ああ、面倒くさい!補正が無いなんて!
エミリア、復活です。
ふと、目を覚ますと、私の隣でリカルドが眠っていた。
・・・いや、訂正します。ちょっと見栄を張りました。
リカルドの物凄いイビキで目が覚めました。
リカルドは、ベッドのど真ん中に仰向けで大の字になり、ものすごいイビキをかいて寝ていた。薄く開いた口の端には、ヨダレが乾いた跡まである。
昨日、あのまま眠ってしまったのだろう、制服もグッチャグチャのシワシワで、髪もヤバい感じに跳ねてる。
・・・うわぁぁ。残念だ。残念すぎる。ナニコレ?
え、リカルドって美形・・・だった、よ、ね?
しかし・・・朝チュン的シチュエーションにおいて、これは、ない。
ラノベのヒーローにあるまじき失態だよ、リカルド!!!
リカルドは、呑気な顔でグーオー、グーオーと寝てる。
ちょっとキュンとしたけど、冷静になれ、私。
これに、ときめけるとしたら・・・大概だ。
確かに、私はラノベの主人公な筈なのに、補正が無いな・・・とは、思っていた。
だけど、まさかリカルドも補正が無いとは・・・!
いや、大丈夫よ!リカルド、私がちゃんと補正を入れてあげるからね!うん・・・私が力づくでもってくから!
グッと手を握って、私は心を決めた。
うむ。確か、ラノベの美形ヒーローは睫毛が長くて、お肌には毛穴がない、はず。それを主人公が間近で見て、美しさに驚く・・・そんなシュチュエーションは定番だ。よし!
はあ、それにしても、リカルドの緩みきった顔、可愛い・・・このダラしない口の感じなんか、ちょっと堪らないんだけど。
・・・じゃなくて!違うから、私っ!!!
えーっと・・・。
睫毛が長い、よし!・・・金色の長い睫毛は綺麗だ。
毛穴が無い・・・いや、あるな。まぁリカルドは、生き物だしな・・・毛穴が無くては死んでしまう。
でも、目立たないから・・・これはギリ、無いって事にしてあげよう。補正、補正。
よし、リカルド大丈夫。顔面は大丈夫。
開いてるお口は本当はダメだけど、可愛いから、まあ良しとします。
本来なら、ヒーローは昨晩、泣いてしまった主人公を抱きしめたまま眠るべきとは思う。・・・でも、寝相は仕方ないよね・・・無意識だし。それに!大の字で寝れるって健康だって聞いた!虚弱なリカルドに健康は大切だ!・・・よし、コレも良しとしましょう。
で、問題はこのイビキ・・・だな。
ヒーローはイビキをかかない。安らかな寝息で無ければならないはずだ!
・・・どう補正しよう?
あ!鼻!
鼻が詰まってるんだ!だからイビキかくんだよーーー!・・・鼻詰まり、ダメ、絶対!
ん?・・・そう言えば、リカルドって鼻毛も金色?なんだよね?
ナニソレ、見たいんですけどー!!!
私は、早速とばかりに、リカルドの顔の下に回り込み、覆いかぶさる様にして、リカルド高い鼻の穴を覗き込んだ。うむ・・・暗くてよく見えない。ペンライトが欲しい・・・!この世界にペンライトなんて無いけど!!!
「うわぁぁぁ、エ、エミリア、な、な、な、何してんの?!!!」
私の只ならぬ気配を察知したのか、リカルドが飛び起きた。
「・・・リカルド、イビキが凄いから、詰まってるのかなーって、鼻を確認させてもらってたのよ。ついでに、鼻毛が金かも確認しようとしてたんだけど・・・よく見えなかったわ。」
「ねぇ、やめて!!!?そういう寝込みは襲うなよ!物凄い恥ずかしいんだけど!二度と見るなよ!」
リカルドは鼻を押さえて、赤くなりながら睨んでくる。
なんだよ、散々私が補正して、ヒーローに戻してあげようとしてたのに、分かってないなぁ。
「・・・ごめんね、リカルド。もう、無断で見たりしない。」
しょうがないので、私は眉を下げて謝った。
「いや、断り入れてもダメだから。・・・でも、安心しろ、俺はどこからも銀色の毛は生えてない。」
リカルドは、何故か偉そうに、そう言った。
え、ええー?
そういう心配して見た訳じゃないんだけどな???
