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8 お兄様とブラコン


「ニコラ、ちょっと用があるんだけどいいかな?」



さっそく手に入ったばかりの造形スキルを検証するかと思ったところで、部屋の扉が叩かれ、外から声をかけられる。



「大丈夫ですわ、オーガストお兄様。どうぞお入りになって」



入室の許可を出せば、後ろで一つにまとめられた銀髪をフワリと揺らしながら現れるイケメン。


オーガスト・ヴォルフガング。


ヴォルフガング家の長男ではあるが、正妻ではなく、側妻の長男という複雑な立場にいるために、色々と苦労が絶えないらしい、お兄様である。


ヴォルフガング家当主のお父様は、正妻1人と側妻1人、計2人の妻を娶っていて、それぞれが2人ずつ子供を産み落としている。


側妻の方が先に子を産んだが、正妻実家の方が格が上であるため、先に産み落とした方が正妻というわけでもないらしい。



そのため、側妻だが長男のオーガストお兄様を跡取りにするか、正妻の息子のどちらかを跡取りにするかで、何やら血族間で揉めているとかいないとか。



前世では、爵位や貴族社会(受験に不必要な知識)に全く興味がなかったので、記憶を取り戻してからも、正直「へー、ふーん」といった感想しかなく、知識もさして増えていない。



まあ、10歳までに逃げ出すしね!

そんな事を覚えている暇があったら、食用植物でも覚えてた方が、よっぽどいいわ。



だから、私の人生に関わってくる部分といえば、次男と三男が正妻の息子で異母兄弟。

オーガストお兄様と私が側妻の子……つまり、同じ母親から産まれた子供であるという、その事くらい。



異母兄弟にあたるお兄様方は、野心満々、我こそがヴォルフガング家の正統な跡継ぎである!という事を全く隠さないお人柄なので、オーガストお兄様と私は勝手に敵認定されている。



女性当主は認められていないので、私はお家騒動に関係ないと思うのだが、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いのか、側妻の娘である私の顔を見れば睨むわ、舌打ちしてくるわで、正直印象は最悪だ。


女=弱者みたいな思い込みもあるらしく、強さこそ正義のヴォルフガング家に女子がいる事自体が気に入らないようでもある。


両親は、後を継ぐ事がない私には無関心気味であるし、異母兄弟とお義母様は、側妻の子を敵認定。

そんなわけで、私の意識がなかった時のニコラが3歳まで無事に育ったのは、偏にオーガストお兄様のお陰だと思っているので、顔も性格もいいオーガストお兄様が、私は大好きだ。


気をぬくと表情筋が仕事をしなくなるので、だらしない顔を見せないようにするのが大変である。



「ずっと自室で本を読んでいたの?たまには外の空気を吸うのも、いい気分転換になるよ?」


「ええ、普段は適度に庭の散策などするのですが、今はなんというか……学園がお休みでしょう?」


「ああ、なるほど。あの二人は昨日帰ってきたんだったね。その様子だと、さっそく何か言われたわけだ」


「ただお帰りなさいませとご挨拶さしあげただけでしたのに、力にも目覚めていない女如きと話すなど不愉快だと言われましたわ。

なので、あのお兄様方がいる間は、なるべく自室にいるようにしましたの。どうせ何時ものように、2、3日したら裏の森で日がな走り回っているのでしょうから、少しの辛抱ですわ」



あの2人、つまるところ、異母兄弟のお兄様方の事だ。


この国の貴族は、防御系職業者以外、10歳から16歳まで、王都の学園へ通う事が義務付けられている。


上の兄が15歳、下の兄が13歳なので、二人とも学園へ通っているのだが、実家から通うには遠すぎるため、普段は学園寮に住みながら通っている。


そのため普段のヴォルフガング家はわりと平和なのだが、先日からその学園が夏休みに入り、平和を乱す悪鬼共が昨日から帰ってきているのだ。



「ユージンもファーガスも、相変わらずか。家から離れて生活すれば、少しは凝り固まった思考もマシになるかと期待していたんだけどね」


「お義母様が、それはもう熱心に教育という名の洗脳でしかないお手紙を2人に送っていますからね。洗脳がとける時間がなくては無理もない事だとは思っています」


「お義母様のご実家も、うちほどではないけれど、結構な攻撃系職業至上主義だからね。無理もないか。

けれど、ユージンは来年最高学年へあがるというのに、困ったね。仮にもヴォルフガング家当主を目指すのであれば、感情を隠し、力ある者も無き者も上手く使わなければならないのに。僕が学園にいた時なんか、攻撃系の職業じゃなくても、優秀な子が結構いたよ。

