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優しいしるし  作者: 佐久間みほ
番外編
15/15

怒涛の毎日-2

ちょいと短いですが・・・おまたせしました!

なんとなく、採血するだろうなと思ったので、11時くらいに口の中の水分を全部持ってく栄養補助食品をモゴモゴしておいたので、昼食は取らずに病院へ向かう。


何度も通ったバス通り。

この時間でもバスの中は程よく混雑していた。

つり革に捕まりつつ、目の前を通り過ぎていく景色を眺める。


朔に言葉を伝えてから3ヶ月ちょい。

両方の仕事の引き継ぎを同時進行で行うって、普通に考えてありえない。

しかもどっちもそれなり以上の情報量だったりするから、記憶のスイッチとメモを切り替えるだけで大変だった。

普段からメモ魔だったからこそ、乗り越えられたのかもしれない。

仕事を引き継いだ後輩も半泣き状態だったなぁ。申し訳ない。


「喜沢さん、ほんとにこの量やってたんですか・・・?」

「ん?うん」

「ほんとにホントですか?!」

「いや、ない仕事引き継いでも仕方ないでしょう?それにあと2案件あるんだけど・・・」

「・・・・あと2件????」


まじか・・・ってつぶやいてる後輩をみて、悲壮感というか絶望ってああいう顔なんだろうなって、苦笑しか出てこなかった。ほんと申し訳ない。


流石に上司である(しん)が何件か引き継いでくれたみたいだけど。


異動のときもバタバタしすぎて、ランチにみんなで行くくらいしかできなかった。

ちゃんと挨拶できなかったことが少し心残りでもあるけれど、端と端といえども、同じフロアで仕事をしている分、顔を合わせることが多いから(わだかま)りはない。

もともと気のいい人たちばかりだから、嫌な気持ちになることは一切なかったけど。


ぐったりしながら自宅に戻って、ほぼ寝るだけのような生活を繰り返していたら、流石に朔が激怒した。

あの人を本気で怒らせちゃだめだって、康兄じゃなくて健兄が言ってた事にもっと気を配っておくべきだった。


*****


明日から異動という日も変わらずに深夜の帰宅。

ぐったりしながらなんとか胃袋に物を入れて、薬を飲んであとは寝るだけの状態の時、来客のインターホン。


「誰よ・・・」


メイクも落としてお風呂も入って、着てる服は着倒したジャージにロンT。

ボワッと映し出された所にいたのは、朔だった。


「はーい」

『開けて』


それだけの会話だったけど、声のトーンが低いことになぜ気づかなかった私…!

ピっと音がする解錠を押して、オートロックを開ける。

朔がこの部屋に来るまでにお湯でも沸かすかと、電気ポットに水を入れてスイッチを押す。

マグカップを2つ用意して、1つはコーヒー、1つはノンカフェインのハーブティーのパックをセットした。


ドアチャイムが聞こえたので、一応確認して、ドアを開けると若干機嫌がよろしくない朔が立ってた。


「こんな時間にどうした?」

「ちょっとな」

「ふーん。どうぞ?コーヒーでいいでしょ?インスタントだけど」

「ああ、すまんな」


いつものようにキッチンとつながってるリビングダイニングにあるソファに座る朔をなんとなく見ながら、沸騰した電気ポットをそれぞれのマグカップに入れて飲み物を用意した。


「どうしたの?」


テーブルにマグカップを置きつつ、朔を覗き込むように見ると、ジロッと睨まれた。


「紗絢」

「・・・は、い」

「そこに座れ」

「はい・・」


ソファに座る彼の目の前の床に座れと言われ、近くにあったクッションを敷いて腰をおろした。

途端に、両手首を取られる。

もうそれだけで、なんでこんなに機嫌が悪いのかがわかってしまった。

そうそうに白旗をあげたいのだけど、何しろ両手を取られている。


「なんで病院来なかった?俺が居ない時に薬は取りに来たのに」

「薬が無くなりそうだったから・・」

「どうせあと1日分とかそれくらいまで粘ったんだろう?」

「はい、ご尤もです」


気づいたら、翌日の昼分までしか薬がないことに気づいて、慌てて時間を作って駆け込んで薬だけもらったんだよね・・・。

朔が手術中だったから、違う先生が処方してくれたけど、同じ薬だったし、あとでメールしておこうって思って・・・してないよ私。過去の私何やってんの・・・。


「どうせ後でメールしておこうと思って、忘れてたんだろう?」

「おっしゃる通りです」

「・・・はぁー。脈は最悪だし、顔色もひどい。目の隈もくっきり。この時間だが連れ帰る」

「へ?」

「紗絢、強制的に家に連れ帰る。準備しろ」

「え、ちょっと待って!そこまでし・・・はいすいませんもうしわけございません」


薬でなんとかコントロールしてた心臓を、目線で止められるかと思った。

これは当分戻ってこれないだろうと、朔には冷蔵庫の中身をクーラーバックに入れてもらうようにお願いして、私は仕事着とか化粧品とか薬とか諸々必要となるものを持ってる中で一番大きいトランクに詰め込んだ。


「足りないものがあれば取りに来ればいい。行くぞ」


クーラーバックとトランクを人質ならぬ物質として奪われたので、致し方なく上に薄手のガウンを羽織って後を追いかけた。

しっかり仕事用の靴を持って。


車は相変わらずうるさいエンジン音だったけど、慣れって怖いですね。

軽く子守唄のように聞こえて、目が覚めたらベッドの上で、太陽さんこんにちわしてました。

朔越しに壁掛け時計を見ると、いつもの起床時間。

ビバ体内時計!なんて思ってたら、視線を感じた。


「おはよう・・ございます」

「おはよ」

「ごめん、運んでくれてありがとう」

「紗絢、飯もちゃんと食ってないだろ」

「胃袋に物を入れてはいる」

「それは食事じゃないだろう・・」


朔は呆れたように体を起こし、ボリボリと頭をかきながらため息をこぼす。

いやもうホント申し訳ない・・・。


「とりあえず、朝食用意するから。用意しろ」

「・・・ありがと」


ベッドから立ち上がる時に、頭にキスを残して部屋から出ていった。


主治医としての半沢朔と、恋人としての朔。

そんな立ち位置に彼を立たせてしまってることも申し訳ない。

でも、仕事に対してのスタンスも、恋人としての気持ちも変えることができないし。

どこかでちゃんとしなければと思ってたけれど、結局この様。

我ながら不器用だし、勉強しないなぁ。


顔をパンっと叩いて、用意をすることにした。

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