死の口づけ
死の口づけ
「襲様、解析結果が出ました。かなり荒れてはいましたが、何とか」
部屋へと入るなり、目の前にいる女性にレポートの束を手渡した。
「出ましたか、これが・・・遮那が最後に残したメッセージ・・・」
「はい、本当に・・・残念です」
「ご苦労様でした、内容については、まだ、誰にも?」
「はい、私だけです」
「そうですか、後はこちらで対処します。ゆっくり休んで下さい、これから忙しくなりますからね」
「では、失礼します」
そう言うと、静かにドアを閉め、男は出ていった。
一人になった部屋のソファーに腰を下ろした襲の見守る先、遮那のダイイングメッセージともいえる、解析された調査報告書に目を通した。
「遮那、あなたの特別な力・・・その可憐な舌に記憶されたあなたの思い・・・
確かに受け取りましたよ・・・遮那・・・」
その後、響馬に闇座れと呼ばれた男が、静岡へと発ったのだ。
迎撃
再び、新エネルギー研究所内理事長室、望月を筆頭に数人の男達が集まっていた。
「急がねばなりませんね、森田の調査報告だと、起こしてならない者達を起こしてしまったようです・・・で、宜しいですね望月」
周りの者達を見回しながら、静かな口調で白蓮が言った。
「はい、森田のことですから・・・間違いはないかと・・・」
「では、一刻も早く、例の場所へ・・・宜しいか望月」
「はい、今度は確実に・・・今からSラボへ戻ります・・・では」
焦る様子を隠し切れないまま、望月が出ていった。
その後、残った者達に静かな口調で理事長である白蓮が言った。
「例の場所を確保なさい、邪魔する者は、消しても構いません」
言われた男達が揃って出ていった部屋の中、デスクの椅子に腰を下ろした白蓮が、秘書室に繋がるインターホンのスイッチを押す。
「田島に連絡を、エース級を集めるようにと」
深く座り直した椅子が、ぎしっと鳴った。
喧騒に近い声が飛び交っているSラボ内、陣頭指揮を取っている望月の声も自然と険しさを増していった。その間にも、千浜原発から再び供給が始まった高エネルギーが、重量子回路を通過し、カシミールへと注ぎ込まれている。
カシミール本体に取り付く幾つものコイルに、今また青白い稲妻の姿が浮かび上がった。