ああ、面倒くさい!残念系ヒロインのロマンス小説なんて!
「ところで、リカルド。ロバートとアメリアは、昔会った事があったの?礼拝堂で、ロバートが『やっと会えたのに』って言ってたから、昔会った事があったのかなーって思ったのだけど?」
私は疑問に思っていた事をリカルドに聞いてみた。
リカルドは、頷きなから答える。
「ああ、そうらしいよ。ほら、ロバート殿下が住んでたのは寒い所だろ?だから、裕福な家の子は、冬の間に南方で過ごしたりするらしいんだ。アメリア嬢の実家も南方だろ?どうやら、そこで二人は会ったらしいよ。・・・なんでも、その時にアメリア嬢に励まされたのが、王位を意識し始めたキッカケだったみたいだし。」
「えぇっ!!!そうだったんだ・・・!」
うわぁ、ロマンチック!!!
なにそれ、ロマンス小説じゃないっ!!!
子供の頃に会った隠された王子様が、ずっと自分を忘れずにいて、大きくなって迎えにくる・・・。
かーらーのー、感動の再会!
かーらーのー、・・・王家の陰謀とそれに立ち向かう二人のロマンス!
・・・素晴らしい!
ああぁ!誰か、小説にしてっ!
読みたい、読みたいです、それ、是非お願い!!!
・・・あれ、でも、知り合い???
感動の再会???ん???
そんな素振り二人にあった???
うーん???
リカルドは、私の妄想をよそに話を続けた。
「・・・ただ、肝心のアメリア嬢は、全然覚えて無いらしいんだけどね。」
え?
マジか。
・・・なんだ、アメリア、ぽんこつヒロインだな。
記憶喪失以外でヒーローを忘れちゃダメだろ!!!
えー、ない、ない、ない。
そんな残念系ヒロイン、ない。
そんな小説、私なら読まないし、そんなヒロインにはなりたくないっ!!!
やっぱり、ヒロインは可憐で優しくって、ヒーローと手に手をとり合って頑張ってかなきゃ、駄目じゃーん!!!
・・・まぁ、アメリアらしいと言えば、らしいんだけどさぁ。
現実って残酷だわぁ。
ロバート、まじ、ドンマイ。
残念系ヒロインに付き合わせられるヒーロー役、ご苦労様です!!!
・・・あ、そうだ!
私は、ふと気がついた事をリカルドに話す事にした。
「あのさ、それってやっぱり、ロバートはアメリアを好きだったって事でしょ?!」
「まぁ、そうだろうな。」
・・・だよね。私はある確信を得た!
「私の勘って、鋭いと思わない?特に恋愛事については、私、かなり鋭いと思うの!!!」
「はぁ?」
リカルドは、ポカンと口を開けている。
「はぁ?異論はないでしょ?・・・リカルドは、こういう勘は冴えないわよね。残念ながら。『ロバートがアメリアなんか好きになるかなー?』なーんて言ってたものね!」
「エミリア、本気で言ってる?」
リカルドまだ唖然としている。
「え、言ったわよね?『最下位組なんか、好きになるのかな?』って。今更とぼけないでよ?」
「いや、それは言ったけど、そこじゃなくって・・・エミリアが鋭いってとこだよ!」
「え???鋭いよね?ロバートがアメリアを好きそうって、当たったよね???」
リカルドは、何だか納得出来ないって顔をしている。
「リカルド、何処が納得できないのかな?私、言っとくけど、かなりロマンス小説読んでるし、そういう機微を捉えるのは、得意だと思うのね?」
「ほう。」
「リカルドは馬鹿にするけど、ロマンス小説、凄いから!多分だけど、私、かなり男心も分かると思うんだよね?」
「エミリアが、男心を?」
「ん?多分ね?ロマンス小説にたっくさん書いてあるし!!!」
私がそう言い切ると、リカルドは私を見つめて言った。
「・・・じゃぁ、エミリアは、俺が今、何を思っているか分かるのか?」
「え?」
リカルドは、熱心に私を見つめる。
うーん。
確かに、ああ言ったものの、リカルドが今、何を考えているかなんて、分からない。私はエスパーではないのだ。どちらかと言うと、男心の達人だ。
「えっと・・・。」
リカルドの青い目が揺れてる。私はその目をじーーーっと見返す。
分からない。何だろう?この流れだ。恋愛関連?
え、また婚約破棄???それは嫌だ!あ、でも違う???婚約破棄はしないんだもんね???
え・・・だとしたら、何だろう???全然別の事・・・???だめだ、全然分からない!
「・・・ねぇ、ヒントをください。」
「分かるんじゃなかったのか?」
「分からないから、ヒントって言ったの!」
「鋭いんだろ?」
リカルドが意地悪そうに笑う。
何だよ、全然わからないよっ!なんか、頭くるなー!
「・・・超能力者じゃないもの。言ってくれなきゃ分からない事もあるわっ!!!」
「開き直るなよ。」
リカルドは呆れた様に、そう言うと、少し戸惑った顔をみせ、そして決心した様に小さく頷き、やや上擦った声で言った。
「・・・ずっと、エミリアが好きなんだ。ずっと大切に思っている。だから、俺の側にいてほしい。」
・・・え?リカルド、今、何て????
私は、声にならずにリカルドを見つめる。
リカルドは、赤くなりながらも、しっかりと私を見つめ返す。
何だろう、すごく切ないし、どうしてだろう、涙がとまらない。
リカルドは、私の手をそっと握る。
「エミリアが、ずっと俺の心の支えなんだ。だから、・・・俺が嫌いじゃないなら、これからも側にいてくれないか。」
「リカルドを、き、嫌いになんか、ならないよ。な、なり方だって、分からない・・・でも、こ、心の支えって何・・・わ、分からないよ。」
リカルドが近づいて、そっと私を抱きしめる。
「手を、握ってくれたろ?背中を、撫でてくれたろ?」
「そ、それだけ?」
「それだけで、俺は頑張ってこれたんだ。」
「リカルド・・・。」
私がリカルドを見上げると、リカルドはゆったりと笑い、そして言った。
「俺は、・・・エミリアだけで良いんだ。だから、愛はあるんだ・・・愛しかないんだ。」
リカルドの、ものすごーく甘いセリフに・・・私は思わず、笑った。
「リカルド何それ、恥ずかしすぎだよ・・・そのセリフ。笑っちゃうよ。」
リカルドは、ますます赤くなって、誤魔化す様に、私をきつく抱きしめた。
だから、リカルドには見えて無かった、かも・・・私がものすごーく嬉しくって、ものすごーく顔が緩んでしまってるのを。
だって本当は、リカルドの馬鹿みたいに甘いセリフに、ものすごーくときめいたし、それ以上に、ものすごーく幸せな気持ちになってたんだもん・・・。やっぱり、私は確実にちょろい。でも、それでいいや。
だから、その時の気持ちは、私の一生の秘密!
そして、・・・あの言葉は、私の一生の宝物。
・・・で、私も言った。
「私も側にいてくれるのは、ずーっと、リカルドがいい。」って。
私も、リカルドが大好きだから。




