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お兄様の憂鬱 ユリウスside

俺には5歳年下のアホな妹がいる。

そして、そのアホな妹には優秀な婚約者がいる。


俺の名前は、ユリウス・スチューデント。スチューデント伯爵家の嫡男だ。


妹の名前は、エミリア。こいつがアホ。

で、その優秀な婚約者が、リカルド・ワイブル。ワイブル侯爵家の嫡男・・・とは言え、7歳まではその存在を知らなかった。


ワイブル侯爵・・・もとい、リチャード様(こいつもアホ。)が、没落貴族の娘に産ませた、いわば隠し子、それがリカルドだ。その女に逃げられ、死んでから、やっとリカルドの存在を知り、引き取ったらしい。で、うちの親父がなんかやって、正式な侯爵家の嫡男となった。


リカルドは、アホの息子の割に、聡い子だった。

必死で貴族社会になじもうと頑張る、7歳のガキを12歳の俺が面倒見ないなんて訳、ないだろ?

俺はけっこう面倒見がいいんだ。


それに、あいつは見目も良かった。顔だけは素晴らしく美しいリチャード様に似たんだろう。

初めて会った時、天使かと思った程だ。そんな奴に、兄貴のように慕われたら、そりゃ世話も焼くさ。

・・・妹はアホすぎるからな。ま、それはそれで、可愛いんだけど。


それにだ、ちょっと教えただけで、あいつチェスを指すようになった。

俺は、当時からチェスにハマっていたから、リカルドっていう対局相手ができたのは嬉しかった。

・・・親父は強すぎて勝てなかったからね。

そして、最初は楽勝だったリカルドも、すぐに上達してきて、面白い戦いができるようになった。

あいつの手は『素直なのに意外とねちっこい』。苦しい局面でも、耐えて、耐えて、好機を待つ。

俺とは真逆だ。俺はあまり、粘らないし、チャンスは切り開きたいタイプだ。たとえ、駒を犠牲にしても。


他にも、カードゲームやら乗馬やら、男同士で楽しい事ができるのがリカルドだ。

俺は、いずれこいつがアホの妹と結婚して、本当の弟になるっていうのを、気に入っている。

ま、それは俺だけじゃなくって、親父やお袋もだけどね。


・・・あいつは賢く、すぐに何でも吸収する上に努力家だから、あっという間にアホな妹なんかより、貴族らしくなった。その上、俺が学園の休暇中に雇った家庭教師に、俺と一緒に政治・経済なんかも学ぶようになった。

そうすると、リカルドは妹を追い回して、一緒に学ぼうと言い始めた。

リカルド・・・どうして賢いのに分からないんだ?あいつはアホな上に怠け者だ。勉強なんかする訳がない。どーせ「学園に入ったら本気出す。」くらいの気持ちでいるんだろう。


ま、結果、妹はリカルドを面倒くさがる様になってしまった。

リカルドは落ち込んだけど、それでも諦めない・・・そう奴は『ねちっこい』からね。


そんなで、6年が過ぎ、俺は学園での最終学年になり、リカルドとエミリアは1年生として入学してきた。

俺は、アホの妹にはあまり関わらない事にしてるから、基本放置だし、妹はさんざんおちょくられた俺が苦手なのかあまり近づいてはこなかった。ま、兄妹なんて、そんなもんかも知れないけどね。


でも、リカルドはちょいちょい俺んとこに相談にやってくる。

・・・そう、俺達には共通の悩みがあった。


『アホの妹の実家強すぎ問題』だ。


妹の実家・・・まぁ俺の実家でもあるんだが、・・・簡単に言うと、我が家は、お買い得って事だ。

俺たちの祖父母は宰相を輩出する家系で、まぁ文官に顔が利くし、親父は王国軍でうまいことやってる・・・武官に顔が利くって訳だ。な、お買い得だろ?

