05
「さーちゃんさ、今好きな人いる?」
「は?」
帰り道、風が気持ちいいからと二人でブラブラ歩いていたら、何かの話の流れのように普通に聞かれた。
「だから、好きな人。いる?」
「いや、え?なんで?」
「いや、いるのかなぁって思って」
「んーーーーー・・・・」
多分、いるよって言えばいいんだろう。
でもなぜか痕がうずく。
「なぜそこで悩むのさー」
笑いながら、近くの公園に足を向けて歩く彼を追いかける。
「いや、だってなんていうかさー。じゃあそっちは?いるの?」
「好きな人?」
「うん、付き合ってる人でもいいけど」
「いるよ」
たった3文字。それがこんなにも鷲掴みにするのか、と思わず胸元を握ってしまった。
「いる。好きな人。付き合いたいけど、まだそこまで行けない人。いるよ。」
射抜かれるような目で、断言される。
ああ、もう鍵が壊れてしまうよ。
ここまで雁字搦めに鍵をかけても、想いって強いんだ。
苦しい・・・。
「・・・そっか。いいなぁ。断言できるって素敵だね」
「うん。俺頑固だからさ。ぶれないんだよ。一途だし。」
公園を横切りながら歩く彼の顔に、街頭の明かりが指す。
自信が満ちた眼差しで前を向いていた。
「うわー自分で言い切った。一途とかって周りが言う言葉じゃん」
「そう?だってその子が好きだから一緒にいたいって思うし、付き合いたいって思うじゃん?」
「まあ普通はそうだね。でもやっぱり気持ちは動くものじゃない?」
「んーその動いている間は、俺が動かないから。」
「どういうこと?」
「気持ちが動いてる間、たとえばあの子いいなって言うレベルなら、多分違う子にもそういう気持ちになるだろうけど、この子がいいって思ったら、違う子に対してもこの子がいいって思わないじゃん?」
「んー・・・多分?」
「なんだよさーちゃんは浮気性?」
「えー?そうではないと思う、というかそういうところまで達観したことないわ、そういえば」
「そうなんだ」
あの人かっこいいとか、付き合ってって言われたからとか、恋の入り口ってそんなもんだと思ってた。
一緒にいて楽しいとか、もっと一緒にいたいとか。
いつからそういう気持ちに蓋をしてきたんだろう?
決してお付き合いをしている最中に、違う人と疑われるようなことをすることはなかったし、そういこともされたことはない。
でも、自分は一途だと言い切れるかと言われれば、言葉を濁してしまう。
だって、今まさにそんな状況だから。
気持ちがあるのは目の前の彼。
その気持ちに蓋をしてぐるぐる巻きの鎖に何重もの鍵をかけてる。
でも人の温かさを知っている私は、人恋しさで先生と時間をともにする。
そのことに先生は気づいている。
それでも気持ちを言葉以外のもので与えてくれている。
そしてそれに甘えている自分もいる。
どう答えるのが正解なのかすら、わからなくなってる。
「さーちゃん。好きなんだ、君が」
ぐるぐるしていた頭に落雷が落ちたかのような衝撃を受けた。
「え・・・」
少し離れていた距離を詰められても、私は動くことができなかった。
二人分くらいの距離になっても、固まったままだった。
「びっくりさせてごめんね。ずっとね、俺も自分の気持ちを考えたりしてたんだけど、今日はっきりわかった。さーちゃんがいいって。」
「え・・・」
「今すぐ付き合ってほしいとか、そういう事は言わない。これから半年、クソ忙しい時間を過ごす中で考えてっていうのも酷だと思ってる。でもいつか、答えが欲しい。俺、待てる男だから」
「いや、でも・・・」
「待ってるから。どんな答えでも。それと」
「ん?」
「ライバルがいそうだけど、俺もちゃんとアプローチするから。今までみたいにみんなで行動するんじゃなくて、ちゃんと二人でデートしよう?気が乗ったときだけでもいい。さーちゃんの時間がほしい。」
「時間・・・」
「そう、時間。俺に頂戴?」
「えっと、どう答えればいいかわからない・・・」
「うん、そうだよね。とりあえず、手の力緩めようか?」
彼の手が自分の右手の指を1本ずつほぐすようにシャツから離していく。
しわしわになった箇所をみて、彼の眉間に一瞬シワが入ったが、すぐに消えた。
*****
鍵を開けて部屋に入る。
電気を着けて鍵をかける。
居間に移動して、ソファに荷物を置いてシャツを脱ぐ。
お風呂のスイッチを入れて、手洗いをする。
髪の毛をまとめてクレンジングをする。
機械的にこなすいつものルーティン。
その間も脳内はぐるぐるといろいろなことを考えては消し、考えては否定しを繰り返している。
シャワーを浴びながらも、髪を乾かしながらも、水分補給をしているときだって。
ベッドに横になって、天井を見る。
淡い部屋のランプに照らされた暖色の壁紙。
一人暮らしを初めて、この部屋に引っ越して何年経つだろう。
それでも、こんな夜を過ごすのは初めてだ。
左側に寝返りをうつ。
部屋全体が見渡せる。
ふすまの向う側にはぼんやりとソファの背中が見える。
そこに無造作に置かれた先生のシャツ。
シワがついた箇所が何となく見える。
その先にはカバーをかけられたTV。
電源を入れたのはいつが最後だったっけ・・・。
多分、職業柄観察眼が鋭い彼には、あのシャツが男物だってことを気づかれてる。
あの眉間のシワはそれなのかもしれない。
でもどこまで行っても、それは「かもしれない」でしかない。
彼からもらった今日の言葉。
嬉しさよりも驚きのほうが強かった。
それはなぜ?
多分、彼が私を好きだと思っていなかったから?
それとも、私が気持ちに蓋を締めて、諦めるようになってきたときに言われたから?
きっと、気配すら出さなかった彼から、あの真剣な眼差しで言われたから、というのが一番かもしれない。
このまま流されるように付き合うべきなのか、それとも宙ぶらりんになってる先生との関係を一歩でも進めることのほうがいいのか。
何より、彼にこの胸の傷を見せることができるのかーーーー
悩むところそこなのかと突っ込んだ作者です。
さて、どうする紗絢




