に現れた一人の僧に尋ねた。


「はい、実は先程、見回り組からの連絡で、裏手に何らかの侵入が在ったらしいのです、正確な数は把握出来なかったと言ってますが・・・」


神妙な顔で話す勇見と呼ばれた僧が、静香に言った。


「やはり・・・動きましたか、あ、直ぐに根岸の彰さんに連絡をして下さいな、今は南の祠に行っていると思いますから、それと、最悪を考えて前線部隊を急ぎ配置して下さい」


本堂に向かう途中の根岸彰一行に、先程の僧、勇見がその足を止めた。


「彰殿、静寂院様よりの伝言で御座います」


    前夜


重い瞼が、いつまでも起きる事を拒むように、一馬の憂鬱となって部屋の明かりを消している。その闇の中へと男が一人、入り込んだ。


「今度は・・・何?」


一馬の思考回路が回り始めた。


「敵わないねえ、気が付いちまったか・・・」


闇戯れが言う。そして、起き上がった一馬に近づき、目の前に座った。


「来たぞ・・・白蓮の手下どもが、多分、今夜は偵察だろう」


「やっぱり、見つけてたんだ、此処。奴ら、シャドーダイバー・・・だね、でも、どうやってこじ開けるつもりなんだろう?」


手探りで掴んだ黒縁の眼鏡を掛けると、一馬は深いため息をつく。

それを見た闇戯れが、真剣な顔つきで言った。


「先程、襲様より連絡があった。千浜原発とつるんでるエネルギー研究所、完成したらしいぜ、例の量子砲って奴がよ」


「それって、高エネルギー体の束ねた奴?・・・と、云う事はそれでこじ開けるって?」


珍しく神妙な顔つきで一馬が漆黒な闇に向かって尋ねた。


「ああ、かなりヤバい奴って言ってたな・・・スポット的らしいがな、大きさまでは分らんとの事だ」


四百年前、此の地で起こった悲劇、全ての忌みを深い悲しみと共に沈めた薙ぎの池。

その中でも、腹に子を宿しながら理不尽に殺された百姓の女・・・それはまさに、一人のスキア(影の民)が、人間(フォス・日の民)の女の腹に宿り、この世に出る筈だった者。

この池に投げ捨てられた女の屍は、守護であったこの池の大蛇に飲み込まれ、尚も深く沈み込み、時を待つのだった。そして、その腹に宿りながらも、この世に出る事叶わなかった者の名は、スキアの王、蛇永丸じゃえいまると云った

遡る事西暦六百四十五年、時は飛鳥時代の王朝、中大兄皇子と中臣鎌足により、宮中にて暗殺され、黄泉送りにされた一人のスキア、当時の名は、蘇我入鹿・・・と。

そして、直接暗殺に手を染めた中臣鎌足、それ以降果てしなく繰り返しこの世に現れた者の名が、現在を生きる・・・響馬、そう、響一馬なのである。


この世がまだカオスに包まれ、混沌としていた時代、在る場所に天高くより降り注いだ正と負のエネルギー・・・ダーク・マダーにより、二つの精神世界が生まれた。

日の光を浴び、テロメアにより寿命と云うものに支配された死に逝く者・・・。

闇に蠢き、永遠の命を授けられながらも、子孫を残せず、気が遠くなる程の時を、一代で生きてゆかなければならない者・・・。

此の二つの精神は相入れる事無く、故に契約を結ぶのである。

日の民は、決して影の民の闇を犯してはならない・・・。

影の民は、日の元には現れず、光を遮る事ならず・・・と。

ところが、知恵と云うものは時に、予期せぬ偶然により災いとなる。

影の民に突然起こった悲劇・・・、日の民が偶然にも手に入れた、炎と云う名の光。

これにより、日の民は、闇をも手に入れたのである。

当然、なされていた契約は反故となった。そして、この時を境に、双方激しい奪い合いが始まったのだった・・・。遠い、遠い、果てしなく遠い物語として・・・。



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