6 脳筋辺境伯の娘
「やった!ついに、結界の皮膜化に成功したわ!」
長年の努力が実った事に、私は思わず歓喜の声をあげた。
苦節5年。強くなる事を決めてから、今までに5年の歳月がかかっただけに、喜びも一入だ。
今から5年前、ヴォルフガング辺境伯の娘、ニコラ・ヴォルフガングとして目覚めた日、私は3歳の誕生日を迎えていた。
御誕生日おめでとうございますと、メイドが起こしてくれた時、急に前世の記憶と、あの忌々しい邪神とのやり取りを思い出したのだ。
余程、悔しそうな顔をしていたのか、メイドが慌ててご機嫌をうかがってきた事を、今もシッカリと覚えている。
神の計画から外れてしまった世界、ユーゴワール。
前世の記憶を取り戻した私は、まず、この世界の壊れ具合を確認した。何せ神が5000年放置した世界だ。世紀末状態であってもおかしくはない。
書物や人に確認していく中で、私が産まれたヴォルフガング家は、ユーゴワールで一番大きな大陸の中心にある、エトワール国の東端に位置していた。
代々、攻撃系上位能力者が当主を務め、異国との境界線で国を防衛する辺境伯だ。
そのため、ヴォルフガング家では力こそ全て。
強さこそ力なりという、見事な脳筋至上主義。あの邪神が、攻撃系の職業でない者は迫害されるかもみたいな事を言っていたが、まさにそれを堂々と行う家であった。
それらを知った時、私は絶望した。
間違いなく、死亡エンドのカウントダウンが始まっている。
最悪、色仕掛けで何とか死亡回避出来ないだろうかと思ってみたが、鏡の中に映った私は、筋肉質とは程遠い華奢な女の子。少し垂れ目がちの、庇護欲を刺激するような可愛らしい顔立ちに、絹糸のように細く美しい薄紫の髪。
前世の価値観であれば、美少女と呼ばれていただろうが、今世の価値観でいえば『盾の役割も果たせそうにない、使えない女』
意志の強そうな顔や、筋肉質な体。
守られるのではなく、肩を並べて戦いに身を投じられる女性。今世では、そんな女性が良い女なのだ。特に貴族社会において、その傾向は非常に強い。
どれもこれも、今の私とは正反対の女性像である。
あの邪神は絶対意図的に、この容姿にし、ヴォルフガング家へ転生させたのだろう。というのも、貴族の中で防御系職業者に最も厳しいのが、ヴォルフガング家なのだ。
《ヴォルフガング家に防御系の職業持ちはいない。何故なら、産まれたとしても10歳で命を落とすからだ》
これが、我が家への世間一般の理解。
何故10歳かというと、この世界の子供は10歳まで自らの職業や能力を見る事も使用する事も出来ないからだ。
10歳になり、教会で能力判定の儀を行う事で、初めて自分の職業やステータスを知り、使用する事が出来る。当然、その時に家族にもバレるので、私の命のタイムリミットは、10歳の判定の儀で防御系職業者だとバレてしまう、その時までということ。
見た目がこの世界の価値観にそぐわない事も考えると、まず助からない。良いところで、死んだ事にされて売り払われる辺りだろうか。結局、死んでいるようなものだ。
前世より寿命が短いとか、ふざけんなと思ってから、逃走のために此処まで能力を使えるまで、本当に長かった。
私は心の中で安堵の溜息をつき、成果を確認するために「ステータスオープン」と呪文を唱えた。