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ああ、なんて面倒くさい虚弱体質なんて!

リカルドは、体が丈夫ではない。

いや、はっきり言うと虚弱体質なんだと思う。

すぐに熱を出すし、風邪なんかも拗らせやすく、かつ長引いてしまう。

それは、知り合った7歳の頃からずっとで、私の家に滞在する短い間にも、しばしば熱を出していた。


リカルドのお父様、リチャード様もそうらしい。


ただ、リチャード様は無理とかしないタイプだから、あまり心配はないらしいけど(お父様談)、リカルドに関してはそんな事ないと思う。

・・・リカルドは確実に無理をするタイプだから。

その上、プライドが高く、自分が虚弱である事を弱みだと思っているから、完璧な仮面でしんどいのを隠してしまう。


だから、私はリカルドの小さな変化を見逃さない。それは小さい頃からずっと、ずっとだ。

奴が無理をして酷い目を見るのを、何度も目の当たりにして、私が一緒にいる間くらいはリカルドの体調に気をつけてあげようと思っている・・・一緒に努力はできなくても、そのくらいは力になりたいって思っているから。


リカルドを改めて見つめる。

やっぱり、顔が赤い。

サンドイッチには手をつけてるから、まだ食欲はあるみたいだけど・・・。


もう初夏にさしかかるとはいえ、夕方は少し冷えるし、今日は風が冷たかった。

中庭で長く話し過ぎたのが悪かったのかも知れない。


「ねぇ、リカルド、私、寮母さんにお願いして薬湯をいただいてくるわ。ね、ちょっと待ってて。」

私は、そう言うと、慌てて寮母さんの所に向かった。

「ちょ・・・エミリア!!!」


◇◇◇


コンコン

「はい。どうぞ。」

ノックして、寮母さんの返事をまってお部屋に入る。


フォン・ミューゼス先生は、この寮の寮母さんだ。

とてもお優しく白髪でふくよかな年配の女性で、夜間でも困ったことがあったら、快く対応してくださる方だ。


「失礼します。エミリア・スチューデントです。」

「どうされましたか、スチューデントさん。」

ミューゼス先生は、優しく尋ねてくださる。


「すみません、こんな遅い時間に・・・あの、友人が・・・熱っぽいみたいで、薬湯をいただきたいのです。それで、私、すごく心配で、あの・・・今夜、友人に付き添っていても大丈夫ですか?」

「お友達が、熱っぽいのですか?」

「そうなんです!・・・いっつも無理しちゃって、熱が出ても無理するんです。それに・・・。あ、いえ・・・えっと、だから、私・・・ついていてあげたいんです。」

「スチューデントさんはお友達思いなんですね。ええ、もちろん大丈夫ですよ。今、薬湯をもってきますね。」

ミューゼス先生はそう言うと、奥の部屋から薬湯をもって来てくれた。

「ありがとうございます!!!」

私はそう言うと、急いでリカルドのいる食堂へ戻った。


「あ、ところでスチューデントさんお友達ってもちろん女子ーーー」

ドアが閉まる直前に、ミューゼス先生が何か言っていたが、先を急ぐ私の耳にはよく聞こえなかった。


◇◇◇


食堂に戻ると、先ほどの席にリカルドが座って待っていた。

良かった・・・薬湯いらないって帰ってしまってたらどうしようかと思った。


「リカルド、薬湯、いただいてきたよ!」

私がリカルドに薬湯を渡すと、リカルドは渋い顔をしている。

「いや、いらないと思うんだけど・・・。」


「いるよ、いる。ちゃんと飲んでよ・・・あ、さっきよりは顔、赤くないみたいだけど・・・でも飲んで!!!」

リカルドは「ああ・・・」と言うと、しぶしぶという感じで薬湯に口をつけた。


「それでね、リカルド、わたし心配だから、今夜はリカルドについていてあげるね。さっきミューゼス先生にも許可をいただいてきたわ!」


リカルドはブフォっと薬湯を噴出した。


「え、ちょっと汚いし!・・・いつものより苦かった、それ?」


リカルドはまだゴホゴホと咽せている。しかも真っ赤だ。やばい、熱が上がってきてる?!


「ちょっと、大丈夫、リカルド?ほら、それ飲んだら、はやく部屋に戻ろ?ね?」

私が促すと、リカルドはものすごく怒っているのか、こっちを睨んできた。


「え?・・・あ、あの、先生にリカルドの名前は出してないよ?その・・・体弱いの知られたくないんだよ・・・ね?だから、ほら、安心して。」

リカルドは深いため息を吐いた。


「ねえ、エミリア、君についていてもらう必要は・・・ない。」

「何言ってるの?・・・リカルド、お熱の時はいつも、うなされて泣いてるじゃない。私、一緒にいるから、ね?手を握っていてあげるわ。」

「エミリア・・・それは・・・。」

「前に、熱が出るとすごく寂しくなるって言ってたじゃない。お母さまと二人で暮らしてた時、熱が出ても一人で寝てなきゃいけなくって、このまま一人で死んでしまうかもって、不安になって、泣きたくなったって。お母さまも、お若いのに、病気で簡単に亡くなってしまったから、自分もそうなるんじゃないかって。だから、私、お熱の時はリカルドを一人にしたくない。今までずっとそうしてきたじゃない?・・・それに、先生も許可して下さったんだよ、だからね?」

私がそう言うと、リカルドは複雑な顔をしていたが、少しあって

「・・・エミリア、一緒にいてくれなくても大丈夫だ。俺だって子供じゃないんだ。もう。」

ときっぱりと言った。


「それは・・・そうなのかも・・・しれないけど・・・でも、私は・・・リカルドが心配で・・・寂しい思いもして欲しくなくって・・・。」

そうだよね、確かにいつまでも子供じゃない。だけど・・・。私がうつむくと、リカルドは、

「でも・・・部屋までは送ってくれる?」

そう言って、私の顔を覗き込んだ。その顔は優しくて、私は嬉しくなって、コクコクと頷いた。


◇◇◇


リカルドを、部屋の前まで送ると、私は

「もう寝るんだよ?勉強しちゃダメだからね?・・・あと、本当に大丈夫???」

確認のためにもう一度聞いた。


そうすると、リカルドは何を思ったのか、少し苦しそうな顔になった。


そして、私を急に抱きしめてきた!!!

え???


ぎゅっと強く抱きしめてくる、リカルドの体は、ものすごく熱くて、心臓の音も大きかった。

私より、頭が1つ分くらい大きいリカルドは、わたしのつむじあたりに顎をのせて、「はぁ・・・。」と切なそうにため息を漏らす。


やばい・・・完全に熱ありますやん。これ。しかも寂しくなってるじゃん!


だから、焦った私はリカルドの背中に手をまわし、背中を撫でてあげる事にした。

前世で、背中を撫でると落ち着くって、聞いたのを思い出してから、いつもこうしてる。


私が背中を撫でてやると・・・リカルドはピクっと反応して、ガバッと私から離れ、「おやすみ!」と言ってすばやく部屋に入ってしまった。


カチャリ・・・とリカルドが鍵を閉めた音を聞いた私は、自分の部屋へと戻る事にした。

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