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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「農奴ジェフリーはお姉ちゃんと暮らしたい」
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第30話

 ――そこからの移動は驚くほどに円滑に進んだ。

 死体の総数はかなり減っていて、中には足が腐り落ちたゆえに動けなくなっている個体もいた。

 日数経過による腐敗と、共食いによる霊体化が相当進行していることが伺える。

 つまり夜になったら、本当に後がないということだ。


(ここの角を曲がれば、タンミレフトの屋敷……フランセルの研究室も、そこにある)


 時間はちょうど昼ごろ、太陽が一番高い時間。

 ――確実な証拠がどれだけあるか。それをどの程度の時間で探れるか。

 その作業にかかる時間にもよるが基本的にはまだ、陽が落ちるまでの脱出も可能だ。


(内部犯が仕掛けてこなければ、の話ではあるか……)


 アマテイト教会内部にフランセルの関係者がいたとしたら、リリィの能力の高さは見積もったうえで動くだろう。

 それに霊体の情報も知っていれば、夜までかかるなんて考えずに仕掛けてくるはずだ。


「ここだな……」


 俺とアティが大量の死体を引き連れて突入したことで、タンミレフトの屋敷に張り巡らされた防御術式はズタズタになっている。

 それでもなお歪に発動し続けたであろう術式は大きな音を立て続け、俺たちの戦いの後にも無数の死体が、ここに引き寄せられてきたことは見て分かる。

 そして、その死体たちは身体の大半がバラバラになっていて、既に何もできない。まだ、生きているというだけだ。


「――眠れ」


 サイレンサーにしている拳銃で、彼らの脳天を撃ち抜いていく。

 リリィの炎は音が立つ。ならばここでこの役目を果たすべきは俺だろう。


(……ありがとう。ジェフ)

(彼らにまだ意識があったらと思うと、忍びないだけさ)


 死竜の青い炎にまかれ、生きる死体になって、それでもまだ当人の意識があったとしたら?

 そこで死ぬのではなく魂がまだその肉体に縛られているとしたら?

 そう思うと、見捨ててはいけなかった。せめてもの慈悲として終わらせてやりたくなったのだ。

 これが魔力の無意味な消耗だと分かっていても。それでも。


「――フランセルの遺体、か」


 踏み入れた先、屋敷入口の大広間。俺とアティがフランセルとの死闘を繰り広げたまさに、その場所。

 俺がズタボロにして、アティが止めを刺した”フランセルの遺体”が、無造作に床に転がっていた。

 この地獄を生み出した張本人。そして、俺とアティが殺した男。


「これが、首謀者ですか……ジェフ、警戒を頼みます」


 迷いなくフランセルの遺体へと近づき、その装束を検めるリリィ。

 そして彼女は、その身体から何かしらの”鍵”を引き抜いた。


「何の鍵か分かるのか?」

「いえ、ただ、これは見るからに力のある魔道具です。おそらくこれで塞いでいるのは決定的な何かでしょう」

「つまりこれの鍵穴を見つければ、何か決定的なものを掴める、と?」


 こちらの確認に頷くリリィ。

 なるほど、悪くない見立てだな。


「急ぎましょう、ジェフ。あまりゆっくりもしていられない」


 そう言いながらリリィは、俺の見知らぬ地図を広げた。

 ……タンミレフトの屋敷そのものの見取り図だと? まったくとんでもないものを持っているな。アマテイト教会は。

 こんなものを持っていてなお、フランセルの動きを察知できなかったなんて、それは疑うしかないじゃないか。内部犯という可能性を。


「フランセルの研究室は把握済みって訳か」

「ええ、そうでなければさすがに1日で終わるとは言えませんからね」


 リリィの後に続きながら、歩みを進める。

 アティの奴はこの”太陽の雫”を使うことで張り巡らされた結界を読み解いていた。

 ならば今の俺は、それと同じことができるんじゃないか?なんてことを考えながら意識を張り巡らせている。

 けれど、何も見えない。何も。


「ッ……リリィ、フランセルの部屋ってのは、この扉の向こうか?」

「ええ、貴方にも見えていますか? ジェフ」


 リリィの確認に頷く。この先には、何かしらの防御術式が張り巡らされている。

 それが分かった。魔力の流れが見て取れた。

 いや、正確には違う。この扉のもう一段階奥の話だ。この扉を開いたところで、それは何の術式にも繋がっていない。


「――ああ。だが、この扉を開いても問題はない。その次だ」


 言いながら俺はその扉を開く。そしてその最奥に、さらに厳重な扉があるのを確認する。

 扉に施された装飾自体が魔術式になっていて、その中心には鍵穴。普通に考えれば、先ほどリリィが回収した鍵の使い道がそれなのだろう。

 だが、ここは魔術師の私室だ。十中八九そうだと思っていても、簡単には踏み切れない。


「ジェフ、貴方は人智魔法の素養は?」

「残念ながら一切ないね。トリシャとは違うのさ」

「……では、他のところを調べておいてもらってもよろしいですか? 私は、あれを開いてみます」


 別作業をしようというのか。賢明な判断だな。

 リリィの言葉に頷き、俺はザラっとこの部屋を見渡しながら本棚に目を付ける。

 フランセルという男が死霊呪術をどこから学んだのか? その答えを掴む一端くらいは、あるはずだ。


「日記帳……?」


 トリシャあたりの蔵書やアカデミアでよく見た事のある一般的な魔導書の類いを引き抜いていく作業の中で、俺の指は止まった。

 ……黒革の日記帳、それに見覚えがあった。

 何の因果だろう。これと全く同じ日記帳を使っていたのだ、親父も。どうやらこれはスカーレット王国で一般的に売られている品物らしい。


「――死霊呪術を用いることによる自意識の変容について記録を残すこととする」


 日付は、約3か月前のもので、本文はそんな一言から始まっていた。

 ……サータイトの力、死の力を用いることによる自意識の変容を記した、魔術師の日記帳か。

 これはとんでもない逸品を、引き当てたのだろうな。

 仮に、ここに死霊呪術の出どころやフランセルの協力者に関する決定的な情報がないとしても、これ単体の研究的な価値は余りにも高い。


(死霊呪術とは何か?だなんて”禁忌”にここまで近づく日が来るとはな……)

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