ああ、面倒くさい!凡人は天才に勝てないなんて!
本年、初投稿になります!
今年もよろしくお願いいたします。
本日から、毎日8:00に更新して、最終回まで投稿しようと思っています。
今のところ、本編29話+おまけ1話の合計30話で完結予定です。
最後までお付き合いいただけると、幸いです。
お兄様は、私たちにほほ笑みかけてから、ゆっくりと殿下に向き直った。
「ご無沙汰しております。アーノルド殿下。」
お兄様・・・いや、魔王は笑みを浮かべたまま、優雅に礼を取る。
「ああ、ユリウス、久しいな。なかなか、学園では貴方とも会えない。」
「ええ、私は・・・忙しいですからねぇ。」
お兄様は、私とリカルドを後ろに下がらせ、アーノルド殿下と二人、向き合う。
「ふぅん。・・・リカルドとは会っていた様だが?」
「ええ、彼は私の・・・弟、ですからねぇ。愛する家族と会う時間はありますよ。」
「弟・・・。彼はただの・・・妹君の婚約者ではないか。」
殿下は不満げに言う。
・・・そんなにお兄様に会いたかったの、この人?
お兄様に会いたいなんて、変わってるわぁ・・・。
「でも今、お会いできましたよね?・・・もう、エミリアに時間を作らせる必要もないでしょう。さあ、ご用件を伺いましょう。・・・私に、何の用でしょうか、殿下?」
お兄様は目を細めて口角をあげ、ゆっくりと笑みの形を顔に作る・・・が、これは確実に笑っていない。
用事があるなら、さっさと済ませろといったところか。
殿下は、観念した様に答える。
「・・・ユリウス、お前は・・・誰に乗る気だ?」
「何のお話です。」
「誰を推す。」
「さぁ、何のお話なのか。」
お兄様はとぼけている。
・・・でも、なんの話だ???
私はよく分からなくて、リカルドを見やる。
リカルドは真剣な顔をしているから、何の話なのか見当がついているのだろう。
少し離れた所にいるマーガレットちゃんですら、息を飲んで見守っている。え、マーガレットちゃんも分かっているのか?!
えぇぇ・・・マジで、これ、何?誰か、説明して。
「・・・私に、賭けないか。」
「殿下、私、賭け事は苦手でして。・・・お焦りになるのも分かりますが、どちらにせよ、まだ時期尚早なのでは?・・・私とて、何も決まっている訳ではないのですよ?」
「しかし!」
「・・・妹を巻き込むのはいただけないですね・・・。それに弟は・・・私の右腕です。お分かりでしょう?」
お兄様がそう言うと、リカルドは感激したように目を煌めかせた。
え、だから何?何なの?リカルドが右腕?・・・魔王の???えっ、全然意味わかんないんだけど???
「私も、ユリウスが最有力だと、思っている・・・。」
「ありがたき、お言葉です。殿下。しかしまだ、先の事。・・・さぁ、今夜を楽しみませんか?」
???
お兄様、何が最有力???何の???
魔王の???・・・いや、すでに魔王だしな・・・?
殿下は、悔しそうにうつむく。
交渉は決裂?先延ばし?された様だ。
「リカルド、エミリア、そろそろ二人は、出発地点に向かいなさい。」
お兄様はそう言って、優雅に私達を促し、スマートに殿下たちと別れさせた。
◇◇◇
「ねぇ、リカルド、さっきのお兄様と殿下のお話って、どういう事なの?」
スタート地点に向かいながら、私はリカルドにさっきの解説をしてもらおうと思い、尋ねる。
リカルドは、今だ感動さめやらぬ様子で、お兄様が去っていった方を、熱く見つめていた。
完全に、私の質問は無視である。
「エミリア・・・俺、嬉しいよ!ユリウス様が右腕って・・・!君がいてくれて・・・!ああ!」
突然、そう言うと、リカルドは私を抱き寄せた。
はぁ?
「ちょ、ちょっと、何よ!」
私がびっくりして暴れると、リカルドは、パッと私を手放し「ごめん」と謝る。
・・・どうしよう。
リカルドも、話が通じなくなっちゃった。
私は、ふと考える。
今、リカルドに抱きつかれたけど、嫌じゃなかったな・・・。
うん、愛がなくてもリカルドは気持ち悪くない。
それなら・・・うん、やっぱり私、リカルドがいい・・・気持ち悪いのは、無理だ!
