ああ、面倒くさい、悪役令嬢物のヒロインだったなんて!
お父様と、そんな会話をして、数日。
天使であらせられる、リチャードおじ様が、私の婚約者だという少年(天使の隠し子)を連れて我が家にやってきた。
「やあ、エミリアちゃん!きみの素敵な未来の旦那様をつれてきたよ!なんーと、僕の息子なんだ!名前はリカルドというんだ、よろしくね!」
おじ様は、我が家の応接室に入ってくるなり、大げさに私に挨拶をした。
私は、お父様とお母さま、それからお兄様と一緒に、それを出迎えた。
おじ様の横には、びっくりするくらいにおじ様そっくりの少年、つまりはたいそうな美少年が立っていた。
お父様とお母さまは、うれしそうに「リチャードが子供の頃にそっくりだ!」「本当ですわね!」と歓声を上げた。・・・まぁ、容姿が似ているのは素晴らしいかもだけど、中身はおじ様に似ないといいわねーなんて、私は思いながら、リカルド様と視線を合わせた。
その時、ふと思った。
あれ、なんか、これ・・・どこかで見たことある・・・と。
そう、私の前世の記憶の中に彼、リカルド様がいるのだ・・・。
◇◇◇
私が前世でたぶん死の直前くらいに読んだライトノベル、「悪役令嬢は努力でハッピーエンドをめざします!」その中の最初の挿絵、それがこのシーンなのではないかと気がついた時に、私は思わず「まじかよ!めんどくせー!」と叫びたくなった。叫ばなかったのは、前世の記憶を持ちつつも、いちおう令嬢として育てられていたからだろう。
この小説の内容はこうだ。
悪役令嬢になるはずの令嬢(小説版エミリア)は学園に入学する少し前に、前世の記憶を取り戻す。そこで、この世界は「乙女ゲーム」の世界で、このままでは学園で婚約者(小説版リカルド)がヒロインと出会い、恋に落ちてしまうかも知れないという事に気づくのだ。
小説版エミリアは、素直になれないだけで、出会った時から小説版リカルドに思いを寄せていたのだ。
だから、自分勝手でわがまま放題であった今までの自分を振り返り反省し、努力と勤勉さで、素敵なご令嬢となるのだ。
そして、こじれていた小説版リカルドや家族・使用人との関係も改善して・・・さらには、素敵になった小説版エミリアはモテモテになる。王子様やら有力者のご子息(乙女ゲームの攻略対象者)に言い寄られたり、小説版リカルドに思いを寄せるヒロインが登場して不安になったり、誤解し合ったりしながらも、最終的には小説版リカルドとハッピーエンド!・・・的な内容だった気がする。
まぁ、乙女ゲームの悪役令嬢が努力で幸せになるというのは、ライトノベルではありがち設定だ。
・・・それにしても、悪役令嬢物の彼女たちは、ほんと頑張るよな。令嬢の中の令嬢、素敵令嬢どころか、スーパー令嬢になっちゃうのだ。それは尊敬に値するし、それを小説として読むのは気分がよかった。
自分がやるんじゃなきゃね。
だって、小説の中で成績優秀で首席だー、ダンスがうまいだー、所作が美しいだーってのは表現されてるけど、それを成し遂げるって、すごく大変なことだよ。
私は前世で大学生だったけど、それなりの大学ですら、すごく勉強してやっと入った。だから首席なんて簡単に取れないというのを知っている。
おっと、話がそれた。
私はラノベを思い出しながら、現在との相違点について考える。
すでにいろいろおかしい・・・。
まず、私が記憶を取り戻すの早すぎだ。
そして幸運な事に、私はそこまで自分勝手でも、わがままでもない。
怠惰であることは否定しないが(2回目だし、楽したいじゃん。幼少期くらいさ。学園入ったら本気出す・・・たぶん。)、使用人や家族との関係はそこまで悪くない・・・はず。
うう・・・ん、これから悪くなる?それはまずい。わがまま・自分勝手には気を付けよう。
リカルド様との関係はまだ分からない・・・会ったばっかだしね。
私がよみがえってきた記憶で思考の海に沈んでいると、お父様が「エミリア、リカルド君にご挨拶を」と
促してきた。
あ、やべ、ぼーっとしてた。たぶんリカルド様、もう挨拶したんだな、こちらに握手しようと手を伸ばしている。
「はじめまして、エミリアです。」
私はとりいそぎ笑顔を作って握手に応じた。