怒涛の毎日-1
番外編、ぼちぼち行きます。
剛健さんの下に戻って3日。
そう、まだ3日。
すでに先生ーー朔に毎朝毎晩チェックを入れられる状態になってます。
あ、あれから私、朔の家に居候化してます。
「食べてていいから左手」
「ん」
サラダをパクパク食べてる横で、左手を出して脈を取られるのも慣れたものだ。
安静状態じゃないのに脈取ってどうするんだろう?って思いながらも、いちいち突っ込むのもめんどくさいなって思って3日。
「紗絢、今日帰り病院寄れよ」
「ええ?今日病院やってる間に帰れる予定じゃないんだけど?!」
「ああ?」
「だって、今日の最終ミーティング、21時開始だよ?」
「お前ん所の定時は何時だよ」
「19時」
「で?なんで定時後にミーティング?」
「必要だから?」
「・・・」
もはや、定時後にミーティングなんて当たり前。
その時間じゃないと決定権を持つ全員が集まることができないのだ。
その分、ものすごいスピードで決裁されて、あっという間に1時間がすぎる。
そう、流石に22時までには全員帰宅することが決められていたのだ。
たしかに、あの頃てっぺん(0時)超えてから帰るのが当たり前だったもんなぁ。
だから体調不良な人たちが多くて、うまくミーティング時間が設定できなかったりと負の状態がぐるぐるしてた。
そう考えると、私人柱感すごいな・・・。
眉間にシワを寄せながらコーヒーを飲んでる朔を見ながら、会社携帯に手を伸ばし、今日の予定を見直す。
んー・・・
「朔、お昼の時間なら行けると思う」
「昼?」
「そう、といっても14時くらいだけど」
「それは昼じゃないだろう・・・」
「で、いる?」
「今日のオペは午前中だけだから、多分大丈夫だと思う」
「んじゃその時間に行けるように調整する。もし変更入りそうで、連絡できそうだったら教えて?」
「りょーかい」
ほんの小さなことだけど、お互いに譲り合うということをなんとなくわかり始めてきている。
誰かとお付き合いをするのは初めてではないけれど、それでもなんとなく今までとは違う。
大きなものに包まれているからこそ、そこに甘えちゃダメなんだと。
****
「剛健さん、ちょっといいですか?」
「あ?なんだ」
朝イチといってもすでに始業から1時間は過ぎてるお昼少し前。
ミーティングとミーティングの合間にメールチェックをしている剛健さんを捕まえた。
「ちょっとお昼、外出したいんで時間多めにいただくかもしれません」
「ん?何だそんなことか。スケジュールに入れといてくれたらいいぞ」
「それが、終わりがちょっと見えなくて」
「・・・病院か?」
「はい」
背もたれにもたれかかるように座り、腕組みをして、渋い顔をする剛健さんを見て、あーやらかしたかも?なんて思ったなんて言えない。
「なあ喜沢」
「はい」
「ちょっとでも違和感感じたら即病院行け」
「へ?」
「こっち戻ってからフルパワーで動いてるのはわかってるし、手を緩められる状況じゃないのもわかってる」
「・・はい」
確かに、思った以上に割り振られた仕事が多くて、戸惑いもあった。
ただ、戸惑ってる暇があれば1個でも目の前の仕事をなくす事が、有効な時間の使い方だった。
だからたった3日でもがむしゃらに、片っ端から仕事をこなしていたのだ。
朔の家に戻るたびに、朔の眉間のシワが深くなってきてるのもわかってた。
「俺はなぁ、先生に約束したんだよ。少しでも顔色が悪くなったと思ったら、即刻病院へ連れて行くってな。だから、お前のさじ加減でいいから、仕事の調整ちゃんとして、先手先手で病院行け。お前のことはお前しかわからん。スケジュールもオープンにして、病院って入れておけ。それで俺もお前の状況がわかる。いいな?」
目を話すことなく、ぶっきらぼうに話す目の前の上司の顔は、言葉とは裏腹に心配しているという顔。
「ご迷惑をおかけして申し訳ございません」
「ちがうだろ?」
「・・・ありがとうございます!」
「ああ」
ニカっと笑った剛健さんは、腕時計を確認して、次のミーティングに向かって部署を出ていった。