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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「農奴ジェフリーはお姉ちゃんと暮らしたい」
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第31話

 ――死霊呪術を用いることによる自意識の変容について記録を残すこととする。

 その一文から始まった日記帳の次ページには、容易には解読できない文字――”初期魔術文字”での記載があった。

 読めない言語ではあるが、存在を知ってはいる。

 ”魔法という技術を打ち立てた男”が、当時のアマテイト教会からの弾圧と諜報に対抗するために生み出した暗号。それが”初期魔術文字”だ。


「……ここに綴ったのは、我が目的の全てである。

 思考、知識、それらが改竄されない限り、私はこれを理解することができる。

 これを読み解けるか否か。それをひとつの試金石とする。ねぇ……」


 ――つまり、この初期魔術文字を読み解ければ、それで全てが決する可能性があるというわけか。

 しかし、所詮は1ページに収まる程度の記述量。内容を読み解けてもいない現状で、これだけ持って帰ってそれが”証拠”になると考えるのは楽観にすぎるだろう。


{まず、1人の人間を殺した。タンミレフトの放蕩息子が連れ込んだ”女”を処分するついでだ。

 彼女に苦痛を与え、魂を汚し、その穢れを呪術によって取り込んだ}


 ッ……簡潔に記載されているだけだが、その次ページには”苦痛を与え、魂を汚す”という行為が、克明に記載されている。

 その次には、死霊呪術による穢れの取り込みの詳細が記載されていて、非常に読みやすく構成されているからこそ気分が悪い。

 ここまで冷静な思考回路で、人を殺してその記録を残せるという在り方。それ自体に吐き気を覚える。


{――殺すべき相手を探す必要がある。

 タンミレフトにとっての厄介者だけでは、もはや足りない。

 たったこれだけの数では、計画が遅れてしまう}


 3人ほど殺したところで”穢した魂の取り込み”のために状況を選ばなくなった。

 街に降りて、身よりのない人間に金を渡し、監禁し、実験に使う。その経過が克明に記録されていく。

 そして……


{今のところ、私は私の目的を覚えている。思考に曇りはない。

 しかし、肉体の方に綻びが現れ始めた。左の指先が壊死している。

 人間の身体では、死の穢れに耐えきれないのだろう}


 殺した人間の数が2桁に入った頃合いだろうか。

 肉体の壊死についての記述が入り、このときからフランセルの目的に”竜化”が追加されるようになる。

 竜族というのは”死の女神による汚染”に対して強い種族だ。

 小竜人は汚染される前に死んでしまうし、大竜人や竜人は死に対して程遠いと言えるくらい身体の作りが強い。


{竜人への変化に必要なものは、まず竜族の遺体である。

 ドラガオンのそれが好ましいが、ドルンやドラリオでも代用はできる。

 これの手配については”坊ちゃま”に任せればいい}


 ……いったい、竜化なんていう魔術式をどこで仕入れたのか?

 それに関する記述は無いが、少なくとも協力者が居ることは理解できた。

 ”坊ちゃま”か。タンミレフト家お抱え魔術師フランセルに”坊ちゃま”と呼ばれるような男なのだから普通に考えればタンミレフトの御曹司なのだろうが、今回の事件で生き残ったタンミレフト家の関係者が何人いた?


(……遠方に嫁に出ている娘たちくらいじゃないか?)


 少なくとも先に書かれていた”放蕩息子”は死んでいる。

 タンミレフト家血縁の生き残りは極端に少ない。極端に。

 この首都から運良く脱出できた人間事態はそれなりの数がいるというのに。


{竜化の術式は成功した。

 既に崩れてしまった部分の修復は困難となったが、壊死の進行はない。

 壊死による悪影響もない。ただ、腐っているというだけの話だ}


 かき集められたドルンの死体を元に行った竜化の術式。

 それに関する詳細もしっかりと記載されていて、本当にこの日記単体の価値がとてつもなく大きいことを実感していく。

 死霊呪術に関する仔細、竜化の術式に関する仔細、片方だけでも万金の価値がある研究資料だ。


{――肉体の強化には成功した。だが、精神の浸食が始まった。

 頭の中にずっと響いている。殺せ、殺せ、殺せ。

 全ての命を殺せ、そんな単純な声がずっと響いている。これがサータイトの声なのだろうか}


 まだ、文章そのものは簡潔の域に留まっている。

 しかし、文字が異常だった。それまでの整然な文字が、乱れて、ぐちゃぐちゃで、読み解くのが難しいほどだった。

 ――ああ、確かに狂い始めたのだ。それが良く分かった。


{……読めない、読めない、読めない!

 初期魔術文字が読めない! 何を書いたのか、思い出せない!

 私の目的は何だ? 全ては”坊ちゃま”のためだ、坊ちゃまとは、誰だ?

 私はいったい何を、何をしている……?}


 ――ゾッとする。書き出されている文章にゾッとする。

 なんだ? なんだ、これは? ここまで狂っていたのか?

 あの魔術師は、ここまで……?


{――”坊ちゃま”が、会いに来てくれた。

 そして思い出した。全ては”オルガン”への参入のため、そして復讐のため。

 ライティカイネン家を貶めた”奴ら”への復讐のため!}


 ――ライティカイネン家というのが何なのか。

 そこまでは分からなくても、大まかには理解してしまった。

 同じだ。こいつの言う”坊ちゃま”とやらは、俺と同じ”没落貴族”だ。


{私は捧げるのだ、ライティカイネンから奪った領土で富を得る”タンミレフトの命”すべてを。

 そして、坊ちゃまは”オルガン”の椅子に座り、彼は内側から全てを破壊してくれるだろう。そうして初めてお館様の無念が果たされる!}


 書き出された純粋な復讐心に、寒気が走り、そして――


{ああ、私の全ては、彼のために――全ては”バルトサール・ライティカイネン殿下”のために}


 ――俺は、知ったのだ。アマテイト教会に存在する”内部犯”の正体を。

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