ああ、面倒くさい、婚約者なんて!
ある日、父に「婚約者が決まった。」と言われた私は、びっくりした。
だって、まだ7歳だったし、前世の記憶を思い出したばかりだったから・・・。
前世では7歳で婚約とか、まずありえない。平民だからっていうのもあるとは思うけど。
でも、確かお兄様(12歳)に婚約者がいるという話は聞いたことがなかったし、父と母も幼馴染とは聞いているが、婚約したのは結婚するちょっと前だった気がする。
確かに貴族なので、政略結婚っていうのはある。しかし、この世界では子供の頃からの婚約などというのは王族くらいのものだったはずだし、たかだか伯爵家の娘である私に7歳から婚約者が決まったというのは、納得がいかない。
そもそも、一般的なのは、大抵の貴族が通う王国の学園に入学し卒業するまでの間(13歳~17歳)に自分で相手を見つけるか、もしくは親が相手を見繕うのだ。
あまりにも子供の頃では性格や資質が分からないし、家柄だけで判断しても大抵うまくいかないからだ。
当人同士の性格があまりにも合わないと、離縁や隠し子問題がおき、資産を分割しなければならなくなったり、スキャンダルで家名を汚す事にもなりかねない。(貴族間のスキャンダルは庶民の読むゴシップ記事の格好の餌食だ。)かくれてコッソリ浮気なんてのはあるのかも知れないが、そのへんを割り切って協力し合うくらいはできないと、不味いのだ。
資質も重要だ。特に令嬢しかいないお婿さんが欲しい家は、自分の領地を任せられるくらいの才能ある者でなくては困るし、領民に好かれる様な人物であるのも重要だ。だからそういう家は、ある程度は身分よりも学園での成績や人柄で相手を探している。
お父様に呼び出された書斎で、私はおそるおそる聞いた。
「お父様、7歳で婚約とか、普通の事なんでしょうか・・・?」
お父様は少し驚いた顔をした。普通ならお父様に言われた事なら「はい」一択なのだろう。でも前世を思い出した私は疑問しか湧かなかった。
「そうだね、普通ではないかも知れないね。実はね、私と親友は、彼の息子とエミリアを結婚させる事を、昔から決めていたんだよ。だから、そろそろ君たちを会わせようかと思ってね。」
「お父様の親友・・・?」
「そうだよ、リチャード・ワイブル、よく遊びに来る、ワイブル侯爵は知っているだろう?彼の息子のリカルド・ワイブルがエミリアの婚約者だよ。すごくいい子なんだって!」
お父様はちょっと早口に答える。すこし焦っているみたいだ。
しかし・・・、お父様、婚約者が決まったとか言ってたけど、決まっていたの間違いじゃないか・・・私はお父様にちょっとイラっときた。
「お父様?決まっていたのでしょ?なんで急に・・・???」
「エミリア・・・いろいろ事情があるんだよ。」
「事情・・・?」
・・・てか、ワイブル侯爵???
私はワイブル侯爵を思い出し、ちょっと切ない気分になった。
そう、ワイブル侯爵はよく家に来る、ものすごーくチャラい美形のおじ様だ。
もう、30代半ばに差し掛かろうというのに、絵本の中の王子様みたいな金髪碧眼の、それはそれは見目麗しいおじ様なのだ・・・が。
父様とは幼馴染で親友で、ものすごーく仲良しだ。つまりはお母さまの幼馴染でもある。もともとは、両家はおじ様とお母さまの結婚を望んでいたらしい。それもあってなのか?詳しくは不明なのだが、お父様はリチャードおじ様に甘い。お父様の腹黒どこいったという感じで甘いのだ。
若干、おじ様をバカにしている感はいなめないが・・・。
リチャードおじ様は、存在がすべて軽い。態度もだけど、7歳の私にも分かるくらい、頭も軽い。
侯爵家もリチャードおじ様のせいで、下降気味とも聞く。そして、困るとすぐにお父様に泣きついてくる。そのうえ、遠くに住んでいるはずなのに、侯爵様は忙しいはずなのに、月に一度は家に来る。
「エリオスに会いたくなっちゃったー。」とか言いながら、トラブルと共に・・・。
私は、リチャードおじ様のことを思い出しながら、疑問符でいっぱいになった。
「お父様、リチャードおじ様って・・・結婚してたんですか?」
そう、私の記憶にはおじ様が結婚していたのも、息子が居ることも、全くなかったから。
お父様は、ちょっと苦笑して、すごく言いにくそうに、
「うん、そのね、リチャードは結婚はしてないよ。ええと・・・エミリアはまだ子供だから、よく分からないかも知れないけど・・・結婚しなくても子供はできるんだよ。でね、先月なんだけど、リチャードに息子ができたんだ!なんと、エミリアと同い年の!びっくりだよねー。」
・・・なんとなく事情は分かった。とりあえず私は7歳らしく、
「リチャードおじ様ってすごいー。結婚もなさらずに、7歳の子供を授かるなんてー。」
とか言ってみた。
お父様は、にっこり笑うと「リチャードは天使だからね。」とのたまった。
・・・ああ、婚約者なんてめんどくさい。