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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「農奴ジェフリーはお姉ちゃんと暮らしたい」
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第12話

「それで、作戦はあるのか? 魔術師殺しの作戦は」


 ――地下水道を歩き進んでいく。先を歩く彼女の背中に、俺は語りかけていた。

 こいつ自身が言ったのだ。このアーティファクト程度で勝てると思っていないか?と。

 ならば何かしらの算段があるのだろう。


「今回の標的、フランセルは狡猾な魔術師よ。

 きっと彼の根城には無数の魔術式が仕掛けられているわ。外敵を絡め取るようなそれらが」

「ああ、魔術師の本拠地を狙うなんて正気の沙汰じゃねえよな」


 魔術師と戦うのなら、最低限、相手の知らない場所に誘導してからというのは、基本中の基本だ。

 ああいう魔術的な罠を無限に仕掛けられるような人種を相手にそいつの陣地で戦うのは、自殺行為である。


「けれど、この惨状を起こしてご満悦のあいつが、簡単に外に出てくるはずもないし、それを待っている余裕もない」

「分かっているさ。だからどうしようかって話だよ、ランディール」


 今回の標的、タンミレフト家のお抱え魔術師フランセルというのが、どういう男なのかは知らない。

 だが、死の女神の力まで使って都市ひとつを殺したのだ。ならば、求めるところは、その生きる死体から集められる”魔力”だろう。

 通常の人智魔法においては魔力というものは保存が利かない。しかし死の力であれば、その身に穢れとして貯め込むことができる。

 

(――フランセルとやらは動かないんだろうな。この都市が、死体で満ちるまで)


 まず初手の青い炎で”生きる死体”を無数に生み出す。

 あとは放っておけば、そいつらが僅かに残った生存者でさえ殺してくれる。

 最後にその死体どもを何かしらの形で取り込めば、魔術師サマは都市ひとつ分の魔力を”穢れ”として手に入れるという寸法だ。


「簡単な話よ、サーヴォくん。外にいる死体を使うの」


 笑う口元、鋭利な瞳――余裕そうでありながら冷徹な彼女の在り方に、ゾクリとする。

 そして、彼女が語りだした作戦にもまたゾクリとさせられる。

 慣れているが故の大胆さと慎重さがあって、あまりにもそれらの絶妙なところを突いていたから。


「正気かよ、アンタ……!」

「あら、大胆なのはお嫌いかしら?」

「まさか。大好物さ」

 

 この女の口にした作戦は、一言でいって”とんでもない”ものだ。

 そんなもののパーツにならなければならないこと。なれること。

 この事実に、俺の肝は冷え、同時に胸が熱くなっていた。


「さぁ、上がるわよ。ついてきて」


 先行するランディールの太ももを見ながら、人孔に備え付けられた梯子を登っていく。

 ……この女、相当に鍛え込んでいるのだろうな。筋肉の付き方で分かる。

 そして同時に色気もある。こういう業界でも、確実な武器になる水準の色気が。


(最初はこいつ1人でフランセルをやるつもりで、それが可能だと思っているし、思われているんだよな――)


 魔術師を相手に”暗殺”を仕掛けること。それだけの実力を自他ともに認めていること。

 まだその片鱗さえ見てはいないが、彼女の実力は恐らく間違いのないものなのだろう。

 それだけの力を持つ女暗殺者で容姿も良いとなれば、恐らく彼女は引く手あまたなんだろうな。


「――ッ、覚悟しなさい。ジェフリー」


 なんだ、名前で呼び捨てだなんて急に親密になりやがって。なんて軽口を叩こうと思った。

 けれどそんな気は失せてしまった。光の向こう側、漂ってきた匂いを、感じ取った瞬間から。


「アティ……これは、」


 これが”死の匂い”であることくらい分かっていたはずだった。それなのに、言葉は自然に零れ落ちていた。

 つい先ほどまでそこにあったはずの喧騒が嘘のように、静まり返った街。

 ここに充満しているのは、濃厚な腐臭。つい先ほど死んだばかりの死体が、まだ視界の端にも見えない死体たちから漂っているのだ。

 腐り落ちた肉の匂いが。


「ハァ……ッ、最低の気分ね」


 出会った時に、アティが叩いてきた軽口を思い出す。

 ”どうしたのかしら? この世の終わりを見てきたみたいな顔をして”――だったな。

 ああ、きっと、世界の終わりってのは、こういう景色を言うのだろう。


「左側、あの建物が”タンミレフト家の屋敷”よ。フランセルはあの建物のどこかにいるはず」

「……流石は貴族の屋敷、思っていたより大きいな」

「ええ、けれど”防御術式”は、屋敷の外周にまで張り巡らされているわ。それも厳重警戒って感じ。

 石ころひとつ放り込んだだけで手荒い歓迎が待っているわね」


 アティが首元に降ろした”太陽の雫”とアティ自身の瞳が”真紅”に輝く。

 なるほど、疑似的なアマテイト神官の力を使っているというわけか。


「もう来客もないだろうしな。普段は緩くしている警戒も最大級ってことだろうよ」


 アティの肩を叩く。視界の端々に”死体ども”が見えてきた。

 匂いにも音にもまだ反応はされていないようだが、時間の問題だろう。


「ッ……いつでも良いわよ、ジェフ。引き金は、あなたのものなんだから」


 アティの言葉が、身体に響く。そして俺は、拳銃というデバイスを引き抜いた。

 ――こんなものを弄れるせいで、トリシャ・ブランテッドという女狐に目を付けられた。

 だが、これを用意していたおかげで今、俺は戦うことができる。ならば今は、それを誇ろう。この力を、誇ろうではないか。


「――チェンジバレット・フラッシュバン」

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