7 これがチートでしょうか
名前 : ニコラ・ヴォルフガング
種族 : 人間(転生者)
職業 : 結界師sss
LV 10
HP 35/50
MP 59800/65000
【固有スキル】結界
【派生スキル】時空間、造形
【スキル】
言語理解
「皮膜化の成功で、新しい派生スキルもついたのね!」
目の前に浮かび上がった四角い画面には、現在の私のステータスが記されており、今までのステータス画面には表記がなかった『造形』の文字に、声が弾む。
現在8歳なので、当然私は判定の儀をまだ受けていない。そのため、本来は力を使用する事も、ステータスを見る事も出来ないのだが、ある日、戯れにステータスオープンという魔法を口にしてみたところ、何故か当時3歳の私の前にステータス画面が現れたのだ。
その時のステータスは、
名前 : ニコラ・ヴォルフガング
種族 : 人間(転生者)
職業 : 結界師sss
LV 3
HP 20/20
MP 50000/50000
【固有スキル】結界
【スキル】言語理解
という、見事に職業とMPが異常な仕様だった。一般的な大人のMPが、5000程度らしいので、私は3歳にして、既に大人の10倍の量を持っていた事になる。
また職業ランクもおかしく、この世界で確認されている最高位の職業ランクがSであるのに対して、私のランクはSSS。
この職業ランクが高位であれば高位である程、固有スキルが強く、また固有スキルをサポートする、派生スキルの数も多いとされているのだが、どの書物を読んでも、ランクSS以上について言及されているものは無かった。
それどころか、ランクS自体がそもそも希少であり、ランクSであった人間は、それだけで王都勤めが決定する。少ないわけではないが、人口からすると、その割合は1割から2割程度。
まあ、防御系職業者だけは、例えSランクでも、安定の対象外なのだけれど。暗殺者でさえ、Sランクであれば雇用されるというのに、いったい防御系職業者に、何の恨みがあるっていうの。
「多分、この壊れたMPと職業ランクが、邪神の言ってたチートなのよね。初期MPなんて、アイツがサボった5000年×10としか思えないし。お陰で一日中スキルの練習をしていても魔力切れを起こさないのは助かったけど」
3歳にして自らの近い将来の死を自覚し、この身にその死を回避出来る可能性のある力があると知って以来、私は能力判定の儀までにヴォルフガング家から逃げ出す事だけを目標にスキルを磨いてきた。
本来なら能力判定の儀まで見る事が出来ないステータスが見え、スキルが使える理由は未だにわからない(もしかして、前世の年齢と合わせたら二十歳だからだろうかという予想はしている)が、使えるものは何だって使う。
MPも大量にあるので、それはもう自重せず練習に練習を重ねた。MPはほぼ無限だが、時間は有限。
1%でも生存率をあげるために。
無事に逃げ出し、無事に生きていくために。
目があったら、即練習試合!みたいな脳筋世界に抗うように、ただただ平穏無事に天寿を全うするためだけにスキルを磨いてきたのだ。
まず初めに試みたのは、結界の検証。
さっそくスキルを試してみたところ、私はガラスのような見た目の四角柱に囲まれた。
どうやら、このガラスのような物が結界のようで、発動中は確かに全てが結界に弾かれたのだが、あまりにも四角柱が大きすぎて、部屋の扉にガンッ!!と、つかえて出られないという、重大なデメリットが生じた。
こんな大きい結界では、何かの拍子に人が触れてこようとした時に、弾かれてバレてしまうし、そもそも目を凝らせば結界に囲まれている事がわかってしまう。
結界能力がバレる=死である以上、とにかくバレないように、早急に改良する必要があったのだ。
結局、結界は私以外に見えない物だと後にわかったけれど、私室で結界練習中にメイドが入って来た時は、死を覚悟したものだ。
しかし、メイドは何も言及してこず、あれ?と思い、他の使用人達の前でも恐る恐る使ってみたが、みな一様に気がつく気配がない。
お陰で、触れられさえしなければ結界がバレる事はないとわかったので、それからは暇さえあればスキルを鍛える事に時間を費やしていった。
そして、四角柱の結界を縮小したり拡大したりする事には成功しながらも、なかなか四角柱から卒業する事が出来ず、ようやく今日、約5年の歳月をかけて、結界の形を自由に変える事に成功したのだ!!
もう一度、結界を張ってみると、私の身体から数ミリの位置に、身体のラインにピッタリ合った結界が生じる。
皮膚に添って膜を張る事を目指していたので、結界の皮膜化と名付けてイメージを固めていたが、本当に私が浮かべたイメージそのものの結界だ。
「完璧……完璧よワタシ!!途中で心が一度折れた時に、思いつきから離れた場所に結界を張ってみたらアッサリ出来ちゃって、おまけに派生スキル空間まで手に入れちゃって、あれ?もしかして、こんなに努力しても出来ないって事は、結界の形を変える事って不可能?って、諦めようとしたけど、頑張ってて良かったー!」
しかも、皮膜化により、派生スキルの取得にも成功している。これはもう、5年頑張ったご褒美としか思えない。
ワクワクしながらステータスに表示されている『造形』をタッチすると、
【派生スキル 造形】
結界を自由自在に形作れる。
と、説明が表示された。極めてシンプルなスキルだが、今一番欲していた力である。自由自在という事は、四角柱と皮膜化だけの結界から脱却出来るという事だ。
もう、今すぐに実験を開始したくてたまらない。
ちなみに、派生スキル時空間の方は、一番最初に入手した時は、ただの『空間』というスキルだった。
【派生スキル 空間】
結界を術者から離れた空間へ張る事が出来る。
であり、当初は中心に私がいなければ、うまく張れなかった結界が、このスキルのお陰で、視界に入る範囲なら何処でも自由に張れるようになったのだ。
しかも、派生スキル空間の有用性はこれだけではなく、ある日、ふと前世で有名だった猫型ロボットを思い出した時に、空間は空間でも、異空間みたいな所に、物資を大量に保存するというのは出来るのだろうかと試してみたくなった。
あの不思議ポケットみたいな保存空間が出来たら、逃走用の荷物入れ放題では無いだろうかと。
結果、イメージがシッカリ固まっていたからか、アッサリと予想以上の結果をもたらし成功した。
長期保存による劣化までは考えが至っていなかったのだが、猫型ロボットが出す道具は劣化しない腐らないみたいなイメージが無意識にあったのか、派生スキル空間は、時間経過への対策を備えた、時空間スキルへと変化した。
説明分も『結界を術者から離れた空間へ張る事が出来る。また、結界内に流れる時間を制御する事が可能』と時間に対する説明が変わり、これによって私は、逃走中の食糧を大量保存するツールを手に入れたのだ。
ご飯、大事。超大事。
ただ、イメージを猫型ロボットに寄せ過ぎて、慣れるまでは、物を取り出すたびに例のBGMを口ずさまないと成功しないという弊害はあったが。
「パッパカパッパ、パーパッパー♪
ひーじょーうーしょーくー」
メイド(最近、お嬢様の部屋から聞こえてくるダミ声は、一体なんなのかしら?)