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続・お祓い屋 京助 報復の城  作者: 浮子 京
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阿修羅 降臨

祠前・阿修羅降臨



薙ぎの院は本堂裏にある広い庭の南隅に、勝山と名乗った京助を含む男達がいた。


「勝山さん、そこの祠の横に置いて下さい、そうそう、そこでいいです」


リーゼル社員の渡辺に言われた京助が、一抱えほどあるステンレス製のボックスを、ゆっくりと下した。

もう一人の社員近藤が、京助の下したボックスのダイヤルキーを回し、ボックス上部を開け、中の確認をし始めた。それを後ろから除き込んだ京助が聞いた。


「何の機器かな?思ったより小さいけど」


想像していた物とはまるで違う大きさと形に、思わず声となって出た。


「ああ、これ?測量用のレーザーですよ、こいつを此の庭の東西南北にある祠に着けて、斜度を補正した後に、四つ同時に計測するんですよ」


携帯ラジオ程の大きさで、何やら幾つものボタンと、2インチ位の液晶画面が付いた物だった。


「じゃあ、こいつら持って取り付け開始しましょう、渡辺は西側を頼む、勝山さんは北側の祠をお願いします、途中東側の祠にも取り付けていってください。あ、そうそう、絶対に此の庭の中には入らないで下さいね、遠回りになるけど、庭の外側沿いを歩いて下さい」


近藤に言われた京助が、手渡された測量機を持って歩き始めた。


「でも、何で入っちゃ駄目なんだ?」


振り向きながら京助が近藤に尋ねた。


「ええ、実はこの庭」


「近藤、それ以上は言わない方がいいよ」


聞いていた渡辺が、話を止めた。


「訳アリってか・・・分かった、もうこれ以上は聞かないから」


感じ取った京助がそう言うと、庭沿いを北に向かって歩き始めた。


「これ以上関わりたくないからな、しかし、こんなバカみたいに広い庭の北側までってか・・・参ったな」


本堂正面からは見えない裏地にこの庭は存在する。本堂裏手から北に長く伸びる形状は、西側に弦を持ち、まるで半月、否、三日月に近い。

鬱蒼と茂る布袋竹の林に囲まれ、隠されたように存在する枯山水の庭。


「な、何だ、道なりに歩けっていっても、こんな狭くっちゃ歩きにくいだろ、それに、庭には入るなって言ったけど、入れないだろ・・・これじゃあ」


京助が嘆くのも無理はない、小さな子供の肩幅位しか無い細い道、その両側にびっしりと隙間なく生え揃った竹林がある。かろうじてその隙間から見え隠れする玉石のひかれた庭。