いやいやいや、それは置いといて、さっきからの疑問を解決せねば!!!全然、意味不明だ!
それに、リカルドもどうしちゃったの???
「ねぇ、リカルド、私、さっきから、話が全然分からないのだけど、説明してくれない?」
「・・・え、本当に・・・?エミリア・・・?・・・え?分からない?・・・の?え・・・?」
リカルドが驚きすぎて、しどろもどろになりながら答える。
「分からないから、聞いてます!」
なんだ、知らないのってマズいのか?だんだん恥ずかしくなってきた。
これではまるで、私がすごく鈍い人みたいではないか!!!
「はは、エミリアらしいな。やっぱり、俺がしっかりしないと、だな。」
リカルドは少し考えてから、そう言い、なぜか嬉しそうに笑った。
なんだ、こいつは。私の無知が嬉しいのか???・・・だとしたら・・・大概だ。
「で、何?説明してよ?」
私は、イライラしてリカルドに詰め寄る。
「・・・ユリウス様は今年、卒業されるだろ?その後、どうするかエミリアは知らないの?」
「え?そりゃ・・・お父様とお仕事するんじゃない?」
「まぁ、それもあるけど・・・ユリウス様は、国政に関わる。」
「え?」
「うーん・・・えっとだな・・・。エミリアにも分かるよう、簡単に説明すると・・・ユリウス様は、将来の宰相候補なんだ。ずっと家ではそれを、学ばれてきただろう?」
「え?」
「ユリウス様は宰相の家系、ロジスティック侯爵家の血縁で・・・何より、この年代でユリウス様より優秀な方はいない。」
「え?お兄様って・・・そんな賢いの?」
「エミリア・・・あんな天才、そういない、だろ???『稀代の天才』だろ?」
えええーーーー??!早く言ってよ!!!
どうりで、人生2回目なのに、お兄様には全く歯が立たない訳だ!天才、天才なのか。お兄様!!!
そうだよ、テスト前に遊んでても首席、だもんなー!
そっかー!
ああ、良かった。
私が残念だから、人生2回目なのに、全然ダメダメって思ってたけど、相手が天才だったのかーーー!
凡才×2回目じゃ、天才×1回目に勝てなくてもしょうがない!
なーんだ、ホッとした。
「リカルド、私、意外と残念じゃないのかも!!!」
私が浮かれて言うと、リカルドは呆れた顔をした。
「ユリウス様と一緒に育ってきて、今までユリウス様の凄さに気が付かないなんて・・・それを残念と言わず、何と言うんだ?!」
「ええっ?普通、気がつく???生まれた時からお兄様なんだよ?毎日見てたらアレが普通になっちゃうって!!!」
「はぁ?え?・・・普通に・・・なるか???ええっ・・・でも、ほら、ずっとその為のお勉強をされてたろ?エリオス様に勧められて、俺だってご一緒させて頂いていたんだ。エミリアだって、それは知っていたろ?・・・まさか、知らなかった・・・の?」
私は黙り込んだ。
二人はただのお勉強好きだと思ってたなんて・・・言えない。貴族の子供、すげー。くらいにしか思ってなかった。
まさか二人が将来、国政に関わる為の英才教育を受けてたなんて!
・・・ははっ、どーりで意味わからないハズだっ!
凡人に国政は無理だ。英才教育も!!!無意味っ!!!
「リカルド、私はやっぱり残念じゃないと思うわ。私は単に・・・凡人、それだけだったのよ!」
私がそう言い切ると、リカルドは、残念な者を見る目で私を見ている。
な、なんだ、その目はっ!
・・・あ、私がお兄様スゴい!!!って思って無かったからかっ?!
ですよねー。リカルド君たら、お兄様を尊敬してますもんねー。将来、宰相の右腕になれるかもなんだもんねー。頑張ってお勉強してきましたもんねー。
・・・その為に、愛がなくても、私と結婚するんですもんねー。
そこまで考えて、私は凄く悲しくなってきた。
ああ、なんだろう。切ないや。
・・・でもね、・・・私はやっぱり・・・リカルドが、いいな。