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先生と吉澤さんの会話をBGMに、どうやら寝てしまったようだった。
気づくと、先生のジャケットがかけられていて、車の中は私一人。
思わず先生のジャケットを引き寄せて顔を覆う。
こうすると、なんだか抱きしめられてる気持ちになる。
ほのかにグリーンノートとウッディな香りが混じった、先生の香り。
頭のどこかで、「変態か」と冷静にツッコミを入れる自分もいるけど、幸せな時間だからいい。
・・・そうか、幸せなんだ。
先生に包まれることが、私にとって精神安定剤だと思ってたけど。
もちろんそれは間違いじゃないと思うけど、言葉をもらったからストンっと入ってきた。
ぼんやりと考えていたら、運転席が開いた。
「起きたか?」
「ごめん、寝ちゃってたんだね。ジャケットありがと」
いや、大丈夫だ、とシートベルトを締めて、エンジンをかける。
「あの騒々しい内容でよく寝れるもんだと関心してたぞ?」
「吉澤さん?」
「ああ、逆に申し訳ないことしたって言ってた」
「いやなんか入り込めなさそうだし、ってぼんやりしてたら寝ちゃってたんだよねー」
スムーズに車は道に吸い込まれていく。
「睡眠取れてるのか?」
「んーまあまあかなあ」
「そうか。で、家行くけどいいな?」
「うん」
それから、先生の家までの少しの時間、車内は無言だった。
でも、居心地のいい空間でもあった。
****
ソファを背もたれにして、カーペットの上に座る。
お気に入りのクッションを抱いて。
先生も飲み物を持ってきてくれて、そのままカーペットの上であぐらをかいた。
「さて。あのメモ書きだけど?」
「うん」
あの日、先生のメモの下に書いたのは、私なりの決意表明。
誤解させないように、一旦ゼロにしたいですって書いた。
だから、先生の家に置いておいたものを全部整理したり、鍵も返した。
「ゼロになって、見えたものはなんだ?」
「先生」
「ん?」
「先生がいた」
「・・・そっか」
すごい優しい目で見てくれるこの人の気持ちに、私はちゃんと答えられるだろうか?
「先生あのね?」
「ん、ちょっとまった紗絢。すぐには無理かもだけど、ここで先生はやめてくれると嬉しいんだが」
「あー・・・」
「まさかと思うけど、下の名前知らないとかないよな?」
「そのまさかだったりするかもしれないなっていま一生懸命脳のCPUをですね」
「まじか・・・でもそうだよなって俺もおもった」
思い出しても、先生のフルネームを知ることってなかったかもしれない。
兄たちは名字でしか呼ばないし、私も出会った頃から先生って呼んでたし。
「朔だ。」
抱えてたクッションを横に置き、背筋を伸ばして、ふっと一息入れる。
「朔さん?」
「呼び捨てでいいぞ?」
「朔?」
「なんだ?」
「遅くなってごめんなさい」
頭を下げて、謝ったら、ふわっと抱きしめられた。
「おかえり」
たった一言だったけど、その一言が嬉しくて、涙がこらえられなかった。
しがみつくように抱きつき直し、グズグズした声で、答えた。
「ただいま」
ーーーーー
後日談。
「ところで、なんで吉澤さんの名前呼び捨て?」
「いや、あいつの彼氏?が俺の弟なんだわ」
「は?そうなんだ」
「そのうち会うことになるんじゃないか?」
「吉澤さんいろいろ不詳だから、すっごい楽しみかも」
「そうか?和心は結構天然だぞ?」
「そうなの?」
「俺の弟との出会い方とか、普通に考えたら警察沙汰だし」
「は?大丈夫なの?」
「どっかで見たことある顔だとおもったんですよねーっていうどっかも、俺の顔だったし」
「ん?どういうこと?」
「いや、俺の弟コイツだから」
そう言ってたまたま着けてたTVに写ってる人を指差す。
「え!えええええええ?!」
こんな声出たんだってくらいの声量で叫んでしまったくらいには、驚いた。
そんな吉澤さんと先生こと朔の弟さんのお話は、どっかまた別のところで。
ということで、駆け足で詰めるだけ詰めたお話でした。
いろいろ詰め込みすぎて、展開早くなったり、説明が杜撰だったりしてたと思います。
そのうちひっそり直します。
数年ぶりに書いてみましたが、やはりなかなか難しいものです。
お目汚し、失礼いたしました。
ニヤニヤしてもらえてれば嬉しいです。