「祠は何処だよ?ああ、もう、引っかかっちまうよ」


細い枝先が京助の着ているジャケットに絡みついて、上手く前に進めない。

それでも何とか振り解きながら進んで行くと、ようやく一つ目、東側の祠が見えてきた。


「こいつか、大分年季が入ってるなぁ、確か庭に向いて扉が・・・お、これか、あった」


ジャケットに仕舞い込んであった測量機を取り出すと、開けた小さな扉にはめた。


「へぇ~,ジャストフィットてか」


ピタリとはまり込んだ機器の幾つかあるボタンを、教えてもらった通り順番に押し、最後にスタートボタンを押し込んだ。すると、液晶画面に波形が現れた。


「よし、これでいい筈だが・・・さてと、次は北側か、結構な距離だな」


その頃、反対側、西の祠に着いた渡辺が目の前の祠を眺め、少しの違和感を覚えていた。


「おかしいな、この位置だったか?扉は庭に向かって正面の筈、変だな、少しズレてるような・・・まあいいか・・・測量してみれば分るだろ」


急ぎ測量機を取り付けると、スタートボタンを押し、近藤の居る南側の祠まで戻ってきた。


「あれ、勝山さんは・・・まだ?」


聞いた渡辺に、近藤があきれて答えた。


「何言ってんの、北側まで行くんだよ、まだに決まってるだろ」


「だよな、結構あるからな、じゃあ、システムのテスト準備だけでもしとこうか」


もう一つのボックス、底面に取り付いている脚を伸ばし広げると、簡易テーブルとなった。

そのボックスを展開すると、中からコントロールパネルらしき物が覗いている。


「渡辺、バッテリーは大丈夫か?」


「ああ、全然大丈夫だ、満タンでぇ~っす」



コントロールパネルのスイッチ類を操作しながら、モニターに映し出された波形を確認した。


「お、東の波形が出てる、勝山さん、東は取り付けたようだ」


「ゴーストは出てないか?」


「出てはいない、クリヤーだ」


その後、ああでもないこうでもないと言いながら、忙しなく準備に追われる二人だった。


「お待たせ、遅くなってすまなかった、何せ、遠くて・・・疲れた」


ジャケットを左腕に絡ませ、額の汗を拭きながら、京助が帰ってきた。


「あ、勝山さん、ご苦労様でした。今、準備してるんで少し休んでいて下さい」


モニターに映し出される波形を確認しながら、渡辺が言った。


一抱え程ある石の上に腰を下ろすと、二人の作業を見守りながら、大きくため息をつく京助だった。


少し経った頃、作業をしていた近藤の手が止まった。


「よし、後は最終確認だけだな。じゃあ、少し早いけど、お昼にしますかね」


「こっちはOKだ、近藤、俺が取りに行ってくる」


「ああ、頼んだぞ、もう、出来てる筈だから」


同じく手を止めた渡辺が、そそくさと本堂横の母屋へと入っていった。

暫くして、右手に布巾の被った盆を持ち、左手に大きなヤカンをぶら下げた渡辺が戻ってきた。


「お待たせ、勝山さんもどうぞ、お昼ご飯にしましょう」


そう言いながら、腰の当たりまである切り株の上に盆を置き、布巾を取った。


「おお、美味そうな握り飯だ、さあ、食べましょう、勝山さん」


盆の上の大皿に並べられたおにぎりと湯飲みが目に入った京助の右手が、遠慮もなく伸びてきた。


「今、お茶入れますからね」


それを聞き、既に一口頬張った京助が、体裁悪そうに下を向いた。


「あっはは、逃げやしませんよ」


二人に笑われ、増々下を向く男が一人。それでも、まだ一つ取ろうとする京助の左手が、目の前の盆に伸びているのだった。


食べ終わった切り株の上に片肘を着きながら、京助が口を開いた。


「一つ聞きたいんだけど、何で此の庭に祠が四つも在るんだ?それも、計ったように東西南北って・・・珍しくないかい」


それを聞いた渡辺が、困った顔をしながら言った。


「いえ、実は俺達も分からないんですよ、何か、話に聞くと、随分前から在るそうで」


そう言うと、徐に、隣にいた近藤を見た。


「確かに随分前だとは聞いているんですが・・・この寺が出来たのが四百年前とか、それ以前は、この庭、この広さのまま、池だったそうなんですよ、何で庭になったかってのは俺たちは知らないんです」


横で渡辺も頷いている。


「へぇ~!此処、池だったんだ、しかし、何でかねえ、余程の理由がなくっちゃあ、埋めやしないよね」


そう言った京助自身も困惑し、聞くんじゃなかったと思った。

そう、この男の好奇心は常人の域を超えているからだ。聞きはしないと言ってはみたものの、いつまでもつだろうか。


三人、顔を見合わせていると、渡辺の携帯が鳴った。


「お、専務からだ、はい、渡辺ですが・・・はい、分かりました、じゃあ、お気を付けて」


「何だって?専務」


すかさず近藤が聞いた。


「来るってさ、もうすぐ」


「そうか、土砂崩れ直したんだ、流石だ、彰さん」


「よし、そうと分かれば準備を急ごう!少し手伝ってもらえますか、勝山さん」


渡辺に言われた京助が、モニターの前に立った。

気が付くと昼は当に越し、腕時計で確認すると、既に午後の二時を指示している。


暫くして、一台の車が薙ぎの院の駐車場へと入ってきた。


「久しぶりだな、此処も」


先に止めてある白いワゴン車の横に並べると、エンジンを切った。

その音を聞いて待っていたかのように若い僧侶が近づいた。


「リーゼルの専務さん、根岸 彰さんですね、静寂院様がお待ちです、ささ、此方へ」


階段下の扉を開け、根岸 彰を招き入れた。


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