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ああ、面倒くさい!ロマンス小説なんて!

リカルドは自分の席に戻り、フィンガーボールで執拗に指を洗っている。

私が「手、蟹臭い。」と言ったからだ。


リカルドが、フィンガーボールに夢中になっている間に、先ほど彼が触れた頬をナプキンで拭う。

顔が蟹臭いのは、困る。なんか痒くなりそうだし・・・。

ゴシゴシ顔を拭いていると、驚愕の表情でこちらを見ているリカルドと目が合った。


「ごめん。蟹臭いから・・・。」


リカルドは、さらにしつこく指を洗った。


◇◇◇


「で、話って、なんなんだったの?」

私が尋ねると、リカルドは指を洗うのをやめ、少し苦しい顔になり、私をじっと見た。

「エミリア・・・その・・・さ。」

「婚約破棄じゃないなら、もったいぶらずに話してよ!だから勘違いして泣いちゃったんじゃない!」

「あ、ああ。ごめん、どう言ったらいいか、分らなくて・・・。」

そう言うと、リカルドは決心した様に、キッと目を開き、

「あのさ、エミリアは・・・アーノルド殿下って・・・どう思う?」

と、聞いてきた。


「アーノルド・・・殿下・・・?」

「そう、今日、お会いしたろ?・・・なぁ、どう思った?」

「どうって・・・。」


私は、そもそも何でここにアーノルド殿下の話が出てくるのか、分からなくて、キョトンとしてしまった。・・・それに、なんで、それが聞きにくいの???


それに・・・どう思うって・・・。

うーん。

アーノルド殿下・・・ねぇ・・・。


「2位の人?」


「は?」


「アーノルド殿下は、2位の人なんだーって思ったかな。」

「え???えっと、他には???他には何かないの???」

「ええー、もっと言うの?・・・うーん・・・ええー、思いつかないよ!だって、ちょっと廊下で自己紹介し合っただけじゃない?関わりないし、どう思うも何も・・・なくない?」


そうすると、リカルドは、少しイライラした様に、問い詰めてきた。

「でもさ、ほら、殿下ってすごくカッコいいだろ?エミリアが大好きな王子様だし!」


「・・・え、王子様好きって、私にそんな設定あった・・・?」

「あるだろ?!ほら、よくユリア様と読んでるだろ、ロマンス小説で・・・『冴えない』主人公と王子様が恋に落ちて・・・っての!」


「な、な、な、なんでリカルドが私とお母さまが読んでる本の内容を知ってるのよ!!!」

私は、赤くなってリカルドを睨みつける。

「ユリウス様が・・・あいつら、こんなの読んでるんだぜって・・・。」

「お・・・お兄様、最低!!!」

あの、くそ兄。絶対お母さまに言いつける。ついでにお父様にもだ・・・!


「ん・・・?ま、まさか、リカルド、私がアーノルド殿下を好きになったとか思ったって事???」

「んーいやぁ・・・ちょっと会っただけだろ?さすがに、そこまでは思ってないけど、その・・・エミリア、『冴えない』主人公と王子様って設定、好きみたいだし・・・殿下にときめいたりしてんのかなぁー・・・って。」


私は、こめかみがピクピクしてきた。なんだろう、さっきから『冴えない』『冴えない』と・・・!

「はぁ?・・・私が『冴えない』って、間接的にバカにしてる?!」

「いやいや、そうじゃなくって・・・でも、感情移入できるんだろ?主人公に???」

「それは・・・!・・・そうだけど・・・!!!」


確かに、冴えない主人公と素敵な王子様とのロマンス小説は・・・ときめいた。


だけど、それを!リカルドに!内容まで知られて!それを!バカに!される!・・・とは!!!

