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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「クロスフィールド・ルポタージュ 後編」
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第82話

「――しっかしまぁ、ここまで最初に言った”連絡を密にしよう”ってのが役に立たないとはな」


 バネッサからは今日が作戦決行の日だと教えてもらっていた。ちょうどこの宿で。

 あいつが天魚屋に行くということも教えられていた。忘れ物とか言っていたが、まぁ、それ以上に何かあるのは分かる。それを追求するつもりもない。

 問題なのは作戦を知っておきながら教えてこなかったクラリーチェ。そして何故あんな場所で戦っていたのかさっぱり分からないアドリアーノとベルザリオの兄貴だ。


「悪いな。この話、バネッサともしたんだが、機械魔法使いのアディントンに会いに行っていたからよ」

「……それで収穫はあったのか?」

「シルキーテリア領にストライダーってのが集まってるらしい。マキシマと同じような連中だ。

 そんな話を聞きながら、アディントンたちが籠城してるのを見ていたら情が湧いた」


 ……まぁ、アドリアーノらしい話だ。

 イルザの記憶を通じて、こいつが本当に死にもの狂いでアマテイト教会を守っていたのを見た。

 だからこそあまり強く言えないところはある。


「ストライダーか。やっぱりあの機械技術を持ち込んでいるのはマキシマ博士1人じゃないって訳だな」

「ああ、結構いるらしい。アディントンもそうだった」


 考えていなかった可能性じゃない。あの冬の島という閉鎖された狭い場所にでさえ現れたのだ。

 このスカーレット王国に他に1人もいないということはないだろうとは思っていた。

 しかし、特に集まっている土地があるとは。興味深い話だ。


「それで兄貴の方は? どうして領軍内部の吸血鬼との戦いに?」

「ちょっと友人絡みでね。それと残念だけどマリアの行方に関する手掛かりはなかった。空振りだ」

「……そいつは、残念だったな。しかし元々どういう方法で手掛かりを掴むつもりだったんだ?」


 俺の問いに対し、静かに人差し指を唇に当ててみせるベルの兄貴。


「それは秘密にさせてくれ。色々あるのさ、色々ね――」

「……分かった。しかしだな、必要な情報くらいは入れて欲しいな、たまには帰ってきてくれよ」

「ああ、これからは帰ってくるよ。ごめんごめん、かなり切羽詰まっていてさ」


 詳しいところまでは聞いていないが、領軍内部で起きていたことはかなり手の込んだ策略だとは聞いている。

 だから、それと戦った兄貴が下準備で苦労していたのは分かる。

 ……しかしアドリアーノも兄貴も、結局、どこでそんな情報を手に入れたのか、普段何をしていたのかはよく分からないままか。

 まぁ、無理に聞き出すこともないと考えるべきなんだろうかな。別に俺が口出しするべき話でもないだろうし。


「それにしてもロブの方こそ大丈夫だったかい? 懇意にしていた相手だったんだろう?

 吸血皇帝の仮初の姿、ジェーニャというんだっけ」

「ああ、それについては大丈夫さ。イルザさんにも心配されたが、割り切っているよ」


 個人的には好いた相手、決して嫌いだったわけじゃない。

 ただ、犯した罪が許せなかった。生かしておくわけにはいかなかった。

 それだけのことだ。


「――辛気臭い昔話はここら辺にしてよ、未来の話をしようぜ、船長。

 師匠から誘われたんだろ? アカデミアへの進学を」


 この話に入る前に簡単に伝えてはいた。イルザからの誘いがあったことを。


「……ああ、ベインカーテンと戦うことになるのなら、神話を学んだ方が良いと」

「ふふっ、それだけじゃないでしょう?

 クリス・ウィングフィールドが、そこにいるかもしれない。貴方にとってはそれが本命のはずだ」


 ……いつかのやり取りを思い出すな、クラリーチェにこういうことを言われると。

 そうだ、俺の本命はクリス・ウィングフィールドその人だ。

 ジェーニャが出会ったという若き学院生。俺と同世代のクリスティーナ・ウィングフィールド。

 グリューネバルト領を救った英雄。彼女と出会って、いったい何が分かるのか。


「確かにそうだ。だが、恐らくは別人だと思う。歳がおかしいんだ。どうも俺たちと同い年らしい」

「……ふむ、そうなると本人である可能性は低いですね。

 本来なら今、いくら若く見積もっても20代後半でしょう?」


 クラリーチェの言葉に頷く。

 しかしジェーニャに話した通り、全くの別人だと思えない部分もある。

 なんというか、似ている気がするんだ。あのクリスの姉ちゃんが言いそうなことを言っていると感じた。


「……それでも一度会ってみたいというのはあるんだけどな。

 しかし、これは俺の都合だ。みんなはどう思う?」


 正直なところ、ここで皆がどう答えるかは読めないところがあった。

 バネッサは天魚屋に残ると言ってもおかしくないし、それはクラリーチェも同じだ。

 アドリアーノはシルキーテリアに行きたがるかもしれない。

 ベルの兄貴は手掛かりがつかめなかったと言っていたが、それもどこまで本当か。本当にまったく掴めていないのかは怪しい所だ。


「――私は乗るよ。そろそろ次の旅立ちの頃合いかなとは思ってたし」

「意外だな、バネッサ。お前はここに残るものかと」

「今すぐだと言うのなら少し考えるけどね。まぁ、ずっとここにいるってのも最初の主旨と違うしさ」


 ……バネッサの回答を聞き終え、アドリアーノの顔を見る。

 当のあいつはクラリーチェを見ていて、それで分かる。彼の回答はクラリーチェ次第なのだと。


「たぶん近いうちに私も同じように誘われると思うんですよね。

 あの場所に機械魔法科が存在しているって話はザックにされていますし」

「つまり一緒に来てくれるってことか」


 ”ええ、アイザック1人から学べることもここら辺が限界でしょう。生粋の魔術師ではない私には”

 そう告げるクラリーチェの表情が少し寂しげだった。

 ……才能の限界を感じてしまうのは、俺にもよく分かる。魔法にも機械にも通じる事の出来なかった俺には。


「じゃあ、俺も行くぜ、船長」

「良いのか? シルキーテリアに行かなくて」

「ハッ、俺1人で行ったって仕方ないさ。最初から言ってんだろ? 俺にとってマキシマとの再会は主目的じゃない」


 その割には1人でバッテンフェルトに行ったくせに。そう思いつつも言うのはやめておいた。

 ありがたかったからだ、アドリアーノの回答が、本当に。


「――兄貴はどうする?」

「ふふっ、聞かれるまでもないよ。僕も行くさ」


 そう答えた兄貴が、本当に優しそうな顔をしてこちらを見つめていた。


「……今回は、ロブの言葉に救われたと思っている。

 僕も、思ったんだ。あの時、友人を見捨てて生き延びたって、今後の人生を快く生きていくことができないって」


 いつぞや、デミアンを助けるために無茶をしたときに俺が口走った台詞か。

 よく覚えていたものだな、あんな言葉を。


「ふふっ、それを思い出されて無茶されたんじゃ仲間としては肝が冷えるな?

 かなり危ない橋を渡ったんだろ?」

「――かもね。でも、あの時のロブほどじゃないんじゃないかな?」


 兄貴と笑い合う。まったく、本当に食えない男でこういうところが好きなんだ。


「分かった分かった。とりあえず俺たちの方針としては、イルザの誘いに乗る。アカデミアに向かうってことで良いな?」

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