あれ?思考は、面倒くさくない?
ハンカチを渡したリカルドは、私の手を引いて立ち上がらせると、小さい声で
「人前で泣くな。」
と、ボソリと不機嫌そうな声で言った。
ああ、またやってしまった・・・。情けなくなって、また泣けてきたけど、私はとりあえず、コクコクと首を縦に振った。
リカルドは顔を顰めたまま、少し私を見つめ、ややあってからアメリアとロバートに声をかけた。
「すみません、私の婚約者がお二人を煩わせてしまったようですね。申し訳ないのですが、少し二人にしていただけますか?彼女は少し、疲れているようだ。」
そう言ったリカルドの顔には完璧な愛想笑いが貼りついていた。
二人は、顔を見合わせると、頷いてから、
「リカルド様にお任せして、大丈夫かしら?エミリア?・・・確かに、少し疲れてしまったのかも知れないわね。」
「そうだね、入学してからちょっと忙しかったよね。またね、エミリア。アメリア、僕たちも早めに寮に戻って休もうか?また明日ね、エミリア。」
二人は私を気遣う言葉をかけて、寮に戻っていった。
リカルドと二人きりになると、彼は盛大な溜息を吐き、張り付けた笑顔をしかめっ面に戻した。
「ねえ、何?何で泣いてる訳?・・・二人に何か言われた?」
不機嫌を隠そうともせず、問い詰められる。
「ふ、二人に何か言われたとかじゃないよ・・・。」
「じゃあ、何?なんで人前ではばからずに泣いちゃうの?」
「・・・ご、ごめんなさい・・・。」
ああ、私ほんとだめだ。
「で、何?何があった???」
リカルドに、両肩をつかまれ、しっかり向かいあわせられる。
こうなったリカルドが、理由を聞かなきゃ、許してくれないだろう事は、付き合いの長い私にはとうにわかっている。
だから、もう、言うしかない。
◇◇◇
・・・でもなー、転生とか異世界とか、リカルドは信じないだろうな・・・。
と、いうか、この世界の説明、すんごく難しくない?!
ええっと、私はラノベの悪役令嬢ものの主人公で・・・元が乙女ゲームで・・・ヒロインがいて・・・。ああ、私は主人公なんだけど、ヒロインではなくって・・・って何言ってんだって感じになっちゃう!
そもそも、ラノベとか乙女ゲームとか・・・こっちにないし、どう説明したら・・・いや、そもそもそこまで辛抱強くリカルドが聞いてくれるだろうか?奴はけっこうイライラしやすいし、かといってこんな複雑なお話って簡単に説明なんてできないよね?
難しいお話を簡単に話すなんて要領の良さがあれば、あれだけ頑張ったんだものBクラスくらい行けた・・・って思考がズレちゃうな。
ああ、そうそう、そもそもそこまで話す必要あるかな???
えーと・・・泣いたのは・・・。
そう、私が立派に悪役令嬢だったから!
今まで、自分はわがままでも自分勝手でもないしってタカをくくってたけど、実際はリカルドに迷惑をかけてて、婚約者なのにリカルドに協力しないばかりか、邪魔になってて・・・ダメダメで・・・!
・・・そうそう、今だって人前で泣くっていう失態を!!!
ああ、明日アメリアとロバートになんと言おう・・・恥ずかしい・・・。
ああ、また話がそれちゃう、ちゃんと考えなきゃ。
えーと、私はダメダメで、どーせ婚約破棄されちゃうしって、リカルドに何を言われてもやる気出なくて・・・。
あ、でも、リカルドは面倒くさいから、婚約破棄でも良いかな~とは思ってはいるんだけど、悪役にはなりたくなくって・・・。悪役って、バッドエンドっぽいし・・・。
この場合のバッドエンドって何だろう???
リカルドが好きなら、婚約破棄されちゃうのはバッドエンドだよね???
でもなー、幼馴染だし、付き合い長いし、イケメンだし、嫌いだとは思わないんだけど・・・そこまで好きか?って聞かれると・・・うーんって感じだよな。リカルドってほんと面倒くさいし、ヒロインと恋に落ちてリカルドが幸せになれるなら、それもありっていうか・・・。
あ、でもリカルドが結婚してくれなかったら、私をお嫁さんに貰ってくれる人がいない?とか?
怠惰だしなー。行き遅れ=バッドエンドか?・・・それくらいなら、そこまで悪くないよね?
あーでも、この世界で結婚できないのはマズいのかも・・・?!お嫁にいけないと、不良債権で、お父様やお兄様に捨てられて、食べるにも困って、病気になって・・・孤独死?!
ああ、孤独死はバッドエンドぽい!!!
◇◇◇
「エミリア!」
ぐちゃぐちゃと考え込んでいる私に痺れを切らしたリカルドは、苛立った声を出した。
「あ、リカルドごめん。ちょっと考えちゃって・・・。」
「まぁ、いつもの事だからいいけど。で、何?何で泣いてた?」
ええと・・・どう言おう・・・。
簡潔に・・・。
「リカルド、私は悪役だから、あなたは誰かと恋に落ちて、私と婚約破棄するから、私はバッドエンドで、行き遅れて孤独死するので泣いてました!!!」
「は?」