表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「農奴ジェフリーはお姉ちゃんと暮らしたい」
67/310

第6話

 ――学院生としての生活を始めて2週間目に突入したころだ。

 俺はそろそろ”金を稼ぐ”ということを本気で考え始めていた。

 このアカデミアという学術都市では、魔術師であればいくらでも稼ぎのいい仕事がある。魔術師でなければ、飲食店の給仕のような利率の悪い仕事ばかり。


(……機械魔法なんて、所詮は戦うことしかできない力、か)


 普通の魔術師であれば、もっと多彩なことができたのだろう。

 しかし、今の俺の手持ちは2丁の拳銃だけであり、他のデバイスを用意しているだけの余力はない。

 まずはこの手持ちで稼ぎ始めなければ、何も始まらないのだ。何も。


「――よう、姉ちゃん。こんな物騒なところに何の用だい?」

「ハッ、姉ちゃんだと? 俺が――?」


 キナ臭い酒場に足を踏み入れた俺を待っていたのは、カスのような客の”からかい”だった。

 ここは、とある裏ギルド――”闇夜の盾”が仕切っていると聞いていたが、噂通りの治安の悪さだな。


「そりゃあ、こんな顔してたら男だって女だぜ? なァ?」


 酔っ払いが肩に腕を回してくる。ここで受け入れたら、俺は本当にこいつらの慰み者だ。

 冗談じゃない。それにこうやって絡んできてくれるのは好都合でもある。

 この俺の実力を示すことができる。この場において、闇夜の盾に。


「ほう、じゃあ、お前は女に組み伏せられる軟弱野郎ってことで良いんだな?」


 足元を掬い取り、床に叩きつけながら、その髪を捻り上げる。

 ドクターに仕込まれた護身術だ。戦うということにおいて、俺は俺の実力を疑ったことがない。


「てめえ――!」


 酔っ払いの仲間たちが一斉に飛び掛かってくる。

 それを簡単にいなしながら、飛び退き、俺は懐の拳銃を引き抜く。


「――チェンジバレル・スタンガン」


 音声認識により、銃の特性を変更する。そして今もなお襲い掛かってくる奴らに、突きつけて、引き金を引く。

 走るのは電流、身体の動きを止める、魔法の力だ。


「な、なんだ、これ……!?」

「説明なんてしてやると思うか? この俺が、お前らなんぞに」

「クソ、ふ、ふざけやがって……ッ! ぶっ殺してやらァ!」


 刀剣を引き抜いてくる酔っ払いども。

 さて、ここからは本当に流血沙汰待ったなしだな。


「――待て待て待て! この場、この男、このマルティン・ヴィアネロが預からせてもらう」


 一触即発となったこの場に割り込んでくる1人の男。

 マルティン、ヴィアネロ……だと?


「チッ、てめえに出てこられたら仕方ねえな」

「分かってくれれば結構。じゃあ、お前の方にはついてきてもらうぜ? 良いな」


 マルティン・ヴィアネロ、そう名乗った男が、俺の手を引く。

 そして俺は、この酒場の奥へと連れていかれる。

 ……ヴィアネロか。聞き覚えの無い名前ではない。それどころか今でもまだよく覚えている。


「なぁ、アンタ、本当にヴィアネロなのか? マリアンナは、どうしている……?」

「ッ――やっぱり、お前だったか。ジェフリー・サーヴォ」


 酒場の最奥、音のない個室に入ったところで、俺とマルティンは言葉を交わした。

 そして確かめ合った。互いが互いに、思っている相手が目の前にいることを。

 こちらの認識に誤りがないことを。


「マリアンナは、行方不明だ。あの時以来、俺はあいつのことを見ていない」

「……そっちの方は、王軍に追われたんだったな。よく、無事で」

「全くだ。俺も未だに、俺が生きていることが信じられない」


 ヴィアネロとサーヴォ、この2つの家は同じ”10年前の政変”で没落した貴族同士だ。

 その政変の全容は、幼かったせいで俺もいまだに理解していないが、ヴィアネロ家の兄妹のことはよく覚えている。

 兄マルティンと妹マリアンナ。俺たちと歳が近かったこともあって2人とは本当に仲良くさせてもらった。


「シェリーは? お前の姉さんは元気か?」

「ああ、諸事情でな。あいつは田舎の方にいる。俺だけアカデミアに引っ張り出された」

「……相変わらず厄介そうだな、ジェフ」


 振る舞われた酒に口をつけながら、答える。


「没落貴族なんて何がどうなったって厄介なままさ。周りの事情に振り回され続ける。

 そういう運命の元に生まれちまったんだ」

「違いない。それで、今日はどうしてこんなところに――?」


 本題に入るというわけだな。

 何の因果か、旧知の相手マルティン・ヴィアネロは今、この”酒場”で強い存在力を持っている。

 もし俺の掴んだ情報通りに、この酒場が”闇夜の盾”の活動拠点のひとつだとしたらマルティンは恐らく……。


「――闇夜の盾に興味がある、と言ったら?」

「どうして……?」

「金を稼ぎたいから。実力はさっき示したはずだぜ。続けていたら俺は、あの場の全員を殺すこともできた」


 こちらの言葉に、口元を吊り上げるマルティン。


「ふふ、あのサーヴォの坊ちゃんが、随分と殺気立ったことを言うようになったもんだな」

「で、どうなんだ? 俺は、アンタが闇夜の盾の人間なんじゃないかって、期待してしまっているんだけどよ」


 さて、どうだ? いったいマルティンはなぜ、ここにいるんだ?


「――ご明察、今の俺は”闇夜の盾”の構成員だ。

 そしてこれを知ってしまった以上、お前はもう引き返せないぜ? ジェフリー・サーヴォ」

「望むところだ。元より俺は、そのつもりでここに来た――」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
cont_access.php?citi_cont_id=801327974&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