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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「農奴ジェフリーはお姉ちゃんと暮らしたい」
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第37話

「――なぁ、ジェフリー。本気なのかい? 自分が囮になろうだなんていうのは」


 俺を囮にしたバルトサールへの攻撃作戦。それが固まってから間髪入れずに、アティの奴は俺とリリィを引き離した。

 アティが、リリィの神官装束が焼け焦げていることを指摘し、それを直すと言い出したのだ。

 別に肌が露出するなんていうほどの穴じゃなかった。それなのにアティがそれを指摘して、直すから服を脱げ、服を脱ぐから男どもは別室に行けと言い始めたのは、俺とリリィの距離を離すためだろう。

 あのまま一緒にいたら、まず間違いなくリリィは決まりかけた話をひっくり返そうとするのが目に見えていたから。

 

「ああ、本気だよ。あいつとは話したいこともあるしな」

「というと? 君がアマテイト神官の裏切り者に個人的な興味を持つのかい?」


 エルトの質問に答えるため、俺が手に入れた情報を簡潔に説明する。

 ”オルガン”なる謎の言葉は伏せ、バルトサール・アマテイトの本名がバルトサール・ライティカイネンであることを教える。

 そして、ここからライティカイネン家が没落貴族であることまで話そうとして”その必要がないこと”を悟る。


「……ライティカイネン家に、興味があるんだね? ジェフ」

「ああ、没落貴族に興味があるのさ」


 揺れる緑玉の瞳が、語らずとも示していた。

 ……あぁ、知っていたんだな、こいつは。サーヴォという名前で、分かっていたのだ。


「それは君が、あのサーヴォ家の人間だから、なんだよね?」

「……知っていたんだな? エルト」

「気付いたのは君と出会ってからしばらく後の話になるけどね。僕らが幼いころの”政変”で失墜した貴族は余りにも多い」


 俺のサーヴォ家、マルティンのヴィアネロ家、そしてバルトサールのライティカイネン家。

 3つで済んでいない話、なんだよな。あれは。


「正直な話をすると俺は”政変”について何も知らない。母親が異様に執着していてな。

 彼女を通して得た情報はほとんど当てにならない。だから俺は何も信じていない」


 口を開けば『あれは陰謀だ、国王陛下に騙されたんだ、父の死は暗殺だ』なんて言葉の繰り返し。

 あんな妄執に憑りつかれた人間の言うことなんて当てにならない。

 そして何が本当なのかなんて一切関係なかった。

 姉さんと一緒にあの農地で生きていくのだと、そこが自分の一生の全てなのだと覚悟を決めてしまえば。


「逆にお前は何を知っている? エルト」

「……事実だけで語るとすれば、諸侯会議でベインカーテンとの繋がりを疑われた名門貴族たちが次々と潰されていったって話さ。

 なぜそんなことになったのか? それを邪推し始めるとキリがないし、あの事件で貴族の勢力がかなり入れ替わったのは事実だよ」


 ――なぜ諸侯会議で唐突に槍玉にあげられたのか? その疑いは正当だったのか?

 ”次々と潰された”という、その潰しを実行したアマテイト教会や国王軍による調査は正当だったのか?

 またその調査を目の当たりにした商会連合や民衆の反応はどうだったか?

 ここら辺を調べ始めればキリがない。これを紐解くだけで人生の大半を使ってしまうような話だ。

 だから俺は、関わるつもりはなかった。なかったのに……。


「バルトサールの奴は言った。リリィを殺し、こちらに寝返れば”父親の死の真相”を教えてやると」

「……下らないハッタリだと思うね。正直あの政変に関しては被害者の1人だったってことくらいじゃその全体像は把握しきれてないだろう」

「俺もそう思う。それにあいつにとって俺は自分の協力者を殺したような男だ。知っていても教えないし、そもそも知らないと思う」


 言葉を重ねながら”フランセルの日記帳”を開き、デバイスに読み込ませていく。

 証拠収集と聞いて持ち込んでおいた特殊なデバイスが役に立ったな……。


「だったらどうして時間稼ぎに志願したのさ? 死にに行くようなものじゃないか」

「……リリィにも言ったが、俺が一番時間を稼げるからだ。バルトサールはリリィのことを”絶対的なアマテイト神官”と見ている。

 だからあの男、彼女のことだけは真っ先に殺しにかかったし、次も同じことになるだろう。それはお前が行っても変わらない。没落貴族は貴族を殺しにかかるぞ」


 こちらの言葉に薄い笑みを浮かべるエルト。


「君は僕を殺したいのかい? ジェフ」

「……いいや。ただ、一切の嫉妬がないか?と言えばウソになる」


 ドラゴニアとの国境線を守る貴族だ。生半可な業を背負わされている訳じゃないと知ってはいる。

 だが、俺にとってはお前もまた、嫉妬する対象ではあるのだ。

 アカデミアなんてところに出てこなければ、一生蓋をしていられたこの感情と、俺は向き合わなければならなくなっている。


「……そうか。うん、それは君の言うとおりだと思う。きっとバルトサールは、僕を殺しにかかってくると思う。

 でも、それじゃあアティはどうなんだい? 彼女なら、そういうのにも長けているんじゃないのかい?」


 エルハルト・カーフィステインというのは、優しげな博愛主義者に見えて、その実態は違う。

 ここでアティを使えると言い始めるような冷徹な男でもあるのだ。

 ……きっとそういうところは貴族としての適正なのだろう。悪くはない感覚だと思う。それはこの俺のそれとは、また違う感覚なのだけれど。


「――生憎と俺は、女を死地に追い込む趣味はないのさ。それにあいつを単独行動させると何がどう転ぶか分かったもんじゃねえ」

「ふふっ、君らしい回答だね。分かった。君がそのつもりだというのなら、もう止めはしない。僕は僕のやるべきことをやる」

「頼むぜ、俺の時間稼ぎが無為に終わるのは、困るからな」

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