表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隣席  作者: 水城凛花
1/1

好きな人の定義




Q.水上柚奈(みずがみゆずな)の好きな人は誰か?




桜満開の4月。


今日、このズボラで且つ女子とは言えないくらい五月蝿く明るすぎる性格の私、水上柚奈(みずがみゆずな)はこの市立の第一中学校に入学する。


この学校はその周りの3校を中心に、数々の小学校から入学生が集まるため、かなり人数も多く、それに伴ってクラスも多いのだ。


久しぶり…よりも、初めまして、の人がの方が大半であろう。


校門をくぐる。

半分緊張気味な歩きで、クラス編成表のところまで行く。

新調したばかりのメガネが鼻の方に落ちて見えにくくなったので、視界が良くなるようにそれをくいっと上げた。


私のクラスは、1組だ。

そして、“水上”だから出席番号は女子の中で一番後ろだ。


第一中で、新一年生で、1組で、出席番号が一番後ろ。

1が多いな…と思いながら、靴箱に向かう人混みに流れていく。


我々1組の教室は3階だ。

小学校の頃の低い段差の階段と比べるとここの階段は段差が高く、中学生になったという実感が湧いた。


教室に入ると、数人が既に自席に座っていた。

出席番号順になっていて、私の席は言わずもがな、窓際の一番後ろだ。


窓際、と思うだけで暇ができると感じた。授業中の先生の怠い話を流し聞きしながら好きな人の体育の様子を見る…そんなことは夢のまた夢ということも知りながらも、妄想するのも変な言い方になるが私は好きだ。


鞄から、先程クラス編成表を見ている時にもらった親御宛ての同じ内容の編成表を取り出す。

小学校の頃の友達のクラスや、仲の良かった男子のクラスを見た。

離れ離れになり、とても悲しい。

だけれどもこの1年1組でたくさんの思い出を作っていこう、と思った瞬間だった。


私の方に近づくメガネをかけた、男子の姿が目に入ってきた。隣の席の人だから、私と一緒で性別毎の出席番号が一番後ろということなのだろう。

咄嗟に編成表を確認する。


“湯下 樹人” (ゆした みきと)


湯下…。

聞いたことも無い苗字だなぁ、と思いながら、私はメガネの位置を上にあげる。

天然パーマなのか、朝寝坊したのか分からないが、彼の髪の毛はハネていた。


私は、彼を中心に、周りの人の様子を見渡した。

その時既にクラスの8割は席に着いていた。

私のように周りをちらちらと見ている人、小学校の友達と同じクラスになって色々と話している人たち、寝ている男子、本を読んでいる人…。

皆それぞれ入学式に緊張を持っていないようだった。


その時、

「入学式が始まるので、廊下にならんでください」

入学生担当の3年生が言った。

皆も動き出している。私はその波に流されるように外に出た。


だが、並び方が分からなかった。


___何順?


なにじゅん?なに…じゅん……?

私の思っていることが口から出てしまった瞬間だ。

「出席番号じゃない?」

ある女の子が言った。

まるで私の正反対のような、賢そうな、運動の出来そうな、女の子が言った。

そして何より、身長が高い。

その子は私の憧れでもあった。

「…あ、ありがとう」

私は蚊の鳴くような声でその子に感謝の気持ちを伝えた。




入学式がまもなく終わり、家に帰った。

また、名簿を見た。

入学式にもひとりひとりの名前が呼ばれていたが、流石に皆の名前を覚えるのは無理なので、名簿を見る。


小学校の頃から、名簿を見るのは楽しいひとときだと感じている。

周りの席の人、名前に特徴がある人などを見ていくことだ。

わかりやすく例えると、漫画を色々な視点から読み直していく、そんなようなことに似ている気がする。


ふと、あの時、私の素朴な疑問に答えてくれた子の名前を見る。


“浜口 花愛”


はまぐち、何さんだろうか…?

名前から輝きのオーラを感じる。


仲良くしていきたいな、と思った。



入学式の次の日の今日も早速仲良くなりましたー、よろしくね、というような様子は見えなかった。

小学校の頃仲良しだった友達と今はいっしょにいる。


「隣の席、誰?」私は彼女に聞く。

「わかんないけど、苦手だな」彼女はそう答えた。


人は見た目で判断してはいけない、とよく言われる。

でも人間の性質上判断せざるを得ない。

私の隣の席の湯下樹人も、地味っぽいし友達も少なさそうに見えた。


1時間目はOTと言って、所謂総合のような教科だ。


担任の鈴松先生の自己紹介オリエンテーションを流し聞きしながら窓の外を見る。


入学式で鈴松先生が担任だというのを知ったときからずっと可愛いなと思っていた。担当の教科は英語らしい。


それがまもなく終わると、B5判の厚紙が配られた。

プリントの題名は、自己紹介だぞう!と書かれている。象と合成させたのだろう。

先生が「丁寧な字で書いてくださいね」と言うと皆がさらさらとシャープペンを動かす。


何を書こうか?


