ああ、面倒くさい!リカルドの思惑なんて!
リカルドは顔が完全に怒っている。
二人きりだと、私の前でリカルドは表情や感情を隠さなくなるし、言葉遣いも荒くなる。
まぁ、リカルドの事情を知ってるし、取り繕うのがめんどうなのだろう・・・。
美形は怒ると迫力あるな・・・なんて思いながら、見つめると、盛大な溜息をつかれた。
「エミリア、俺は君との婚約を絶対に破棄しない。」
リカルドは私としっかり目を合わせて、はっきりと言い切った。
「いや、でもね、すごくかわいくって、リカルドの理想のレディーが現れちゃうかも!頭も良くって、努力家で、生まれながらの侯爵夫人!って感じの人が現れちゃったら、私なんか仕込むよりそっちが良くなっちゃうでしょ?!そしたら、婚約破棄だよ!」
私はまくしたてる。
リカルドは、少し考えて
「それでも、君を選ぶよ。俺は絶対に君と結婚する。」
真顔で私に言った。そしてとても素敵な笑顔でほほ笑んだ。
え?
え?
ええー???
あんまり感じた事なかったけど、もしかしてリカルドって私のことずっと好きだったとか?!
いやぁーーーない、ない、ない・・・いや、ある?
あるのか?
そ、そうだ、あるよ、ある、あるーーーラノベでは私が主人公でリカルドはそのお相手だ!!!
「リ、リカルド・・・もしかして、リカルドは私の事・・・ずっと、す、好―――」
「俺はエミリアと結婚して、君の家の後ろ盾が欲しい。」
赤くなりながら、言おうとしたセリフを私は飲み込んだ。変な声が出そうになったが、それも同時に飲み込んだ。
リカルドはまぶしい笑顔で続ける・・・。
「君の家の後ろ盾は、心強い。俺は、父上に後ろ盾など、期待できないからな。・・・すでに我が家は、スチューデント伯爵・・・君のお父様、エリオス様の協力なくしては立ちいかなくなっている。成人してすぐに俺が父上から侯爵家を継いだところで、君のお父様にご教授願わねばならない事ばかりだろうし、そもそも、エリオス様は有能であると名高いお方だ。それ以降も、きっと侯爵家の力となって下さる。・・・それに、次期当主である君のお兄様・・・ユリウス様もたいへんに優秀なお方だ。この学園でも首席であると聞く。今も懇意にさせてもらっているし、お互いに当主となった暁には、協力していこうと、すでに話しあっている。・・・加えて、君のお母さま、ユリア様は、多くの宰相を輩出された名家と名高いロジスティクス侯爵家の出だ。現に今も君のおじい様でもある―――」
「リカルド、もういい。」
私は半笑いで、リカルドを止めた。
なんか、もう聞きたくない。
変な妄想した私を、全力で殴りたい。
はい、そうです。このリカルドに私が思われてる訳がない・・・。
リカルドは熱弁半ばで止めれらて、少し不服そうだ。
「ふん・・・まぁいい。・・・だからエミリア、俺は絶対に君を手放さない。」
ああ、こういうのラノベに転生したからには、言われてみたかったセリフだわ・・・なんて思う。
こんな意味じゃなきゃね!!!
リカルド、後ろ盾狙いかーーー!私のヒーローどこいったーーー!!!
「まぁ、俺が誰かに恋したとしても、婚約解消なんてありえない。だから、安心して。」
「はぁ。」
「もちろん、君が誰かと恋しても、俺は気にしないよ。君と結婚して、君の家の後ろ盾が得られるなら、君の純潔だって問わない。スキャンダルは困るし、やめて欲しいけど、そういうのは全力で潰すつもりだから、好きにして構わない。もちろん、俺にふさわしくあるよう、努力してもらえると、俺はさらに君を大切には思うだろうけどね。もちろん、君を頑張らせる努力も俺は惜しまない。」
私の手を取り、リカルドはニコニコと話を続ける。
「俺だって、まだ12歳だ。これから誰も好きにならないなんて約束はできない。だから、もしかしたら、誰かと一時的に恋人になるかも知れないし、女遊びをするかも知れない。俺は誠実だから『俺は一生、エミリアだけを愛する!』なんて軽薄な約束はしない。だけど、俺が俺でいる限り、結婚するのは君、エミリアだ。それは絶対に変わらない。」
爽やかに言い切ったけど・・・最低だな、リカルド。
お前の誠実ってなんだよ。