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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「農奴ジェフリーはお姉ちゃんと暮らしたい」
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第25話

 ――その光景は、異様の一言だった。

 タンミレフト領首都の大半を見下ろせる高台に本陣が置かれており、そこからは見下ろした光景が”異様”だったのだ。


(首都の境界線、等間隔に配置された神官と魔術師……)


 おそらく彼らは維持しているのだろう。結界を。

 動く死体は1体でも放っておけば大惨事を招きかねない。

 たとえばその死体が動物を殺したらどうなる? その死体が街にたどり着いたらどうなる?

 それを考えれば、この気の遠くなるほどに厳重な警備も当然の帰結だ。


「――予定通りだね、リリィ。そしてお初にお目にかかるジェフリー・サーヴォ君」


 馬車から降り、眼下を見下ろしていた俺たちに声をかけてきた男。

 彼が”アマテイト神官”であることは、ひと目で分かった。

 その真紅の瞳と瞳を見れば。さらに衣服と年齢を見極めれば、おそらくリリィの上司であることにも察しがついた。


「……バルトサール筆頭神官さん、ですかね?」

「ご名答。よく分かったね。僕は君と会っているが、その時の君は意識を失っていたのに」


 柔和な表情、年齢的には30代中頃といったところだろうか。

 トリシャより若い……? いや、分からないな。トリシャの実年齢が分からないせいで。


「話は聞いていたんでね。トリシャに詰められたんでしょ? 大丈夫でした?」


 見知らぬ年上が相手だから少しだけ敬語を使ってみる。

 さすがにトリシャやケイ以外に敬語なしで話すほど常識がないわけじゃない。だが、あくまで少しだけ、だ。


「ああ、あれはキツかったね……いや、彼女がアカデミアという場所で、あの学術都市であれほどの権力を握っている理由がよく分かったよ」


 頭を掻きながら苦笑いを浮かべるバルトサール。

 それを見るだけでトリシャからの詰問が凄まじいものだったことは分かった。

 あの女はそういう奴なんだ。無論、魔術師としての実力が秀でていることはいうまでもなく、他者に要求を飲ませることにも強い。

 そういう政治にも長けている。まぁ、その分、敵も多いという女ではあるが。


「しかしサーヴォ君。君は随分とブランテッド教授に愛されているようだね」

「……愛されている? 違いますね。あいつは俺に貸しがあるから、死なれちゃ困るってだけの話です」

「ふふ、とてもその程度には見えなかったけれどね。まぁ、良いだろう――」


 バルトサールが表情を変える。

 ――世間話はここまで、ということだ。


「サーヴォ君。リリィには説明を済ませているが、今回の任務は飛び切りに危険なものになる。

 それこそブランテッド教授が殴り込んでくるだけのことはあるんだ。覚悟は、出来ているね――?」


 最終確認か。つい先ほど受けたリリィからの最後通告とは似て非なるものだな。

 彼女は俺を逃がすつもりだったが、こいつは俺の退路を断とうとしている。

 なるほど、こういう奴が上司ならリリィのような新人をこういう任務に就けるわけか。


「もちろん覚悟はできています。だが、ひとつ教えてくれますか? 筆頭神官さん。

 この仕事にリリィのような新人を就けたのは、どうして?」

「リリィは新人ではないよ。もう5年は経験を積んでいる。ベインカーテンとの戦闘も越えているんだ」


 ――おいおい、こいつが5年以上も経験を積んでいるのならまず間違いなく成人前からじゃねえか。

 正気かよ、アマテイト教会ってのは。


「……アマテイト教会は、成人前の小娘に経験を積ませるのか?」

「痛いところを突かれるね……ただ、かつての僕自身もそうだったし、教会は慢性的に”神官不足”なんだ」

「あの結界を維持するために、魔術師もかき集めているんだから良く分かるよ」


 ここでの議論は無意味だろう。このバルトサールという男も、おそらくはリリィ自身も、成人前の子供を戦わせることに疑問を感じていないのだ。

 いったいどういう理屈付けがされているのかは分からないが教会というのはそういう場所らしい。

 ならば、俺がそれを糾弾する理由もないだろう。


「君は彼女の実力を疑っているのかな?」

「いいや、リリィのことは疑っていないさ。疑っているのは、こいつをあの死地に追いやろうというお前らだ」


 バルトサールと視線がぶつかる。

 こちらが抱えている疑念を直球でぶん投げたのだ。こういうヒリヒリした空気になるのも当然だろう。


「――その視線、そして振る舞い。ブランテッド教授とそっくりだね。

 僕だって、神官だからといってまだ若いリリィに負担をかけるのは本意ではない。

 だが、他にいないのだ。許してくれとは言わない。ただ、理解はしてほしい」


 ……ふん、もっともらしいことを。

 だが、分からない話ではない。慢性的な神官の不足という現実は、常に歴史の中で火種になってきた。

 教会時代が終わり、魔法時代の幕が開いたのも”魔法皇帝”という強烈な存在以外に”神官不足”という背景があったからだ。

 だから俺は思うのだ――この”太陽の雫”が無数に存在したのなら、歴史で流れた血の量は少なかったはずだと。


「アンタに言っても仕方ないことだったな。すまない、忘れてくれ」

「――情けなくて、すまない。

 ……リリィ、くれぐれも頼む。君の案内人は”教会の人間”ではないのだから」


 下らない念押しだ。彼女がその程度のことも弁えていないと思っているのか?

 信じられないな。部下を見れていないのにも程がある。


「――ええ、今晩までには戻ります。日のあるうちに戻ってきます」

「君がそう言ってくれると心強いよ――この旅路に、女神の加護が、あらんことを」

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