イラストでも描いて目立たせるか?


ウケ狙いでアレルギーの種類とか書いてみようか?


アイデアが思いつかないまま、ずっと顔を紙に近づけた。

はあっ、とため息をついた。


ふと隣の湯下樹人の紙をみた。

薄くてサラサラした字で、あまりよく見えなかった。

フリースペースには書くことがないのか、無し…ではなく、梨、と書かれていて、その周りには梨のイラストが沢山描かれてあった。凄くシュールで笑いそうになった。


彼のことはさておき、私の自己紹介は書くことがなかったので、初めに思いついたアイデアを全てフリースペースに書き込んだ。


“生ハムと納豆とメロンは断食です。決して与えないでください。アニメよく見ます、絵を描く事が好きです。よろしくお願いします。”


典型的な4文構成。好きなマンガのキャラクターのイラストも添えて、完成という形にした。


「班の形にして、自己紹介をしてください。」

鈴松先生が言った。

このクラスは40人いて、6班編成になっている。


「え〜っと、福原匠也です、よろしく〜」

小学校一緒だった人だ。


「穂村です、よろしくお願いします」

真面目そうだった。


「森宏希です。よろしく」

髪の毛が茶髪だ。


「湯下っていいます、よろしくお願いします」途轍もなく小さな声で言っていた。


「堤愛乃です!よろしくねー」

可愛げな声だった。


「浜口花愛っていいます、よろしく!」

花愛と書いてはなめ、と読むらしい。


…と考えているうちに、私の番が回ってきた。咄嗟になんて言えばいいか考える。


「水上柚奈です。よろしくお願いします。」


異常に私らしくない丁寧さで自己紹介をしてしまった。


そうして、一人一人の自己紹介が終わった。


バレない程度に、浜口さんの自己紹介の紙をみた。

筆圧があり、濃く、字が本当に綺麗だった。誕生日は12月20日と書かれていた。

12月20日?どこかで見覚えがある。


もしかして、と思い、湯下樹人の紙を見た。

やっぱり、彼も誕生日が12月20日だった。

気になったので、


「湯下君と浜口さんって誕生日一緒じゃない?」

と聞いてみた。


すると、

「え、なになに?」

森宏希が顔を突っ込む。

「だから…」と繰り返すと、


「え、ホントだ、すごいね湯下」

浜口さんが言う。

すると、ぼーっとしていた湯下樹人が

「まじか凄いな、よろしく、浜口」言った。


「運命なんじゃね?」と大袈裟なことを言う森。

「かもねー」ノリに乗って言ってみた。


湯下樹人と浜口さんは、いやいやいや、そんな、と言いながら首を横に振った。そんなことは承知してる。


自己紹介が終わったら班長決めだ。


班長なる?えー、やだ、せめて副班長かな。小話が聞こえてくる。


そんな時、

「水上で良くね?頭いいし」

福原がそう言った。ほんの冗談かと思った。


「そだね、出来そうだよな」「分かる」

周りの森たちも頷き始める。


班長やリーダーは小学校の頃散々やっていたうえ、中学に入ったらやらなくてもいいかな、と思いつつあった。

推薦されることはいいけれど、「私は別にやらなくても、」と中途半端な言い方で断ってしまった。

だがしかし、何度も何度も推されたので、仕方なく班長を務めてやった。

務めてやった、のだ。


「じゃあ、班長は水上で決まりねー」

福原が言った。正直言って、こいつは面倒臭いと思った。


班長決めが終わり、席を戻す。


「水上さんってさ、何部入るの?」

突然、湯下樹人が言った。


「まだ決めてない、そっちは?」

「将棋に決まってんだろ」


知るかそんなの、とは言いにくかったので


「そうなんだね、あと、さん付けなくてもいいよ」

「じゃあ水上?おれも湯下でいいよ、よろしく。そういえば水上は何処小学校なの?」

「一中に一番近い、二小だよ」

「そっち方面なんだ、おれは結構遠いとこ」

「どこだよ」

「女子なのにだよって…まあいいや、四小だよ」

「へー」


何となく湯下との会話が続いた。


湯下は、一見陰キャ系の人で真面目そうに見えたけど、至って普通のフレンドリーな男子だった。




____もっと仲良くなりたい思うのは、気の所為だろうか?








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