1 プロローグ
初めての執筆・投稿。
手探りなのでユックリになりますが、どうぞよしなに。
振り返れば、他者から傷つけられた記憶しかない人生だったように思う。
まだ物心がついていない内に父を亡くしたらしい私にとって、親と言えば、私に対して勉学を強要し、テストで満点がとれなければ罰を与え、成績さえ良ければ、特に関わってこない存在でしかなかった。
将来的に給料の良い会社に勤めさせ、その給料を死ぬまで徴収するための道具とでも思っているのかもしれないが、その道具が途中で逃げ出す可能性について、いっさい考えが及んでいないようだ。私の心情や性格に、本当に関心がないのだという事がよくわかる。
そのため、高校に入学した辺りからは、適度に息抜きをする事が造作無いくらいにはズル賢い生き方を覚えていった。
とはいえ、親しい友人も小遣いも無いから、学校の図書館で暇をつぶすしか選択肢はないのだけれど。
と、私は時間潰しのために書棚から持ってきた、興味も関心もない本を片付け、帰宅準備をする。勿論、一緒に帰るような友人はいない。
友達なんて勉学に不要と、誰かと親しくすることを許されず、また母親の異常ぶりは近所および学校に知れ渡っており、生徒おろか教師にまで母娘共に腫れ物扱いされている。
部活の強制参加や修学旅行について、勉強時間の妨げであると、延々2時間に渡って職員室で騒いだ母親を持つ娘なんて関わりたくないだろうとは思うが。
一応、部活には名を置いてあるが、顧問からは遠回しに来なくていいと言われているし、修学旅行は、その日に体調を崩す予定になっている。
そんな風に、頭のおかしい母親に逆らえない、大人しい人間が身近にいるのだ。一部の生徒の加虐心を刺激するには充分過ぎるだろう。
例の職員室乗り込み事件で、運悪く母親の対応に当たった教師が若いイケメンだった事も良くなかった。教師ファンの女子生徒達から反感を買い、直接間接問わず、様々なイジメを受ける事になった。
「今日は手間暇かかってるな」
そう呟き見つめた先には、みっちりと泥が詰まっている私のローファー。
手に取ると、見た目以上の重量感があるので、ただ泥を詰め込んだだけでなく、押し込みながらガチガチに固めたのだろう。嫌がらせに、ものすごい努力を感じる。
私の母親が此処にいたら、如何にその時間と努力が勿体無いかについて、熱弁してくれただろう。まあ、こんな事をされてるのも、させているのも、母親のせいではあるけれども。
現実逃避していても仕方がないので、ローファーを両手に昇降口を出る。下駄箱付近で泥を捨てても、清掃員さんに対する嫌がらせにしかならないので、外の花壇にでも捨てようと歩いていたその時。
せーのっ!!!
何人かの女の子の声が聞こえたと思ったら、脳天に衝撃を受けた。痛さとともに生じた冷たさに、恐らく氷水をかけられたのだろうとわかる。
しかも、コンビニなどで売ってる大きな氷のたぐいだ。反射的に掛け声のした方を見上げてしまったため、目の付近にも氷は当たり、あまりの痛さにその場を離れて蹲ってしまう。
聞こえてくる、キャハハという何人かの声に怒りを覚えていると、
「あ!バカ!ダメ!!」
キャハハという笑い声が、キャーーという悲鳴に変わり、間をおかずに先程の衝撃の比ではない痛みが後頭部を襲った。
ガシャーーーーーン!!!!
という何かが割れる音と悲鳴。
そして、重くなる瞼が閉じる前に見えた、瓦のような欠片。
それが、私が今世で見聞きした最後の情報だった。