ああ、なんて面倒くさい!リカルドなんて!
リカルド様と握手すると、二人で庭に追い出された。
いわゆる「あとは若いお二人で」ってやつだ。
・・・若干、若すぎる気もするが。
二人で、我が家の庭を歩く。
スチューデント家の庭は、お花の好きなお母さまの為に、お父様が優秀な庭師を雇っているので、なかなか立派だ。どの季節も、たくさんの花に彩られている。
リカルド様の美しい金髪が日に透けてキラキラ光っている。リチャードおじ様より、きれいな金色だ。
瞳もサファイヤみたいな美しい青色で、本当にお人形みたいだ。
ちょっとうらやましいな、なんて思いながら、わたしは隣のリカルド様をチラチラと観察した。
私はお父様譲りの濃い茶色の髪に茶色の目、ちょっと地味だ。
・・・ラノベの表紙の私(小説版エミリア)はそれなりに可愛かったし、わたしだって顔立ちはそんなに悪くないとは思うけど・・・お人形みたいってほど綺麗じゃないし、悪役令嬢と言われるだけあって、ちょっとキツ目な顔立ちだ。顔もキリッとしたお父様似・・・なんだろう。うれしくない。
「エミリア様」
横に並んで歩いていると、リカルド様が私に気づかわしげに声をかけてきた。
私は、はっと思考から抜け出し、リカルド様を見る。やばい、ここまで無言で来てしまった。
「ええと・・・リカルド様、私の家は伯爵家ですし、エミリアと呼んでください。」
「・・・では、エミリア、あなたは婚約をどう、思っていますか?確かに、俺は今はワイブル侯爵家の者ですが、今までは庶民として暮らしてきたのです。母が死に、侯爵家に引き取られたばかりです。はっきり言ってマナーすらよくわかりません。そんな俺と、婚約だなんて・・・君は事情を知っているのでしょ?本当は嫌なのではないですか?」
リカルド様は困ったように言いつのった。私はリカルド様の困惑に思わず同情してしまう。少し前まで庶民だった7歳の男の子が貴族と婚約させられたのだ、何かやらかさないか、相手がどう思うか、すごく怖いと思うだろう・・・。
「リカルド様・・・私も婚約は驚いています。でも・・・庶民とかマナーとか、関係なくって、婚約っていう事に驚いてるだけです・・・。リカルド様が嫌とか・・・そういうのでもなくて・・・。ええと、あと・・・リカルド様はまだ7歳ですよね、マナーとか貴族の振る舞いとか、私もまだよく分からないし、一緒に学んで行けばいいと思うんです・・・。私も、そういうのあんまり得意じゃないから・・・。」
私なりに、リカルド様を安心させようとしどろもどろになりながら答えると、リカルド様は少し安心した様にほほ笑んで、
「そうですか・・・なら、一緒にがんばりましょう。それと、俺のこともリカルドでいいよ。」と言った。
美少年の笑顔はものすごい破壊力ではあったが、なぜかいまいちときめかなかった。
多分、ラノベ的には、ここで、この笑顔にやられてリカルドに好意をよせて・・・となったはず。
でも、私はこの時、ちょっと嫌な予感を感じていたのだ。
「頑張りましょう」そのリカルドの言葉に・・・。
そして、その予感は的中する。
◇◇◇
あれから、6年。
もうすぐ私たちは王国学園に入学する。
そして、私とリカルドの仲は・・・ものすごく・・・こじれている。
そう、私が怠惰なせいで。
・・・リカルドは、あの日の言葉の通りに、侯爵家の子息としてふさわしくなるよう、伯爵家の令嬢の婚約者としてふさわしくなるよう、とてもとても努力したのだ。
リカルドはリチャードおじ様の息子とは思えない程、努力家で勤勉で、真面目な意識高い系であった。
そして、その頑張りを成果として表せる実力があった。そう、彼はとても優秀だったのた。
一方で、私はというと・・・そう、以前思った様に「2回目だから、幼少期は楽したい。学園行ったら本気出す!」を地で行っていたし、リカルドに促されて頑張ってみる事もあったが、少しも成果が出せない事に、人生2回目だからこそ、うんざりしていた。
最近では、もう、早く婚約破棄したい・・・早くヒロインとリカルドが恋に落ちないかな・・・とすら思っている。