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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「農奴ジェフリーはお姉ちゃんと暮らしたい」
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第26話

「――ジェフ、私の上司に突っかかるのはやめてほしいな。冷や冷やしましたよ」


 高台から結界が敷かれている境界線への移動中、ムスッとしたリリィがこちらに釘を刺してくる。

 まぁ、当然の反応か。俺にとってあのバルトサールとの縁はこれで終わりだが、こいつはずっと続くんだものな。


「ふっ、ダメだったか? 俺はお前のためを思って言ったんだがな」

「成人前の子供を戦わせるのはおかしい、ですか? それは貴方の持論であって”私を利する”ための言葉ではないでしょう。

 議論として貴方の言っていることは正しい。理がないのはこちらの方です。それは認めましょう」


 ――やべえな、この女。俺は正論をぶつけてはいるが、それは別に正しいわけじゃないと全て理解したうえで釘を刺してくるぞ。

 思っている以上に頭の回る女らしい。周囲の状況を正確に認識できること、そしてその認識を盾に言葉をぶつけてくること。

 これが素直にできる奴は強い。強いのだ。


「ですが、あの場あの時において私の上司に向かって私の扱いに文句をつけるということは決して私を利する行為ではない。

 貴方は貴方のやりたい議論を吹っ掛けただけだ。それを恩着せがましくいうのはやめてほしい」

「……仰る通り。すまなかったな。お前の立場、悪くしてしまって」


 こちらが素直に謝ったことに若干の驚きを見せるリリィ。

 まったく、俺が謝れないような部類の人間だと思っていたのかね。心外だな。


「――いえ、今後控えていただければ。それに彼は貴方に何か言われたからといって私の評価を下げるような人ではありません」

「そりゃ良かった」


 そんな会話を終えたころだ。俺とリリィは、辿り着いていた。

 タンミレフト首都に張られた結界、その境界線に。


「……君たちが”潜入部隊”か」


 結界を維持するために、そこにいたのは1人の魔術師。

 アカデミア側が用意した人材なのだろう。どこかで見た記憶がある。


「たった2人ですまないが、そういうことになる」

「……いや、才能あふれるアマテイト神官とブランテッド教授肝入りの機械魔法使いだろう?

 すまないのはこちらだ。君たちのような若者に託さなければいけない」


 ハッ、そういうアンタだってまだまだ駆け出しの若い魔術師じゃないかよ。

 こんな、いつ死んでもおかしくないところで耐え続けるだけの仕事を、よくも……。


「託されるのは神官の役目。こちらこそ、貴方の協力に感謝します。アマテイトの使徒として――」


 そう返すリリィは、確かにアマテイト神官そのものだった。

 俺の性格と、あんな出会いがあったから、そうだと感じる機会がなかったが、なるほど。

 リリィ・アマテイトという少女は既に完成された神官というわけか。


「――ありがたい。さぁ、行ってくれ。結界を壊さずに開いていられるのもそんなに長くない」


 魔術師と視線を交わして、一瞬だけ開いた結界の中に、俺たちは踏み込んだ。

 背後で閉じる結界を感じながら。

 ……後ろは振り返らない。それはただ胸の中の恐怖を増大させるだけだ。ロクなことにならない。


「――ジェフ、ここから最短の地下水道入り口は把握していますね?」

「もちろん。ついて来い。あと、いつでも戦えるようにしておけよ」


 デバイスを引き抜きながら、構え、呟く。


「チェンジバレット・キリングイット」


 起動確認、動作確認――整備し直した通りだ。何の問題もなく動いてくれている。

 そして”太陽の雫”から流れ込んでくる力も依然としてあの時と同じ。

 死体相手に使う必要もないが、いざという時の保険にはなる。


「それが貴方の”機械魔法”ですか」


 真紅の瞳を輝かせるリリィを見れば分かった。彼女も彼女で、既に臨戦態勢に入っているのだと。

 そりゃあ、そうだろう。こんな死の匂いが充満した空間で、臨戦態勢に入らなければ、待っているのは死だけだ。


「……特別な力じゃない。別にお前にだって使えるさ」

「けれど、それを造れはしません。そういうことなのでしょう?」


 トリシャからの説明を受けているのだろうか。詳しいな。


「ああ、そういうことらしいね。トリシャが俺に執着する理由は」


 そんな無駄話をしながらも、歩みは進めていた。

 そして、林に近い草木たちを越え、街中といえる場所に出る。

 出たときにはもう、言葉を発しはしなかった。


(歩く死体は、音と光に反応する。行動目的は”生者を殺すこと”――)


 ……今、視界の中に”死体”は居ない。

 だが、不用意に音を発すれば引き寄せられてくるかもしれない。

 たとえば、この土壁の向こうに、居るかもしれない。そんなことを考えればキリがないのだ。キリが。


(こっちだ、リリィ――)


 先行して歩みを進めになったリリィの肩を掴む。

 無理もないだろう。ここからは細い小道なのだから。

 しかし、小さい割にはかなり鍛えられた身体だな……肩の筋肉に触れるとよく分かる。


(失礼……こちらで?)


 ほとんど無言で身振りと手振りだけでやり取りをする。

 存外に上手く行くものだな。打ち合わせもしていないのに。


(道はここで合っているんだよな……?)


 地図を広げ、道を確認する。

 そしてもうしばらく歩みを進め、地下水道への人孔が見えてくるはずの袋小路へと曲がり込む。

 技術が失われたせいで、移動させられない地下水道の上に建物が立っていく。

 結果的にこんな意味の分からない場所ができてしまっているが、おかげで周囲の安全は確保しやすい……はずだった。


(先客がいるようですね、ジェフ――)

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