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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「農奴ジェフリーはお姉ちゃんと暮らしたい」
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第23話

「――ほう、生きているって噂は本当だったみたいだな? ジェフ」


 リリィに与えられた1日、その終わり際のことだ。

 俺は”闇夜の盾”の中にいた。


「おかげさまで死にかけたよ。とんでもない仕事を回してくれたな――」


 敢えて怒りを纏いながら、酒場の一角に座っていたマルティンの隣に腰を降ろす。


「マスター、ブラッドショットをふたつ。濃い目に頼む」

「――――」


 マスターと呼ばれた男が、真紅の酒を2杯、滑らせる。

 それはちょうど俺たちの前で止まって、彼の巧さを思い知る。


「これは俺からの祝杯にして、詫びだ。

 何か裏のある仕事だとは思っていたが、まさか”死竜”と戦わせることになるとは思っていなかった」

「……実際のところお前は、どこら辺まで”裏”を想定していたんだ? マルティン」


 真紅の酒に口をつける。かなり濃い酒で、味付けの基本は”トマト”か。

 ブラッドショットなんて言い回しの割には思ったより普通の酒だ。

 ただただ濃いことを除けば。


「……あの小箱を”殺し屋”に届けることくらいだな。

 すまんな、ジェフ。ランディールって名前、この業界では割と有名なんだわ」


 ――なるほど、業界人ならば”アティーファ・ランディール”という名前で察しが付くと。


「それは暗殺者としてか? それともそれ以外にも?」

「まぁ、色々と多岐な仕事をやっているみたいだが、噂は流れてこない。

 普通の仕事の時には名前を変えているんだろうよ」


 あの女が”暗殺”だけを生業にしているとは思えない。そういう研がれ方はしていないように見えた。

 あくまでそれも仕事のひとつであるというだけの話だろう。


「だから、俺があの都市で死竜と戦ったことに関しては予測していなかったと?」

「そうなるな。まさかタンミレフトが一瞬で”死の都市”になるなんて分かっていたらお前を送り込んだりしない」


 ――怪しいもんだな。だって、こいつは、俺が”死竜”と戦ったと言って驚かなかった。

 アティの標的が今回の事件の首謀者であると推測しているのならば、驚かないのは分かる。

 だが、その推測の確認さえしないのは、もっと核心的な情報を掴んでいるからとも考えられる。


「ベインカーテンが、動いていると思うか?」

「さぁな。だが、あいつらが動いていたとしたら”教会”は後手に回るとは考えにくいぜ」


 死の女神・サータイトを祀る”邪教の集団・ベインカーテン”

 奴らの動きに対し、アマテイト教会は最大の注意を払っている。

 そう、だから、あいつらが背後にいるのならば、その動きは察知されるはずだ。教会側に。


「じゃあ、闇夜の盾としてどんな見立てがある?」

「さて、どうだろうな? 正直なところ全く見立てが立たない。ただ、ランディールを動かした奴が誰なのか?を追えば自ずと答えは見えるだろうよ」

「けれど、そこは追えないってか?」


 こちらの確認に、薄い笑みを浮かべながら頷くマルティン。

 まぁ、あの女に深入りしたら”底なし”なのは目に見ているものな。


「だが、魔術体系的には”死霊呪術”が使われている。

 そこに対して教会がここまで後手に回っているのは、相手がよほど巧妙かあるいは……」


 ベインカーテンという組織の動き、死霊呪術という技術の拡散の流れ、その全てにアマテイト教会は気を配っている。

 死霊呪術に手を出したという疑惑をかけられて失墜した”お抱え魔術師”は多い。

 貴族側も、教会からお抱え魔術師を守るのは辛い面もある。その大半は守り切れないし、簡単に切り捨てる。


「――”内部犯”を疑っているな?」

「まぁな。俺たちのサガみたいなもんだろ? いつ隣の奴や上の奴に裏切られるか分からないってのはさ」


 確かにアマテイト教会が出し抜かれたということだけで”内部犯”を疑うに足る理由になる。

 ここ10数年以上、あんな大惨事を未然に防ぎ続けてきたのだから。

 だが、逆に言えば10数年に一度くらい出し抜かれるのも当たり前じゃないか? 所詮は人間のやることだぞ。

 それにあのリリィを見ると……内部犯というのは考えたくない可能性だ。


「かもな。現に俺は、お前だって疑っているんだぜ? マルティン。お前、まだまだ知っていることを伏せているだろう?」

「そりゃあ、そういう仕事だからな。知っていること全てをペラペラと喋るようじゃ、この席には座ってられねえな」


 ――マルティンの鋭利な瞳とぶつかり合う。

 さぁ、ここからだ。ここからが今日、俺がここに来た本題だ。


「情報を伏せるのは仲介屋のたしなみ、ってか――?」

「そうだと答えたら? ……お前は何を望んでいる、ジェフリー?」


 水を向けてくれたか。少しは楽に事が運べるかもな。


「お前が情報を伏せたおかげで、俺は死にかけた。今回の報酬は治療費で吹き飛んじまったよ」

「ほう? 今のアマテイト教会はそんなにぼったくるのか」

「死霊呪術で死にかけたからな。その治療にはかなりの手間がかかるんだと」


 ――嘘はついていない。ただ、たったひとつの真実を伏せているだけだ。

 今回の治療費は、次の仕事を引き受けることで満額補填されるということを。


「つまり、お前は今回の経費を補填しろって言いたいわけか」

「そういうことだな。流石にこのままじゃ大赤字なんでね」

「……いいだろう。今回だけだぜ? あと条件がもうひとつ。次にアマテイト教会がどう動くか教えろ。お前は今、最高の情報源だ。あいつらはお前に何を求めてきた?」


 治療費の補填は確約された。そこに被せてきたのは”情報の提供”だ。

 ならば、俺の返す答えはひとつしかない。


「答えてやってもいい。だが、そいつは別料金だぜ? マルティンさんよ――」

「――ほう? ということは金が発生するだけの価値があることを頼まれたんだな? ジェフ」


 ……ちっ、推測の巧い男だ。しかも当たっているのに腹が立つ。


「そういうことだ。それなりの金額を、つけてもらうぞ?」

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