ああ!面倒くさい!魔王覚醒なんて!
そして、やってきた、度胸試し当日。
お兄様が開会の挨拶をしている。
お兄様は、雰囲気を出すためか、魔王みたいな格好をしている。
髪まで黒く染める気合いの入れ様だ。ブラックお兄様だ。
・・・生徒会の役員さん達が悪ノリしたのかな。
そんな事をしなくても、お兄様の中身は確かにマジもんの魔王なんだけど!
・・・全くもって、仮装になってない。真実の姿を晒しているだけではないか!!!
「今夜は、度胸試し大会というイベントをーーー」
私はリカルドの横でブラックお兄様の挨拶を聞いているが、頭に入ってこない。
・・・実は、すでに度胸試しが怖くて仕方がないのだ。
もちろん、私とリカルドはペアだ。
リカルドは気遣わしげに私を見てくるが、それどころではない。本当に怖くて無理、なのだ。
「エミリア、俺がいるから。」
「うん・・・。」
私が俯くと、リカルドはそっと手を握ってくれた。
それは、ちょっとだけ心強くて、私もその手を握り返した。
奥の方に、ロバートとアメリアが寄り添う様に立っているのが見えた。
2人はなんだかすでに、距離が近い。
ブラックお兄様の仕込みは完璧だ。
2人に気がついたのか、リカルドがボソリと「本懐・・・頑張れ・・・。」とつぶやいた。
何だかんだ言っても、リカルドも2人を応援しているんだろう。
・・・そうこうしているうちに、ブラックお兄様、いや魔王が度胸試しのルールを説明し始めた。
「・・・ルールはこうだ。
5分置きにペアで出発。
旧校舎の手前にある、礼拝堂に向かう。
礼拝堂の祭壇には封筒があり、それを1枚選ぶ。
その中には、旧校舎の目的地が各々書かれている。
選んだ1枚の目的地に向かい、そこで到達記念のメダルを取ったら、出発地点に戻ってゴールだ。
ちなみに、生徒会役員がお化け係で追いかけてくるから気をつけて。
捕まったら、ちょっとしたペナルティを用意しているからね。
ランタンは、各ペアに1つだ。無くさない様に気をつけて。
戻ってきた者からガーデンパーティーの会場に移動してくれ。
ぜひ、今夜を楽しんでほしい。」
真実の姿を現したお兄様、もとい魔王は、流れる様に説明を行なった。
「お兄様、似合いすぎだわ。」
私がそう言うと、リカルドは笑った。
「ユリウス様が魔王なら、妹のエミリアは魔女?」
「何それ、随分と格が下がる気がするわ!」
私は不服そうに答える。
「魔女な訳ない!エミリアは、天使だよ!いつも美しい!」
聞きなれない声でそう言われ、私とリカルドは振り返る。
そこにはアーノルド殿下とマーガレットちゃんが、ペアなのか二人並んで立っていた。
うげ。天使とか言ったのは、殿下か。キモイな・・・。
殿下は、不気味な赤い目を細め、コッチを見てくる。銀の髪に赤い目・・・お前こそ吸血鬼みたいだ。
マーガレットちゃんは・・・うん、安定の可愛さ。天使に例えるなら、どう考えてもこっちだろう。
後ろ盾欲しさに、ここまでキモイ事を言えちゃうのか。すごいな。
これを「甘い言葉」と言うなら、リカルド、君は間違っているぞ、これは確実に気持ち悪い。
私はそう思って、リカルドを見つめた。
リカルドは不機嫌を隠そうともせず、顔を顰めたままだ。紳士のリカルドにしては、めずらしい・・・。
リカルドも気持ち悪かったのか?まぁ、聞かされただけでも、ゾワッとくるセリフだ。
「お久しぶりだね、エミリア。なぜか学園では、君に会えないのだが・・・息災か?」
「アーノルド殿下、お久しぶりです。マーガレット様も、ごきげんよう。」
私は無難に挨拶する。
「殿下、マーガレット、お二人がペアなのですか?」
リカルドは顰めた顔を、無表情に戻し、二人に尋ねた。
「ええ、そうなんですの!殿下と一緒なんて、頼もしい限りですわ。」
マーガレットちゃんが、可憐にほほ笑む。
なんだ、媚び媚びだな。よくそんなセリフ、思いつくな。さすがヒロイン・・・!あざといっ!!!
くそ、私も言いたい!!!
「わ、私も、リカルドと一緒で、こ、心強い・・・です。」
言った。
言ったよ。
どうだ、リカルド。くらえ、このあざとさを!!!
私はドヤ顔になって、リカルドを見つめる。
リカルドは一瞬、目を見開き、赤くなった・・・と、思ったら、すぐにいつもの顔に戻り、
「なぁ、その顔・・・ムカつくんだけど。」
そう、私だけに聞こえる声で、つぶやいた。
ちぇ、なんだよ。可愛いとか思えよ。
「・・・それにしても、エミリアのお兄様は、さすがに有能と名高いお方だ。この様な催しを思いつくとは・・・おもしろい。感心するよ!」
「ありがとうごさいます、殿下。」
殿下、この企画、私でーすーかーらー!お兄様はパクっただけですー!心の中で叫ぶ。声には出さないけど!
「後で、ご紹介いただけるか?」
「もちろんです、殿下。」
「いや、嬉しいよ。リカルドにお願いしても、なかなか紹介していただけなくってな。」
え、あ、そうなの?
・・・あ、もしかして、紹介しちゃダメなやつ?
私は、バッと振り向き、リカルドを見る。
リカルドは、コクコクと小さく頷き、小声で「魔王が覚醒するぞ。」と言った。
お兄様を怒らせ面倒な事になると、気が付いた私は、引きつった笑みを浮かべた。
「殿下・・・すみませんが、兄は今日は忙しいみたいですので、また・・・今度。」
「おお、そうだな、今日はお忙しいだろう。私も不躾であったな。では、ぜひ・・・今度、私の為に時間を作ってはくれないか、エミリア。」
アーノルド殿下は、ゆっくりと赤い目を細め、笑みを深くした。そして、私の髪をひと房取ると、そこに口づけを落とす。それは、流れるような動きで、私は固まったまま動けなくなった。
ひ、ひぇぇえ。
まじか。これがラノベの実力か!!!こんな事する人間が実在したのか!!!
・・・しかし、気持ち悪っ!!!!
・・・切ろう、確実に!髪を、切る!その、口つけたとこーーー!!!
しかも・・・お兄様を紹介する話、無くなってないし!
なんだよ、めっちゃ悪手じゃん、これ!
だめだ・・・私じゃ、うまくかわせない・・・。断れないどころか、髪まで切るはめに!!!!
嫌だ嫌だ嫌だ。気持ち悪い。
助けてよ、リカルド!!!
私は、藁にもすがる思いで、リカルドを見つめた。
・・・リカルドは、驚愕の表情のまま、硬直してしまっている。
え?リカルド???
私が、リカルドの腕にギュっとすがると、リカルドは我に返り、苦悶の表情を浮かべたかと思うと、すぐに怒りを露わにした・・・。滅多に怒った顔を見せないリカルドが、殿下を睨む。
「アーノルド殿下っ!!!」リカルドが、殿下に詰め寄ろうとすると・・・
「エミリア、リカルド、楽しんでくれているかい?」
聞きなれた、穏やかな声が二人を遮った。
魔王・・・お兄様が降臨された。
お読みいただきありがとうございました!
今年、最後の更新になります。
年明けて帰省から戻り次第、一気に完結まで持って行きたいと思っています。
来年もよろしくお願いします!