私は、怒りなのか恥ずかしさなのかよく分からない(いや、どっちも?)気持ちで、泣きそうになりながらも、リカルドを睨んだ。


「そんな顔、するなって・・・で、殿下をどう思った?」

「そんな顔って、どんな顔よ!」

「赤くなって涙目で上目使いって、かわいす・・・。あ、いや・・・いい!そうじゃなくって、殿下だよ。殿下!かっこいい王子様だぞ・・・?」


なんだ、必死だなリカルド。


まさか、私を王子様に押し付ける気か?

そして、マーガレットちゃんとハッピーエンドか???

やっぱり婚約破棄じゃーーーんーーー!!!


だ・・・だめだ、冷静になろう、私。

さっき妄想で暴走して、泣いたばかりだ。ちゃんと聞こう。


「リカルド、貴方は殿下に私を押し付ける気なの?」


「はぁ???なんでそうなる???」

「???違うの???」

「断じて違う!!!俺は!殿下の!印象を!聞いているんだ!!!」

リカルドが、キレた。


「・・・うーん。印象ねぇ・・・。怖そうな人って思ったけど。」

「怖そう?・・・カッコいいだろ???」

「ええー。確かにさ、美形だとは思ったよ。でも、目が赤いじゃない?赤い目って、怖いよ。髪が銀色なのも、怖いよ。髪はまだいいけどさ、体毛すべて銀色なんだよ?毛穴から銀色の毛が出てくるんだよ・・・怖くない?」


・・・そう、前世の記憶がある私には、赤い目や銀の髪ってのがちょっと受け付けられない。

マーガレットちゃんのピンクブロンドですら、ええ・・・って思う。

二次元では不自然じゃないのかも知れないけど、これは現実だ。当たり前だけど毛は毛穴から生えている。そこから・・・銀色やピンクの体毛・・・産毛や髭も・・・ぞわっとくる!!!

・・・下世話な話、脇毛や下の毛も・・・ひゃぁーーー!!!無理、無理、考えただけで気持ち悪ーーーい!!!


リカルドは困惑している。


「なぁ、青い目は怖くないのか?」

「青い目は、怖くないでしょう?え?なんで?」

「・・・金はいいのか?・・・体毛も・・・金だぞ?」

「金は、ありじゃない?毛穴から生えても許せる色だよ?」


リカルドは、うーんと首をかしげている。

考えこまれても・・・この感覚は説明しようがない!!!


「うん。まぁ、よく分からないけど、分かった。エミリアは、アーノルド殿下が怖いと思った。そういう事なんだね?」

「そうね。あと、2位。」

「怖くて、2位ね。」

「うん、そんなとこ。・・・に、してもリカルドずいぶん殿下を気にしてるじゃない?何なの?」


私がそう言うと、リカルドは思いっきり顔を顰め、言いにくそうに言った。


「アーノルド殿下は、エミリアを狙ってる。さらに言うと、俺と君を婚約破棄させて、自分が婚約者になろうとしている。」


「え、・・・殿下が・・・まさか私に一目ぼれ?!」


私がガタリと椅子から立ち上がり、ときめいた気持ちでいっぱいになる。

確かに、殿下の見た目は不気味だけど、王子様に一目ぼれされちゃうなんて・・・!!!


やっぱり・・・私、マジ主人公!!!


私が、うっとりとしていると、ものすごくー冷たい声で、リカルドが言った。

「いや、君の実家の後ろ盾狙いだよ。殿下は、王位継承を狙っている。」


私は、ストンと椅子に腰を下ろし、・・・両手で顔を覆った。

恥ずかしい。なんだよ、それ。

・・・そして、王子・・・お前もか!!!


リカルドはなおも続ける。

「だからエミリア、十分に気を付けるんだ。アーノルド殿下がどんなに甘い事を言っても、君の実家狙いなんだから、な?絶対に騙されるなよ?エミリアは・・・愛のない結婚なんてしたくないだろ?」


リカルド・・・お前がそれを言うな・・・!!!


私はそう思ったが、どうせ愛が無いなら、見た目が不気味なアーノルド殿下より、見慣れたリカルドの方がマシなので、「うん。」と短く答えた。


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