3 神様の尻拭い
終わった。
なんかもう、終わった。
結局、今自分が置かれている状況に対して何も回答は得られてないが、なんかもう聞くのが怖い。碌でもない事になる予感しかしない。
前世でも周囲に恵まれなかったが、死んでからも恵まれないなんて、私の魂は一体どれだけの不徳をつんだというのか。たかだか十数年だったけれど、結構今世は耐え忍び努力したと思ったんだけど……。
「なんか凄い面白い顔してるところ悪いんだけど、今説明したように、僕面倒臭いの嫌いだし、残業もしない主義だから、サクサクっと話を進めていい?」
「ああ、もう、どうぞ。サクサク行きましょう、サクサク」
「目が死んでるなー。いや実際、英理奈ちゃん死んでるんだけど。とりあえず二度話すの面倒だから、目は死んでても良いけど、脳と耳は生きててね?で、結論から言うと、英理奈ちゃんには転生してもらいます」
「いきなり次なんですか?所謂天国とか地獄とかって、実際には無いものなんですね」
「んー、人が言う地獄とか天国に近いものが無いわけじゃないんだけど、それは魂が極端に穢れたり、磨かれたりした場合だね。特に魂が穢れた場合は、転生の為に念入りに磨き直さなきゃいけないから、時間もかかるし苦痛も感じると思うよ。その記憶が稀に残ったまま転生しちゃう人がいるから、地獄のイメージが出来ちゃったのかもしれないね」
という事は、私は可もなく不可もなくという魂だったという事か。確かに、とりわけ良い事をしたわけでもなければ、極端に悪い事をしたわけでもない。ただ耐え忍んだだけだ。
何だか、振り返るとつまらない人生だったんだなあと、損した気分になってしまう。次の人生を生きるなら、せめて自分の気持ちに正直に生きてみたい。とはいえ、私を虐め殺した彼女達のように自分の気持ちに正直過ぎて醜くなるのは御免だが。
「例えば、今回私を過失で殺してしまった彼女達は磨きの対象になったりします?」
「そうだね。英理奈ちゃんをウッカリ殺しちゃった子達も、死後は多少磨かれると思う。人を殺してしまうというのは、故意でも、そうじゃなくても、魂が穢れてしまうからね。今後の生き方で多少穢れは落ちるかもしれないけど、彼女達が反省もせず改心もせずで過ごすと、更に穢れが進むから、残りの人生は正しく送って欲しいけど……」
多分、無理かなー。
ポツリと彼が零した言葉は、今まで感情をたっぷり乗せて喋っていたとは思えないほど、冷たく、無機質なものだった。
そうか。彼女達は、反省しなかったという事か。
きっと私には見せていない、映像の続きがあるのだろう。不可抗力の死として、たいした罪にならなかったか、未成年である事を理由に減刑されたか、それとも学校側が事故として隠蔽したか。恐らく、何らかの理由で、私を殺した彼女達にとっては、喜ばしい結果となったのだろう。助かった、とでも思ったのだろうか。
「もういいですよ、別に。どうせ私が彼女達の今後の人生と死後を知る事もないでしょうし。今まで頑張ってきた事や、耐え忍んできた事が無駄になってしまったのは残念でしたけど、それらから解放されたと考えれば、そこまで悔しいとは思わないです。なので、出来れば次は、お金持ちの飼い主に愛されて、毎日ゴロゴロしながら天寿を全うする可愛い御猫様にでも転生させていただければ上々なんですけど」
現世でお咎め無しなのは釈然としないが、死後苦痛を与えられるのであれば、私の苦しみや悲しみも少しはわかってくれるかもしれない。どう足掻いても、私が死んだという結果は変わらないので、どうでも良いというのもある。
それよりも、私の次の人生が良いものであるかどうかの方が、今は重要事項だ。もしかしたら同情で希望を叶えてくれるかもしれないと、昔から羨ましいと思っていた御猫様を、然りげ無くあげてみる。駄目なら動物園のパンダでも良い。笹を食べてゴロゴロしているだけで、可愛い可愛いとチヤホヤしてくれるなんて最高じゃなかろうか。
なんて淡い期待を抱いたのだが、残念ながら、その期待は直ぐに、思いもしなかった言葉で打ち砕かれてしまう。
「えー、無理無理。英理奈ちゃん、そこまで徳積んでないもん。それに、次の転生先に猫なんていないし。
猫っぽい魔物ならいるけど、可愛がってもらえるかまでは保証できないかな。テイマーなら可愛がってもらえるかもしれないけど、戦闘力としてだから、ずっとゴロゴロなんてしてられないというか……」
「ちょっと待って。聞き流せない単語が幾つかあるんですけど。猫がいなくて魔物がいる転生先ってどこよ。テイマーってなに、戦闘力って、戦闘必須の世界なの?」
「まだ伝えてなかったっけ?英理奈ちゃんに転生してもらう先は、剣と魔法のファンタジーな世界だよー。テイマーは魔物使いみたいな?魔物と戦いながら、生きるか死ぬかのドキドキサバイバル!前世より刺激的な展開をお約束します!」
「そんな約束いらないんですけど!」
まったりライフを希望していたのに、それと真逆の世界とは、どういう事なのか。殺されたばかりの人間の転生先が生きるか死ぬかの世界って、最悪直ぐにこの場へ帰ってくる事になるではないか。そんなの、まだ前世の心の傷さえ癒えてないわ!
「そんなこと言わないでよー。古参の神って、平均して、だいたい2つか3つの世界の代表をしてるんだけど、僕も地球と後もう1つ、ユーゴワールっていう星の代表をしててさー。で、地球の方が文明とか文化とか進んでて目が離せないから、部下に地球優先でよろしくって言って5000年休んじゃったら、本当に地球に付きっきりになってたみたいで、ユーゴワールの方が色々変な方向に進んじゃってさー」
「間違いなく、責任者不在の期間が長過ぎたせいですね。部下の人は悪くないと思います。ああ、今すぐ年表片手に5000年分の歴史を説明してやりたい!」
「そんなに責めないでよー。流石の僕も少しは悪いかなーって思ってテコ入れはしたんだよ?でも、ずっと管理するのは面倒だから、進んだ文明の人を放り込めば何とかなるかも?って突然閃いちゃったわけ。英理奈ちゃんは、そのお試し第1号!英理奈ちゃんが、そこそこの実績をあげてくれれば次の人材も送りやすいから頑張って!」