そりゃ、殿下の銀の毛について散々悪く言ったけど、リカルドなら銀色の毛が生えてても・・・大丈夫なんだけどなぁ。
私が考え込んでいると、リカルドはフッと吹き出し、笑いはじめた。
「あー、おっかしー、人の鼻の穴なんか、見るかよ、普通ー。・・・良かった、いつものエミリアが戻ってきて。」
「リカルド・・・。」
「いいよ・・・大丈夫・・・。エミリア、おかえり。・・・昨日の話をしても、平気?」
昨日の私の様子が変だと気付いていても、リカルドは無理に聞き出そうとはしなかった。
「ただいま、リカルド。・・・うん。聞きたい。」
私は、そんなリカルドの『おかえり』が嬉しくて、やっぱり
へにゃっと笑うのだ。
そうして、リカルドは昨日の話を語り始めた。
◇◇◇
「じゃぁ、つまりはロバートは王子様だったって事?」
「うん、そういう事になる。」
私たちは、リビングにあるソファーセットに座って話している。片隅にティーセットが置かれていたので、お茶を入れ、私はそれを飲む事にした。結構、いいお茶置いてるな・・・うまい。
「辺境伯の三男ってのは嘘だったの?」
「嘘・・・ではない、かな。辺境伯の所で三男の様に育ったのだから。だけど、本当の息子ではない。・・・ロバート殿下は、国王と辺境伯の亡くなった妹君の子供だ。」
「辺境伯の、妹・・・?そんな方、お妃様にいた?」
「婚姻はされてなかった。いや、出来なかったと言うのが正しいか。そして、ロバート殿下を生むと直ぐに亡くなった。」
「・・・何故?何が、あったの?」
「ロバート殿下の母君は・・・国王が本当に愛された方だった。辺境伯の妹君という後ろ盾も悪くない。だから、婚姻自体を阻もうとする奴ら・・・2人の婚姻が面白くない人達によって、狙われたんだ。ロバート殿下の母君は、妊娠してたし、お腹の子に危害を加えられるのを恐れて、辺境伯の元へ戻ったんだ。そして殿下を生んですぐに・・・亡くなった。辺境伯は、亡き妹の忘形見・・・ロバート殿下の存在を隠し、三男として育てた。来るべき日に備えて・・・。」
そう話すと、リカルドは苦い顔をしたまま、紅茶を飲んだ。そして、話を続ける。
「殿下が、Cクラスにいたのは、有能だとバレない様にする為だ。誰かに興味を持たれて、自分の存在が明るみに出ない様に・・・。だが、俺が不審に思ってしまった。そして、ユリウス様に調べてもらった。・・・そこに目をつけた奴らがいたんだ。そして、そいつらも・・・真実に辿り着いてしまった。これは・・・俺のせいだ。俺が、嫉妬して、余計な事を・・・!だから殿下は危険な目に・・・。それを庇った君の友達まで、怪我をさせてしまった。俺が・・・!」
リカルドは、自分の髪をかきあげる様にして掴むと、そのまま項垂れ、静かに泣き始めた。
私は、リカルドの隣に移動して、背中を撫でてあげる。
「でもさ、リカルドのせいじゃないよ?悪気があって、害そうとしたり、実際に害した人が悪いに決まってる。」
「気休めだ。」
「でもさ、それ言ったら、ロバートのお母さんを守ってあげられなかった王様も悪いじゃん。お兄様だって、ロバートの事をもっとこっそり調べたら良かったじゃん。」
「エミリア。」
リカルドは私を見る。リカルドの目からは涙が溢れ、頬に流れてるから、指でそれを払ってあげる。
「それに、リカルドが調べなくても・・・いずれ判る事だったんでしょ?ロバートは立ち向かう気で、機会を伺ってたんだし。危険な目に遭うかも知れないのは、覚悟の上で学園・・・王都に来たんでしょ・・・?だったら、危ない目に遭ったのはロバートの自業自得だよね。狙われる立場だったのに、警戒を怠るからだよ。アメリアに怪我させる事になったのだって、ロバートが悪いんだよ。親しい人が巻き込まれる可能性を考えなかったのは、危機管理が甘かったんじゃない?本当なら、もっと味方を増やして安全を早くから確保しなきゃいけなかったんだよ。王位を狙う気・・・なんでしょ、ロバートは。なら、もっと早く人脈を広げて、足場を作らなきゃ。・・・アメリアが大切なら、泣いてる場合じゃないよ!だって、取り返しがつかない事になったら、後悔なんてしたって役に立たないのだから!」
「・・・エミリア・・・君は・・・意外と・・・しっかり、ユリウス様の妹なんだな。・・・似てるよ。」
「はぁ?!」
私は、嫌そうな顔になった。全く嬉しくない。
「・・・ユリウス様にも似たような事を言われたよ。」
「お兄様に似てるは、褒め言葉じゃないわ。・・・お兄様が私に似ているなら、褒め言葉だけど!」
リカルドは片眉を上げる。
「俺は、とてもじゃないけど、それをユリウス様には言えないよ。」
そうリカルドが言うと、私たちは2人でクスクス笑った。
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