ま、俺もお買い得なのは同じだけど・・・見た目と違って曲者で名高い俺を誑かそうって奴がいれば、だけどね。


妹には、リカルドが婚約者として付いてるし、俺もまだ学園にいるから、表立って狙われちゃーいないが、あいつはアホだ。簡単に誑かす事ができるだろう。確実にちょろい。

それが俺達の共通の悩みだ。


一応、妹が憧れそうな第四王子・・・アホな妹は、お袋と王子様が出てくるロマンス小説(キモイな、あれ、あんな男、実際にいるか?)にキャーキャー言ってた・・・を、入学前に軽く嘲っておいた。アホな妹は、王子に興味を無くした様だ。

正直、第四王子は何度か会ったことがあるが、まぁいけすかない奴だ。ギラギラした野心を隠さないのも、慎みがない。王ってのは、表面上はもっとエレガントでいるもんだろ。あいつはあの野心でいつか失脚しそうだし、俺は奴には乗らないね。


それに、頼むよ、妹、俺の弟はリカルドがいい。


そんなある日の昼休み、生徒会の執務室に1人でいると、リカルドが切羽詰まった様子で俺の元にやってきた。

「ユリウス様・・・ちょっといいですか・・・。」

天使が顔を歪めてる。何だ、何があったんだ。

「どうしたんだい?リカルド?」

俺は冷静に聞き返す。


「今日、とうとうアーノルド殿下と、エミリアが会ってしまいました。・・・殿下はエミリアが気に入ったみたいです。エミリアは王子様好きだし・・・。俺・・・焦ってて・・・。あのロバートって奴も怪しいし・・・。なのに、相変わらず、エミリアは俺の事、避けるし・・・。」

「リカルド・・・。」

「俺、エミリアと一緒にいたいんです!でも・・・その・・・どうしたら・・・。」


そう、こいつらははっきり言って拗れてる。思春期なのもあってか、特に最近はひどい。

俺から言わせれば、エミリアとリカルドはセット商品だ。ばら売りなんかできるものか・・・!


「・・・リカルド。君はちゃんとエミリアに気持ちを伝えたりしているのか?」

「気持ち・・・?」

「そう、君の気持ちだ。私の妹は少し単純だろ?ちゃんとリカルドが気持ちを伝えてやれば、君を大切にすると思うのだが、違うかい?」

「それは・・・そう・・・ですね・・・。」


「ああ、そうだ、この近くに妹の好きなシーフード料理店がある。デートに誘ってみたらいい。私が予約をしておくから、そこでちゃんと『好きだからこれからも、一緒にいよう。』とか言えばいいと思うんだが・・・どうだい?そもそも君たちは婚約者なんだから、気持ちが通じ合っていれば、他に付け入る隙などない筈だよ・・・ね?」

俺がリカルドとゆっくり目を合わすと、リカルドはプルプル震えて赤くなっている。

おー、いいねー。リカルドのこういう顔、嗜虐心を煽るなー。

「はい・・・頑張ります。」


「まぁ、アーノルド殿下はともかく、ロバートという男は私も少し気になるので、調べておくよ。とにかく、妹をよろしく頼む。・・・私たち家族は、エミリアを幸せにするのは君だと思っているよ・・・。私の妹には『愛のない結婚』なんて向いてないだろ?・・・リカルド、君もそう思うよね?」

俺がそう言ってプレッシャーをかけつつ笑うと、リカルドは真剣な顔で頷いた。


◇◇◇


あの後、デートの報告にリカルドがやってきて、エミリアが自分の瞳の色に似たワンピースを着てきてくれたとか、すごく可愛くて、抱きしめたかったとか、キスしたかったとか、寮まで手を繋いで帰ってとか、兄としては微妙に聞きたくない、気持ちの悪い事を言ってきた。

・・・しかし、肝心の告白はできなかったらしく、アーノルド殿下とロバートに気をつけろという警告に留まったらしい。リカルド、落ち着いて見えるが、年相応に初心だな。

あと、俺のおかげで、エミリアが王子様に関心を持たなかった事も感謝された。


・・・まぁ、普通ならこの流れで、「嫉妬して焦ってる=私が好き」くらいは気づきそうだが、相手はアホな妹だ。


多分、リカルドの気持ちは1ミリも伝わってないのだろうな・・・。


お読みいただき、ありがとうございました。

お正月期間中は、帰省のため更新が不定期になりそうです。

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