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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「農奴ジェフリーはお姉ちゃんと暮らしたい」
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第33話

 引き金に指をかけ、その銃口をリリィに向ける。こんな情けない姿をさらす俺を見て、バルトサールは笑う。

 そして、当のリリィは――


「……なるほど、それが貴方の選択ですか。ジェフ」

「止めないのか? リリィ」

「止めませんよ。貴方が生き残るために、そして貴方自身の過去と向き合うために、ここで私を殺すのは、悪い選択ではないはずだ」


 ――チッ、気色悪い反応だ。これだから神官ってのは嫌いなんだ。

 自分の人生を考えていないような台詞を、言いやがるから。”助けてくれ”とか”殺さないで”くらい言えないのか?

 何が”私を殺すのは悪い選択ではない”だよ。薄ら寒いぞ、自分自身を勘定に入れろ、リリィ・アマテイト――ッ!


「チェンジバレット・スモークボム」


 音声認識を発動させながら、銃口をリリィから外し、床に向けて”煙幕弾”を放つ。


「……それが君の回答か、残念だよ。燃え尽きるしかないなんてね」


 煙幕の向こう、バルトサールは放ったはずだ、6つの小太陽を。

 そして、それへの対策は、既に考えている――!


「チェンジバレット・ホーミングレイザー!」


 煙幕弾から更に銃弾の種類を変更する。より”高い熱源”あるいは、より”密度の濃い魔力の塊”を自動追尾する魔力光線に。

 小太陽を暴発させるには、充分な火力があるはずだ。”太陽の雫”で強化しているのだからなおのこと!


「……ジェフ、どうして?」


 リリィの身体を抱え、最奥の部屋を飛び出し、更に窓を撃ち壊しながらその外へと飛び出していく。

 そして、空に浮いたところで、地面に向けて無数の弾丸を放ち”逆制動”をかける。

 ……ぁあ、分かっていたことだ。この逆制動は上手く行く。そして、同時に異様なまでに魔力を消耗するとも分かっていた。やはりクラクラする。


「どうしてだってか? 分からないのか?」

「ええ、分かりませんね。どうして自らの安全を放棄したのです? お父様のことも」


 やれやれ、俺の腕の中で真面目ぶって馬鹿なことを言わないでほしいものだね。

 俺が自分自身の安全を放棄して、知りたいはずの親父の死の真相も投げ捨てて、意地だけでお前を助けたとでも思っているのか?

 このジェフリー・サーヴォがそんなお人好しだとでも? 随分と甘く見られたもんだ。


「ハッ、くっだらねえ。考えれば分かるはずだ。自らの忠臣だったフランセルを殺したのが”俺”なんだぞ。

 それを簡単に引き込もうとする奴の言う”復讐のための同志”なんて、本気だと思うか? お前、血を失い過ぎて頭が回ってないんじゃないのか?

 どう考えたって”俺の寝首を掻くための罠”か、そもそも”忠臣さえ切り捨てるような信用ならない冷血漢”かの二択だ」


 リリィの身体を深く抱きしめる。頭上からは、バルトサールが追撃を仕掛けてくるだろう。

 そして”音を立て過ぎ”た。来るぞ、死体どもが……!


「貴方は、そこまで考えて……」

「当たり前だろ。そして、この二択がどちらに転ぼうとも、それはお前という切り札を捨ててまで選ぶ選択じゃない。

 分かるな? 生き残るためには、脱出するためには、お前が必要なんだ。リリィ・アマテイト、お前に死んでもらっちゃ困る」


 タンミレフトの屋敷、頭上から降り注ぐ太陽たちにホーミングレイザーを放つ。

 そして、駆け出す。もはや何を考えている余裕もない。

 ただ、物陰へ! 遮蔽物の裏に隠れろ、あの太陽から逃れるんだ……ッ!


「――邪魔だぞ、亡者ども!」


 リリィを強く抱きながら、交差した2つの銃口で狙いを定める。

 ひとつは背後からの太陽に、ひとつは群がってくる死体に。

 魔力の消耗は激しい。だが、まだいける。まだ、もう少しならば……ッ!


「っ……ジェフ、貴方は今、かなり無茶をしている。魔力欠乏は、命に関わります!」

「うるせえ! 自分の胸に穴開けられたんだろ! 自分の心配をしろ!」


 しかし、実際のところ、後がないのは本当だ。

 魔力欠乏は命に関わる――そんなことは、言われなくても分かっている。

 ただ、こうやって実感するのは、初めてだ……!


「……ッ、礼を、言わせて欲しい。ありがとう、私を、助けてくれて」

「ふん、こいつは貸しだ。きっちりと返してもらう。ここから生きて帰るために」


 リリィの体温が上がるのが分かる。どうやら、ようやく本気で生き残るために自分の力を使い始めたらしい。

 そうだ、それでいい。それで。


「――ようやく、逃げ切ったか」


 太陽の追撃が止んだ。隣接する建物の陰に入ったのだ。

 どうやらバルトサールはこちらを追ってくるつもりも、建物ごと破壊するつもりもないらしい。

 ……妙だな。この状況で、自分の正体を知った俺たちの抹殺を最優先にしない理由なんて、あるのか?


「ええ、そして、私たちはまた別の死地に飛び込んだことになります」


 なんとか自分の足で立って……立てているだけのリリィの額に脂汗が滲む。

 そして、彼女の声で理解した。俺たちは遮蔽物の陰に隠れた。

 しかし同時にここは”影の中”なのだ。女神アマテイトの太陽光が射さない場所。

 だから、ここでは、動ける。あいつらが、あの”霊体”が――


「女神よ、我が闘争に祝福を――」


 眼前には3体の霊体。それを前に、こちらの魔力は空に近い。

 だから俺は呟いた。リリィのように、リリィの呟いていた言葉を。

 それが引き金となり”太陽の雫”から全身に力が流れ込んでくるのが分かる。

 ……拳銃というデバイス、それを用いた近接戦闘の作法、ケイとそれを夢想した回数は思い出すのもバカバカしい。


「――ぶっつけ本番だが、試してやる。掛かってこいよ、霊体ども」

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