ああ、面倒くさい!お兄様なんて!
私とリカルドは並んで、呆然としながら、お兄様がキビキビと指揮しながら進める、ガーデンパーティーの準備を見つめている。
どうしてこんな事に!?
私は隣のリカルドを見つめる。
リカルドもおそるおそる私に視線を合わせようとしてくるが、まるで油の切れたロボットの様だ。
ギギギ・・・と首を回して、やっと私の方を向く。
「ごめん、エミリア。」
「リカルド・・・お兄様に、なぜ話をしてしまったの?」
ハハハ、ハハハ・・・とリカルドが乾いた笑いで誤魔化そうとするが、させるかっ!!!
私は睨みつける。
「リカルド、説明して!・・・やっぱり納得できない!」
「エミリア・・・まさか、こんな事になるとは、俺も・・・。」
私は睨みつけたまま、リカルドに一歩近づくと、彼は退けぞった。
私達の不穏な空気を察したお兄様が、ニコニコと近づいてきた。
◇◇◇
そう。
私とリカルドが立てた作戦、『アメリア&ロバートのドキドキ度胸試しでラブラブ大作戦』は、生徒会長であるお兄様に、見事に乗っ取られてしまったのだ!!!
お兄様は、今期の生徒会長として、ちょうど生徒会主催のイベントを考えていた。まぁ、恒例だと、ダンスパーティーなんかを企画するのだが、腹黒いお兄様は、何か特別な企画をして、己の有能さを誇示したかったのだろう。
ちなみに、学園は貴族の出会いの場でもあるので、生徒会のイベントはそれを促す側面もある。
・・・リカルドは度胸試しのみならず、『吊り橋効果』の話までお兄様にしてしまったのだ。
・・・これに真っ黒お腹のお兄様が飛び付かない訳がない。
何年後かに社交界で「私の企画したイベントがきっかけで、彼らは成婚されたんだ。」と、ドヤるお兄様が、私には簡単に想像できた。
企画がお兄様に移った事で、度胸試しは、うちの領地の『呪いの教会』から、使われていない『学園の旧校舎』に変わり、規模も全生徒となった。そして、度胸試しの後には、校庭でガーデンパーティーが開かれる。
そして今は、その準備中。お兄様は張り切って指揮を執っている。
本来なら夏休みに、ロバートとアメリアを領地に呼んで実行しよう(そして、その後は2人に観光案内すると称して遊ぼうと思ってた!)としていたのに、お兄様に乗っ取られた為に、私の夏休みは冴えないものになってしまった。(つまりは、リカルドとお兄様と領地でお勉強する羽目になったって事!まぁ、サボったけどね!!!)私の、お兄様とリカルドへの恨みは尽きない・・・!!!
そして、度胸試し自体は、規模が規模だからと、秋になって学校が始まってから行う事になった。
◇◇◇
「エミリア、リカルド。」
お兄様はニコニコと手を挙げながら、私たちに呼びかける。
「お兄様!」
私は睨む。
「エミリア、まだ納得してないのかい?まぁ、いいけど・・・あ、そうだ、『愛しいエミリア、私の側にいて』、ああ、エミリアは、本当に可愛い妹だよ。」
お兄様は、私の腰を抱き寄せ、全く私を見ずに、リカルドを見つめながら、気持ち悪いセリフを、愛しくもない妹に吐いた。
なぜか、リカルドは真っ赤になってプルプルしてる。
お兄様は、邪悪な笑みを深くして、リカルドを見つめながら、私の旋毛にキスをした。
「ねぇ、リカルド、私は簡単だと思うのだが。いくらでも、チャンスなんかあるだろう?」
「・・・ユリウス様・・・。」
リカルドは真っ赤のまま、俯いてしまう。
え、ちょっとお兄様?
何?なんなの???
なんだかよく分からないけど、お兄様はリカルドをイジメてる???揶揄ってる???
くっそー。私の企画を取り上げた挙句、リカルドまでイジメるなんて、最悪だ、この魔王め!
私は、キッとお兄様を睨み、腰に回された手を振り解いて、リカルドに寄る。
「お兄様!リカルドに意地悪してるのね?!なんなの?よく分からないけど、酷いわ!」
お兄様は片眉を上げ、薄い笑みでリカルドを見つめる。・・・この顔は、完全に揶揄ってる時の顔だ!
「・・・酷いのは、私ではないだろう?・・・なぁ、リカルド?」
「ユリウス様・・・。」
リカルドが涙目でお兄様を見つめる。お兄様は満足そうに目を細めた。
・・・ムカつく。
お兄様、ほんとムカつく。
・・・私とリカルドは、子供の頃から、割と・・・いや、常にお兄様のオモチャだ。
大抵の場合は私が標的だが、リカルドの時も、割とある。
リカルドが何で揶揄われているのかは、私にはよく分からないのだが、こうやって大抵は赤くなって俯いてしまう。・・・そういう時のリカルドは、すごく可哀そうに見える。
リカルドは、お兄様を何故か尊敬してるし、一緒にいる事も多いから、たぶん恥ずかしくなる何かを話してしまったか、気づかれてしまったか・・・とにかく、何か弱みを握られているのだ!
ここは、私が守ってやらなくては!!!
「お兄様!よく分からないけど、やめて!!?リカルドは私のなんだから、意地悪しないで!!!もう、あっち行ってよ!!!」
「私のねぇ・・・。どう?リカルド?」
お兄様が、わざとらしくリカルドの顔を覗き込む。
リカルドは固まっている。
「ね、リカルド、酷いのは誰かな・・・?」
リカルドが震えている様に見える。
・・・なんなの、お兄様、リカルドの何が酷いって言うの???
「お兄様、リカルドに絡むのやめてよ!リカルドは、酷くないでしょ?・・・何だか知らないけど!」
私がそう言うと、お兄様はフッと笑って言った。
「・・・リカルドが・・・可哀そうだ。」
「はぁ?お兄様のせいでしょ?とにかく戻って。お兄様はお忙しいでしょう?さようなら、お兄様!!!」
私はお兄様を追い払いたくて、早口でまくし立て、お兄様の背中を押し、戻るように促す。
お兄様は、揶揄う様に笑うと、
「エミリアは独占欲が強い。」
そう言って、手をヒラヒラさせて、パーティー準備の指揮に戻ろうとし、ふと立ち止まって振り返ると、こう言った。
「あ、ロバートとアメリア嬢はペアになるように、細工したよ。エミリアとリカルドもペアだ。・・・本懐が遂げられるといいよねぇ。」
お兄様は、クスリと笑うと、軽い足取りで戻っていった。