少なくとも、まだ可能性が未知のニコラにまで冷たくするのは愚かだよね。もしニコラがハイランクの攻撃系職業持ちだったらどうする気なんだろう?当主にさえなれば、ニコラを自由に扱えるとでも考えてるんだろうか」


「それはないですわ。もし私がハイランクの攻撃系職業持ちでしたら、オーガストお兄様の剣になりますもの。私、お兄様の職業が軽視されているの、結構怒っていますのよ?

軍師Aなんて、とても素敵な職業ですのに、筋肉よりも頭を使う軟弱者と馬鹿にされているのを聞くたびに、こうお腹の奥深い所でドス黒いモノがグツグツと煮えるというか」



お前らはもっと頭を使え、脳筋ども!!と、脳筋という言葉が、怒り狂いながら身体中を駆け巡るのだ。



「まあまあ、落ち着いて。僕のためにニコラが怒ってくれるのは嬉しいけど、せっかくの可愛い顔が台無しだから、今は忘れて?ね?」



そう言って、オーガストお兄様は、私の額に寄っていた皺を、指でグリグリとほぐす。至近距離でのイケメンボディタッチに、表情筋がうっかり行方不明なりかけた。


落ち着け、落ち着け。


けれど、前世でも今世でも、オーガストお兄様以外のイケメンと触れ合う事なんてなかったし、そもそもお兄様以上のイケメンなんて見たこともないのだ。

あっという間に、私の顔が赤くなってしまうのも仕方ない事だと思う。



「ふふっ、その顔。そのまま可愛いニコラでいてね?今日はニコラを怒らせようとして来たんじゃないからさ。

僕が軍師Aな事は今に始まった事じゃないし、嘲笑や誹りも同じ。今じゃ小鳥の囀りくらいにしか感じてないよ。認めてくれる人だけ認めてくれればいいし、ヴォルフガング家に相応しくないというなら、家を出てもいい。

それに、結果を出してるから、僕を認めてくれてる人達も意外と多いんだよ」



「お兄様なら、自分で道を選べる力があると思いますわ。なにせ、ずっと学年主席だったんですもの。ユージンお兄様とファーガスお兄様は、一度も学年主席になれていないものだから嫉妬しているんです!

せっかく良い能力を授かっても、使いこなせなかったり慢心していれば宝の持ち腐れですのに。あの二人は能力を過信し過ぎて、力押しになってるから、未だにパッとしないんですわ!」


「はいはい、また顔が怖くなってるよ。笑って笑って。もう、この話はやめて、本題の楽しい話しをしようか。僕の話の振り方が失敗だったね、ゴメンね」



そう言って、お兄様は再度私の眉間をほぐし始める。くそぅ、表情筋が家出してしまうじゃないか。



「はい、気持ち切り替えて!いい?じゃあ、本題なんだけど、明後日、お父様から頼まれた仕事をしに裏山にある村まで行くんだけど、たまにはニコラも一緒に行かないかなってお誘いに来たんだ。

今回通る道は、人が頻繁に通る道だから、魔物の脅威も少ないし、ニコラにとっては初めて遠出する良い機会なんじゃないかと思ってね」



お兄様の話が終わる前から目を輝かせていた私に、お兄様がウインクをする。お兄様の事だ、私の答えを待たなくても、そもそもこの話をしようとした時から、返事はわかっていたのだろう。



「美味しいお弁当、たくさん持っていこうね」



あまりにも嬉しくて言葉が出てこない私は、お兄様のその言葉に、頭を縦に何度も何度も振ることしか出来なかった。




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