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9 お兄様の優しさ


「晴れたーーー!なんて良い天気なの。やっぱりオーガストお兄様の素晴らしさは、天も知るところなんだわ!」


「楽しみにしてるニコラの顔を曇らせるなんて、神様でも出来なかったんじゃないかな?」



いいえ、この世界を管理してる神は、私の顔を曇らせて楽しむクソ邪神野郎が代表です。


率先して、私の嫌がる事をするクソ邪神野郎です。送り出した私の事なんて、もう知ったこっちゃないと、多分寝てるかサボるかしてるんです。仕事してたら、間違いなく嵐を引き起こしてます。



なんて事は言えないので、お兄様の言葉をサクッと流して、馬車へ荷物を積みこむのを手伝う。



「裏山へは馬車で行けるんですね」


「流石に中腹より上は、道が狭いし悪いしで無理だけどね。今日は、新しい作物を栽培し始めた村へ定期監査に行くだけだから問題ないよ。

山道とはいえ、村へ続く道だから馬車くらいは通れるし、舗装も割とされているから、馬車での移動が可能なんだ。流石に馬に乗ってしか行けない場所だったら、大切なニコラを連れてなんていけないかな」



さあ、準備出来たよと、お兄様が私の手をとり、馬車の中へとエスコートしてくれる。乗りなれていない私のために、座席にフカフカのクッションが用意されているあたり、お兄様の完璧さを物語っている。


頭も顔も性格も良くて、エスコートも完璧なんて、モテる要素しかないのに、職業のせいで縁談がいまいちパッとしないのは、本当に勿体無いと思う。軍師格好良いのになー。


ヴォルフガング家より格下の爵位であるにも関わらず、婿に貰ってやるという、上から目線で縁談を持ち込む馬鹿の多い事、多い事。



結局、誰を次の当主にするかを、お父様が明言していないので、縁談は進んでいないのだが、お父様はユージンお兄様を当主にしようとしているのだと、なんとなく思っている。


ユージンお兄様が正妻の息子というのもあるが、ユージンお兄様の職業が剣聖Aなのだ。強さこそ絶対正義のヴォルフガング家でなくても、この脳筋世界では羨望の眼差しで見つめられる存在だ。


下のファーガスお兄様はランサー(槍使い)Bなので、年齢的にも職業的にも、ユージンお兄様を差し置いて当主になれるとは思えない。



ならば、何故さっさとユージンお兄様を当主にすると明言しないかというと、まだ学園をちゃんと卒業していないので、本当に当主たる資質があるのかと問う、反対派が五月蝿いからだろう。

学年主席が取れるかはさておき、卒業しさえすれば、ある一定のレベルには達したと言う事が出来る。


実際、お父様も学年主席には一度もなれなかったようだが、当主としての務めは果たしているので、『学年主席にもなれない人間が当主だなんて!』と言う事は、すなわち、お父様に喧嘩を売っているという事になる。


脳筋馬鹿共も、現当主に喧嘩売るほどの馬鹿ではないので、恐らく丸く収まるだろう。



まあ、私が察しているくらいなので、オーガストお兄様も当然気がついているはずだ。


お兄様の出来なら、さっさと見切りをつけて家を出ても、就職先に困らないと思うのだが、それでも実家を離れないのは、私とお母様がいるからだろう。



お父様は流石に年の功というか当主様というか、それなりに使える脳味噌を持っているようなのだが、それでもお兄様の頭脳には敵わない。



そもそも、まともに四則演算出来る人間が、この家に数人しかいない。小学生レベルか、それ以下だ。

それで、どうやって帳簿などをつけられるというのか。オーガストお兄様という存在がいなければ、この世界の人間は計算すらまともに出来ないと思い込む所だった。



『流石に、商売関係の職業持ちの人は、計算出来る人が殆どだよ。計算系のスキルがあると、うちみたいに貴族に雇われる人も多いし。まあ、その代わり頼りすぎると、お金を誤魔化されるけど、その人以外わからないから、大体が露見しないみたいだね』と、オーガストお兄様が何とも言えない顔で教えてくれたのを、今でもよく覚えている。



そんなわけで、お父様からすれば、頭が良く、裏切られる可能性が少ないオーガストお兄様を、自らの脳味噌代わりに手元へ置いておきたいのだ。

なので、今回も面倒くさい仕事をお兄様に押し付け、自分は鍛錬に時間を費やしているというわけだ。



お陰で、お兄様と遠出が出来るのは嬉しいけれど、私とお母様を人質にとっての命令だと思うと、素直に喜んでいいのか迷う所である。


ごめんね、お兄様。


今はまだ、逃げ出して生きていく力はないけど、自分の身の安全のためにも、大好きなお兄様のためにも、早くこの家を確実に逃げ出す力を身につけなければ!



「何か考え事でもしてるの?また眉間に皺が寄ってるよ?」



再度、逃走の決意を固めていると、私の顔色を読んで、クッキーを差し出してくる優しいお兄様。



「甘いも食べると、幸せになれるよ?」


「では、お兄様も一緒に食べて、幸せになりましょう!はい、どうぞ!」



差し出されたクッキーに手を伸ばし、お兄様の口元へ運ぶ。困った顔で笑いながら、それでも口にしてくれるお兄様に、この優しいお兄様には、なんとか幸せになってもらわなければと、心から思うのだった。



前世も今世も、友達いないから、

一人語りが多い残念ヒロイン。


そろそろお話を動かしたい。

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