ああ、なんて面倒くさい!人生2回目なんて!
小さい時から、なんとなく違和感があった。
ちょっとした時に「ああ、それ知ってる」とか「ああ、前もそんな感じだった」とかそんな違和感。
だから、もしかしたら私には前世の記憶が残っているのかも知れないな・・・なんてほんの子供の頃から思っていた。
だから、7歳になった頃にベッドから落下するなんていう、ささいな事で、それらを一度に思い出した時も、そこまで驚きはしなかった。
ただ「人生2回目とかめんどくせー!!!」としか思わなかった。
私の前世は平凡な大学生だった。バカでもないけど優秀とも言えない、それなりな大学に、頑張って入学した。大学は楽しくて、友達もわりといた。本当に普通の女の子だった。
そしてある日、交通事故で死んだんだ・・・。
そんな私には転生しても知識チートなんかなかった。
社会人経験も無いからお子ちゃまで処世術も知らないし、政治や経済といった専攻じゃなかったし、ここは異世界だから受験でそれなりには頑張った国語・歴史・英語・化学・・・そういう学力チートも意味がない。数学、いや算数くらいは役に立つかも知れないが。
つまり、勉強は一からやりなおし。
社会性や常識だって学びなおしだ・・・。
だって、今世のわたしは貴族なのだから・・・マナーや教養、ダンスに社交・・・ほんと前世なんて役に立たない。ただただ2回目っていうのが、さらに面倒くささを際立たせるだけだった。
◇◇◇
私の名前はエミリア・スチューデント。
けっこうやり手な父をもつ、伯爵家の令嬢だ。
ちなみに父の名はエリオス・スチューデントといい、今は王国軍で第三隊の隊長を務めている。
スチューデント家は多くの武官を輩出している家系であり、その中でも父は有能であると名高い。
父は武官でありながらも政治手腕を持ち・・・ああ、説明が面倒だ。
つまりは筋肉なのに腹黒なんで、脳筋の多い軍部で、非常にうまい事やってるのだ。
脳筋どもをコロコロ転がし、カリスマ的存在として慕われている。
濃い茶色の髪に濃い茶色の目、ワイルド系の顔立ちに立派な体躯、そんな偉丈夫がお父様だ。
母は父の幼馴染で、ユリア・スチューデントという。
腹黒の父とうまくやれるだけあって「ど天然」だ。
母は父とは幼馴染だが元々は侯爵家のご令嬢で、とっても優雅かつのんびりした性格をしている。
母は「私がエリオスを大好きで、どうしてもと私のお父様にお願いして結婚したのよ!大恋愛なの!」などと言っているが、私は腹黒いお父様がお母さまを嵌めたと確信している。
たぶん、ずーっとお父様はお母さまを狙ってて、そう誘導したに違いない。
淡い金髪に薄いブルーの目、優し気な顔立ちの可愛い系なのに立派なお胸を持っている、天然巨乳がお母さまだ。
ちなみに、私には兄もいる。
兄の名はユリウス・スチューデント。私の5歳年上の兄は、見た目はお母さま中身はお父様という・・・優し気な顔立ちなのに腹黒という、妹としては残念な仕様だ。それなり仲良しではあるけど、男女かつ5歳も離れているため、一緒に遊んだ記憶はあまりなく、お兄様に嵌められたり、揶揄われた記憶が大半を占めている・・・いちおう、私には前世の記憶があるはずなのだが、兄には太刀打ちできないあたり、やっぱり人生2回目なのに、私の前世は、なんの意味もないのだなと実感してしまう。