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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「農奴ジェフリーはお姉ちゃんと暮らしたい」
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第4話

 ――都会というのは、なんでもある場所だ。

 飯も、人も、知恵も、技術も、なんでもある。

 ただ姉さんだけが居ない。それだけで俺には全てがゴミのように見えていた。


「君たち、学徒諸君には――」


 入学式に合わせて行われているつまらない演説を、他の学生たちに紛れて、聞き流す。

 同輩を見渡せば、どいつもこいつも腑抜けた面構えで、どいつもこいつも恵まれた人生を歩んできたのが見て取れる。


「……吐き気がするぜ」


 もしもサーヴォ家が没落していなかったのなら。俺も姉さんもこの有象無象の1人だったのだろうか。

 そう思うと少しゾッとする。特に姉さんが、こんなつまらない人間の中で育っていたらと思うと。


「失礼。隣、よろしいでしょうか?」


 大学入学以前の付き合いのまま、数人ごとに座るのが慣例らしいこの場所で、たった1人だけで座っていた俺の横に1人の男が現れる。

 お互い、ここにコミュニティを持たない外様というわけだ。ましてやこいつは、入学式に遅れてきた強者でもある。


「……構わないぜ」

「ありがとう、僕は兵法科のエルハルト。君は?」

「機械魔法科のジェフリーだ」


 金色の長髪に緑色の瞳をした、女のようにも見える男。

 しかしその柔らかな容姿とは裏腹に、瞳は何かギラギラしている。

 ……なるほど、最低限ほかの有象無象とは違うようだ。


「いや、スカーレット王国の英知が集まるアカデミアと聞いていたから、学院生も野心の1つや2つはある人間ばかりだと思っていたんだけれどね」

「……ほう、無いように見えるか? お前の瞳には」


 入学の挨拶をしている各学科の教授陣よりも、今から同輩となる学生たちに目を向ける。

 ……確かにエルハルトという同輩の言うように、他の学院生には、野心のヤの字も無いように見える。

 個々の事情は知らんが、人生として踏まなければいけないステップを踏みに来ただけって感じだ。


「うん、少なくとも僕の瞳には君しか見えなかったよ」

「そうかい。ただ俺はこの場で一番、ここに来たくなかった男だぜ?」

「ほう、詳しく聞きたいな。君の事情というものを――この後で食事でもどう?」

「構わない。ちょうど話し相手が欲しかったところでな」


 こっちに来てから他人にここまで話しかけられるのは初めてだったし、ここまで興味の沸く相手も初めてだった。

 エルハルトか。女みたいな面構えの中に、こいつはいったい、どんな野心を抱えているのやら。


「おい、そこのよそ見してるバカ学生!」


 レーザーポインターが向けられる。

 いつの間にか、あの”女狐”が壇上に居たらしい――機械魔法科教授トリシャ・ブランテッドが。

 瞬間、バッと椅子の裏へと飛び退き、拳銃を抜く。


「チェンジバレット、ペイントイット――」


 音声認識でこちらの銃弾の性質を変える。

 流石にこの人ごみで殺傷能力のある弾丸は使えない。


「よく見てな、学生諸君! こいつが機械魔法さ――」


 放たれるペイント弾、トリシャが放ってくるペイント弾。

 少しでも椅子から身を出せば、カラフル人間の出来上がりって訳だ。


「……知り合いなんです? ブランテッド教授と」


 同じ椅子の影で、エルハルトの奴が尋ねてくる。


「そうだ。あの女狐にここに放り込まれた」

「へぇ、学科を率いる若き秀才とコネをお持ちとは。ぜひ友人になりたいものですね」

「ハッ、あんなんに好かれたって良いことないぜ?」


 さて、どう仕掛けるか。カラフル人間はゴメンだ。


「僕が煙玉を打ちます、そのあとは任せます」


 そうパチンコを引き絞ったエルハルトは、狙いを違えることなく壇上に煙を発生させる。

 それですべてが見えなくなる前に、こちらもまたレーザーポインターを起動し、トリシャに向けて引き金を引いた。

 さぁ、これで終わりだ……ッ! カラフルになるのは、お前だぜ、トリシャ!


「――ごめんごめん。あれ、投影した偽物なんだわ」


 2つの拳銃が俺とエルハルトの顔を捉えていた。

 ……壇上のはニセモノ、本物はこの至近距離で銃口を向けるタイミングをうかがっていたのか。

 しかも、ご丁寧にペイント弾まで幻影とは。やってくれる。通りであそこまで容赦なくぶっ放していたわけか。


「チッ、打てる手はない。降参だ」

「僕も同じく」


 銃を下げる、どうしようもない。

 しかしこの女、いったいいつの間に投影した偽物なんてものを使えるようになっていたんだ?

 全く気が付かなかった。あれが幻惑の類いなどとは。


「さて、見ていたか? アカデミアの学徒となった若人たちよ。これが魔法、その中でも私が専攻する機械魔法だ。

 君たちは今より、それぞれの学部、それぞれの学科で技術と知恵を身に着けていく」


 学生席の間を歩き、壇上へと戻っていくトリシャ。その一歩一歩が、その一言一言が、学生たちに火をつけていくのが見える。

 ……ふん、女狐に乗せられる程度だったか、つまらない有象無象どもめ。

 そして俺とエルハルトは、そのダシか。全くもって嫌になるね。


「ここで得た知識、ここで得た技術は生涯の宝となるだろう。そうとなるように君たち自身が怠らず、努力を積み重ねれば。

 そして、同時にアカデミアという場所は通過点に過ぎないということを忘れるな。ここで得たものを、先に待つ人生にどう活かすか、それを意識しろ」


 ノリノリで話すトリシャが離れていったところで、エルハルトの奴に耳打ちをする。


(この後は自棄コーヒーで良いな? エルハルトさんよ)

(ええ、ボクたちの敗戦記念には、相応しいでしょう。ただ、その前に入寮説明会に出なければいけませんので、その後でも?)

(あー、それ俺も出なきゃいけない奴だ。うん、その後に行こうぜ)

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