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第5話

「――つまり、君は”殿下の招待”を受けたトリシャ教授の”代理”というわけか」


 案内された”黒苺の停留所”の中、白みかんジュースを振る舞われながら、ボクはいくつかの質問を重ねられていました。


「そういうことになりますね。ただ、ゴットハルト殿下には、会ったことがないんですけど……」


 これは、後から確認したことになるけれど、トリシャ教授に生誕祭の招待状を渡していた学院生というのが、これまた凄い人だった。

 ――その名は、ゴットハルト・グリューネバルト。そう、このグリューネバルト領を治める地方貴族の御曹司だったのです。


「ふぅん? 俺はあるぜ。まぁ、ここの領民なら誰だってあるだろうけどな」


 そう言いながら、オールバックの前髪を撫でるタルドさん。

 艶やかな黒髪、すべてを射抜くような青い瞳。

 本当に、綺麗な人だ。男の人相手に思うことではない、のかもしれないけど。


「ところで、君はアカデミアで何を学んでいるんだ? 魔術師や神官じゃないのに女の子が学院生だなんて珍しいんじゃないのかな」

「どうでしょう? アカデミアには、女の人も多いので、気にしたこと無かったですね」


 トリシャ教授のような存在が、一気に出世できる程度には、アカデミアという場所に女の人は珍しくない。

 ただ、それは確かにタルドさんの言うとおり、魔術師や神官という特別な才能を持つ女の人だけなのかもしれない。


「まぁ、魔法使いが、私は魔法使いですなんて格好で歩いているわけじゃないもんな。でも、君は魔術師ではないんだろ?」

「ええ、そうですね。ボクは”魔術史学”を専攻しているだけで、魔法の才能はありません」


 魔術史学、ねぇ……と呟くタルドさん。

 アカデミアの関係者以外に”魔術史学とは何か”ということを説明するのは、手間だ。

 何度か経験したことがあるけど、だいたい『魔法を使えないのに、魔法を学んでどうするの?』とトンチンカンなことを言われて腹が立つ。


「それで、ベアトリクス様の生誕祭に来たってわけか。教授サマの代理としてねえ」


 ――ほほう? このタルド・ブラックベリーという人、魔術史学とは何かを知っているみたいだね。

 親元ですぐに働き始めていて、しっかりとした教育は受けていないと推測していたんだけど、この読みは外れみたいだ。


「ええ、彼女……いえ、彼と言うべきでしょうか。とにかく慈悲王様は、魔法王たちの中でも特異な魔法王です。興味があるんです」

「――魔法王が、ここまで祝福されている土地、他にないだろうからな。驚くだろ?」


 タルドさんの言葉に頷く。凄いな、この人。

 いちいち説明しなくても、こちらの言いたいことを簡単に理解してくれる。


「はい。だって、魔法王の生誕祭をやるなんて正気じゃないですよ」

「ククッ、言いたいことは分かる。だが、俺の前以外では言うな。ここの領民たちは、みんな慈悲王様を愛しているからな」


 唇に人差し指を重ね、シーッと囁くタルドさん。

 その動作が、いちいち艶めかしい。色気の塊みたいな人だ。

 それに、本当にこの人、教養がある。


「だがな、クリスの嬢ちゃん。悪いお知らせだ――アンタは今すぐアカデミアに帰った方がいい」


 ギラついた群青色の瞳が、ボクの瞳を射抜いてくる。

 ……ボク自身も、紅玉色の瞳で、面と向かい合うと”変な感じ”だと言われたことがよくある。

 そのたびに失礼な人だと思っていたけれど、なるほど、確かにこれは”変な感じ”だ。

 宝石のような瞳で見つめられると、それだけで、ぞわぞわしてしまう。


「……どうして、ですか? だって、貴方はボクに泊まってもらった方が良いはずですよね」

「宿屋が客を追い返すのはおかしい、ってか?」


 前髪を撫でながら、なお、タルドさんの瞳はこちらを見据えている。

 ここで揺らがないということは、確固たる理由があるのでしょう。

 それがなんなのかは、分からないけれど。


「クリス、君の意見はごもっともだ。

 だけどな、この黒苺では、お客様の安全を第一に考えている。

 君のような幼い女の子相手なら、特にね」


 幼い女の子とは、随分と甘く見られているなと思う。

 けれど、ここでそれを否定するほど子供じゃない。


「ボクの安全、ですか?」

「ああ、ここに入ってくるときに、クソのような領兵が検問をしていただろ? アレには理由があるんだ」


 グッと顔を寄せてくるタルドさん。その真剣さは、本当に刃物のようだ。


「――今、このグリューネバルト領で”ドラコ・ストーカー”が、暗躍している」


 ”ドラコ・ストーカー”だって……?


「本当、なんですか……?」

「ああ、今は回復しているが、フラウフリーデ殿下が襲われた」


 フラウフリーデ、その名前に聞き覚えはない。

 けれど、殿下と呼ばれているということは、まだ見ぬゴットハルト先輩の親族と言うことなのでしょう。


「その他にも、ドルンの活動が目撃されている。

 目的は不明だが、どうせ最終的な狙いはベアトリクス様の生誕祭だろう」


 まさか、南側の海岸線沿いで”ドラコ・ストーカー”の名前を聞くことになるなんて。

 北側の”竜帝国”から最も遠い土地で”竜族”の影を感じることになるなんて。


「……ドラコ・ストーカーが、襲ったって、いったい何があったんですか?」


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