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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「農奴ジェフリーはお姉ちゃんと暮らしたい」
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第5話

「――しかし、相部屋とは奇遇ですね、ジェフ」


 入寮説明会を終え、近場の喫茶店で知り合ったばかりの同輩とコーヒーをすする。

 女と見間違えるような整った顔立ち。稲穂のように透き通る黄金色の少し長めの髪。そしてエメラルドのような宝石色の瞳。

 つくづく美しい男とお近づきになってしまったようだな、俺は。


「全くだな、エルト。これも女神さまの思し召しかね?」

「さて、どうでしょう。ただ、僕は感謝してもいいと考えています。貴方との巡り合わせを」


 確かに太陽神・アマテイトへの感謝くらいしてもいいのかもしれない。

 泥のような学院生生活になると思っていたが、相部屋相手と早々に略称で呼び合える関係になったのは、確かに僥倖だ。

 これで少しは、この退屈な学術都市生活もやり過ごせるというものだろう。


「それで、ジェフ。貴方とトリシャ・ブランテッド教授の関係について、お教えいただいてでも?」

「フッ、別に特別な関係じゃないさ。俺が農奴って話はしたか?」

「いいえ、初耳ですね。農家さんなんですか?」


 エルトの確認に頷く。……元貴族だって話は、伏せておいたほうが良いだろうな。

 そういう格好の悪い話を、喧伝したくない。


「まぁな。ドクターケイって奴の領土を間借りして農家をやってた」

「そのドクターケイ……?という人は貴族? 聞き覚えがないですね」


 ほう、エルトの奴、貴族の名前を知っているのか。

 ……あぁ、なんかこいつの正体、なんとなく分かった気がしてきたな。


「貴族から土地を賜った奴だ。一代限りの名誉貴族だな。だが、その土地をトリシャに売り飛ばした不届き者さ」

「ああ、そういう人ですか。で、ブランテッド教授がその土地を買ったっていうのは、いったいどう繋がってくるんです……?」


 そろそろ筋道を立てて説明してやらないとダメだな。

 情報の出し方が散発的すぎた。エルトの奴が混乱してしまっている。


「もともと俺はドクターケイの土地を間借りしている農奴。

 で、ドクターケイとトリシャってのは師弟関係なんだ。機械魔法に関しての」

「……ほう、あのブランテッド教授の師匠ということ、ですか?」


 エルトの確認に頷く。師弟が逆の可能性も考えなかったわけじゃないといったところだな。


「そうなるな。その関係もあって、俺は子供のころから機械魔法に触れてた。

 これくらいのものは、造れるように仕込まれてた」


 言いながら、胸のホルスターから拳銃を引き抜く。人体のうちに宿る魔力を、力として放つ機械仕掛けの魔術式。

 それを机の上に置く。もちろんセーフティロックが仕掛けてあるが、少し喫茶店の中ではよろしくないかもしれないな。


「ああ、先ほどの塗料弾ですか」

「まぁな。ただ殺傷能力のある弾丸に変えることもできる。基本的には魔法と同じだ。

 違うのはこいつは誰にでも扱えるということさ。トリシャは順当な魔術師でもあるが、俺に魔術の才能はない」


 エルトの表情が変わる。


「噂には聞いていましたが、誰にでも使えるのが”機械魔法”という技術の存在は、事実なんですね……?」

「そうだ。それで、俺にはこういう拳銃のような”デバイス”を弄れる才能があるらしくてな。トリシャの奴から強烈な勧誘を受けていた。

 で、俺があまりにも応じないもんだから、あいつはドクターの土地を買い上げ、俺の地主になったのさ」


 こちらの説明に頷くエルト。だいたい俺の状況は把握してくれたらしい。


「そうやって貴方はアカデミアに追い込まれたんですね?」

「ああ。だから俺の目的は、あのトリシャから土地を買い戻すこと。それだけだ」

「つまり、元の生活に戻ることが貴方の野心だというわけですか」


 拳銃を仕舞い込み、エルトの問いに頷く。


「ガッカリさせてしまったかな? 俺の野心はどこまでも後ろ向きなんだ」

「いえ、構いませんよ。僕は貴方から感じた強い意志に惹かれましたからね」

「そりゃどうも。で、エルトさんよ? そういうアンタは何者なんだ? 貴族というものに随分と明るいようだが」


 ――エルハルト・カーフィステイン。それが、エルトの名前だ。

 俺のサーヴォ家が没落していなければ、あるいはその没落が少し遅れていれば、俺もカーフィステインという名前だけで分かっていたのかもしれない。

 だが、生憎と今の俺の頭には、スカーレット王国の貴族たちの名前なんて入ってはいないのだ。


「カーフィステインという名前は、貴方のところまでは届いていませんでしたか。ジェフリー・サーヴォ」


 ふん、それはこっちの台詞だ。お前は、10年以上前に没落したサーヴォの名前を知らないじゃないか。


「言うなよ、俺はド田舎に籠っていた農民なんだぜ?」

「フッ、それもそうですね。僕の実家、カーフィステイン家はドラゴニアとの国境線に領地を持つ地方貴族です。

 だから僕の野心はただひとつ。ドラゴニアから民を守る力を、土地を奪う力を、それだけだ」


 女のような顔、宝石のような瞳で、随分とギラついた表情をするものだ。

 良いね、嫌いじゃない。こういう奴は好きなんだ。

 自らの意志を明確に持っている人間は、それだけで好感が持てる。


「――専攻は、兵法科だったな?」

「ええ、ですが機械魔法にも強い興味があります。これを兵法として運用できれば、革新的な力になる。

 今日で、それを確信することができました。ジェフ、いつか貴方の力を、お借りすることになるかもしれません」


 エルトの問いかけに、ニヤリと笑みを浮かべる。


「俺は金で動く。土地を買い戻すための金が要る。何が言いたいか、分かるな――?」

「ふふっ、金策をしておかなければいけませんね」

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