あれ?友情は面倒くさくない?
アメリアと並んで寝転び雲を眺める。
「雲って、おいしそうですわね。」
「綿飴みたいですよね。」
私がこたえると、アメリアが不思議そうに、「綿飴って何ですの?」と尋ねてきた。
あ、こっちって、綿飴ないのかー?!やっちまった???そう言えば、こっちで綿飴、見てないかも?微妙に焦っていると、ロバートが近づいてきて、私たちの隣に寝転んだ。・・・寂しかったのかしら?
「お洋服を汚したくないのではなくて?」私がそう言うとロバートは笑いながら、「仲間に入れてよ。」と言った。
「アメリア、綿飴を知らないなら、ぜひ食べて欲しいな。」
「あら、ロバートも知っているの?私は知らないのだけど、有名なお菓子なのかしら?洋菓子屋を開きたいのに、無知で恥ずかしい!」
「うーん、どうだろう、むしろ知らない方が多いんじゃないかな?僕の領地ではお祭りの時に食べるんだけど、由来は隣国らしいんだよね。ほら、うちの領地って、国境に面してるでしょ?だからね。・・・僕はさ、エミリアが知ってる事が驚きだよ。」
そう言われて、私は少し固まってしまった。
綿飴は珍しいお菓子なのかーーー!
とりあえず私は笑って「多分、本か何かで読んだのですわ。何でしたか、忘れてしまいましたけど。」取り繕う。ほんの少しの罪悪感を覚えながら。
◇◇◇
学園に入学するまで、私には友人らしい友人はいなかった。たまに同年代のお茶会に呼ばれる事はあったが、面倒くさがって、天気やドレスの話をするくらいで、軽いお付き合いしかしてこなかった。
表面的でない付き合いをしてるのは、婚約者のリカルドくらいだったけど、彼はお勉強やらマナーやらダンスやらに熱心だったし、それらをいかに頑張るか、どうしたら良くできるのか、なんて話を彼がして、私はただそれを聞いているだけだった。
だから、こうして気の抜けたお喋りをする経験がなくて、ついついウッカリと前世の記憶を話してしまったのだ。
やばい、私、対人スキル低すぎる。
これは少し気をつけた方が良いかも知れない。
せっかく出来たお友達だ。
前世、しかも異世界の前世の記憶が・・・なんて話す羽目になったら引かれるかも知れない。そこまでいかなくても、あまり変な話ばかりして、変わった人だと思われるのも嫌だ。
だけど・・・これから、2人ともっと仲良くなっていけて、そして、いつか、いつか打ち明けられたら・・・とは思う。
まだ1か月だけど、私はこの2人が大好きだ。
明るくて溌剌としたアメリアに、優しくてマイペースなロバート。3人でいると、すごく楽しい。
特に2人の将来の夢の話を聞くのが大好きだ。
ああしたい、こうしたいと話す2人といると、関係ない私もワクワクしてくるのだ。
おいしいお菓子屋さんになりたいアメリア。
子供達にお勉強を教える先生になりたいロバート。
2人とも真剣に向き合っている。
・・・そう言えば、リカルドも立派な侯爵になろうと、頑張っているんだよな・・・。
私はふと、リカルドを思い出した。
するとなんだか突然、悲しくなってきた。
私って、全然だめな婚約者だな・・・どうせ婚約破棄するんだって思って、リカルドの夢をちゃんと聞いてあげてなかったな。立派な侯爵、ふーん、そっかーって感じで、侯爵になってどうしたいとか、どういう侯爵になりたいのかとか、そう思ったリカルドの気持ちとか、聞こうともしなかったし、アメリアやロバートにするように、応援すらしてあげてない。
リカルドが、どんな思いで私にやらせようとしてたのか、聞きもせず、ただただ私を巻き込んで迷惑!くらいの気持ちでいた。
だけど、リカルドは婚約破棄になるなんて知らない。これから恋に落ちる事だって知らないんだ。
いつだって私に一緒に頑張ろうと言ってくれていた・・・リカルドの将来の夢には私が一緒にいた・・・そうだよね、親に婚約者って決められてるんだもの。だけど、私をお勉強に誘うのは、リカルドなりに私との将来を肯定的に捉えてくれていたからだ。
それなのに、私は面倒くさがって・・・わがままで自分勝手で・・・ああ、これじゃ私はやっぱり悪役令嬢だ。
私は・・・婚約破棄されて、当然なんだ。
そう思うと、なんだか涙が止まらなくなってしまった。
今まで、婚約破棄されても良いと思っていたはずなのに。
リカルドなんか面倒くさいって思っていたのに。
「エ、エミリア、どうしたの?!」
隣で寝そべっていたアメリアとロバートは、突然泣き出した私に驚いて、跳ね起きた。
「ご、ごめんなさい、なんだか急に・・・。」
私は2人にどう言ったら良いのかわからなくて、だけど泣いてしまったのも止められなくて、途方にくれた。
そうして途方に暮れつつも、オロオロする2人に挟まれ、私はグスグス泣き続けた。
ふと、目の前にハンカチを持った白い手が差し出され、私はそれを受けとった。
私は、ハンカチを渡してくれたであろう、アメリアかロバートに、せめてお礼を言わなくてはと、ゆっくりとハンカチを渡してくれた手の先を見上げた。
すると、そこには何故かリカルドが顔を顰めて立っていた。