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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「農奴ジェフリーはお姉ちゃんと暮らしたい」
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第36話

「――私も、今ここで筆頭を倒すということに異論はありません。

 あれを見逃すことは、アマテイト神官として看過できない」


 告げるリリィの表情。その揺らぎの無い視線を見て、理解する。

 俺への懐柔策を仕掛けるような男が、あのバルトサール・アマテイトが、リリィを初手で殺そうとした理由を。

 ……自らの師であろうとも、殺せるのだ、容赦なく。リリィというのはそういう女だ。


「しかし同時に今の私たちに、その手立てがあるとも思えない」

「なら、どうするの? 私たち以上にバルトサールを殺し得る人間なんて、この世にいないわよ」


 アティの琥珀色の瞳を前に、リリィは真紅の瞳は揺らがない。


「――アティーファ・ランディール、貴方は殺し屋だ。

 筆頭を、バルトサールを殺すことが目的だから、話を誘導している」

「……へぇ? 私が何を、どう、誘導していると?」


 アティの表情が揺れる。それで俺のリリィが何を言いたいのかを理解した。

 ……なるほど、この誘導を仕掛けてきたアティもアティだが、それを簡単に見抜いたリリィってのも凄い女だな。

 こいつ、どれだけ冷静に思考を回転させていたんだ? 直属の上司に裏切られたという、衝撃の中で。


「――バルトサール・アマテイトは、人智魔法の使い手ではない。

 少なくとも自動的に穢れを集積するほどの高度な術式は組めない。だから、あの人はあの部屋から離れなかった。追撃を、仕掛けてこなかった。

 つまりだ、ランディール。私たちは、バルトサール自身を殺さずとも”あの部屋”を破壊するだけで事足りる」


 リリィの言葉に、反論できる者はいなかった。

 場の空気は完全に、リリィに傾いた。


「……生かしておけば、足元を掬われるかもしれないわよ」

「だからといって殺すことを第一目標にすれば、こちらに死人が出る。あれはそれくらいの実力者です」

「っ、分かったわよ、降参。そう、私は”殺し屋”だから標的の抹殺を目的だと誘導したわ。

 でも、少なくとも最初のジェフのように逃げ出すよりはずっとマシな結果になっていたと思う。違うかしら?」


 チッ、アティの奴、俺に話の矛先を向けてきやがったな。ふざけやがって。


「うるせえよ、こちとら息も絶え絶えだったんだ。確実な証拠を握って逃げ出す以上のことをする気力もなかったのさ」

「……リリィさん。確かに僕らの目的は”魔術式の用意された部屋”の破壊でも良いだろう。けど、それはバルトサールが最も恐れていることのはずだ。

 つまりそれをやろうとした時点で、彼との殺し合いは避けられないんじゃないのかな?」


 エルトの奴が一呼吸遅れて紡いだ言葉。

 それもまた真理だった。バルトサールは既にこちらに正体を明かした。

 自らの忠臣も、もうこの世を去っている。転がり始めた状況、タンミレフト首都ひとつを生贄にした力を無為にしないためならば、どんな手でも打ってくるだろう。


「それはそうでしょう。しかし彼を殺すことを第一目標にしないのならば、そこから立てる作戦の成功率は上がる」

「ほう? 貴女はどんな作戦を考えているのですか? ぜひ、教えてほしいな」


 エルトの緑玉の瞳が、色めく。

 相変わらずの色男っぷりだ。こんな時にまで。


「……囮を1人、用意する。その間に、あの部屋を真下から破壊する」

「ふむ、ジェフリー。バルトサールには君の弾丸が、効かなかったんだよね?」

「ああ、神官の力を使っていたんだろう。ぶ厚い力で守られていて本人には1発も通らなかった」


 俺の答えを聞きながら、唸り込むエルト。

 さて、こいつはいったい何をどう考えているのだろうか?

 おそらくこいつが、一番アティに乗せられていた被害者だぞ。


「確かにバルトサール本人を狙うより、部屋を破壊して逃げ出す方が成功率は高そうだ。

 だけど結局、その作戦でも死人は避けられませんよ。囮役は、まず間違いなく生きて帰れない」

「――私がやる。私が時間を稼ぐ。私はアマテイト教会の人間だ。身内の恥、その責任を取る義務がある」


 エルトの指摘を前に、リリィは意地を見せた。

 まぁ、妥当な考えだろう。彼女が言いだしそうなことだ。


「あり得ねえな。あいつは、お前のことを真っ先に殺そうとしてきたんだ。

 この中の4人の中で一番時間を稼げないのが、お前だぜ。リリィ・アマテイト――」


 こちらの言葉に、歯噛みするリリィ。

 そりゃあそうだろう。この指摘への反論は用意できない。俺の言っていることは事実なんだから。


「では、誰なら時間を稼げると考え――「俺だ」


 リリィの言葉を、最後まで言わせるつもりはなかった。

 彼女が”囮”を用意すると言い出した時から考えていた。

 それに対する適役は、俺しかいないと。


「ッ、正気ですか! ジェフ!」

「正気も正気だ、あいつは俺に粉をかけてきた。リリィが死んで、打つ手がなくなったフリでもすれば時間は稼げる」

「……信用ならない冷血漢か、自分の寝首を掻くつもりだと言ったのは貴方でしょう!」

「そうだ。だが、そういう小賢しい真似をしてくれるのなら時間稼ぎになるんだ。お前じゃそれすらない。一瞬で殺し合いが始まるだろう」


 話は完全に決した。リリィの奴が納得していないだけで、この場で”囮役”に相応しいのは俺なのだ。

 それはもう、誰の目にも揺るがない。


「……分かったわ、ジェフ。じゃあ、その作戦で行きましょう。

 そして今は、しばらく休みましょう。まだあなたたち2人はまともに動ける状態じゃないはずよ」

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