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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「クロスフィールド・ルポタージュ 後編」
291/310

第71話

 ――互いに吸血鬼を越えた吸血鬼同士の戦い。

 600年越しに手に入れたその力は、実に絶大だった。

 あの時には牙どころか、歯も立たなかったイルザに対し対等以上に渡り合える。

 術式を簡略化していたし、あの王たちに比べればどの吸血鬼も若輩。同等の力を得られるかは半ば賭けだったが、私はそれに勝利した。


「ふふ、良い太陽だ……」


 司書室の壁を破壊し、外に出て、まず太陽を見つめた。

 あの絶大な力場の塊こそがアマテイトなのではないだろうか。

 私は、そう考えている。まぁ、その答え合わせをするには再び我が帝国を築き、百年の時を要するだろうが。


「――この娘の姿でいる必要もないか。お前には感謝しているよ、本当に」


 既に私という存在は力場の塊に過ぎない。だからこの肉体も、この姿も仮初のものだ。

 いくらでも造り直せる。少し意識を巡らせるだけで、元来の姿に戻せるのだ。


「やはり自分の姿が一番だな」


 髪色こそ血の真紅に染まっているが、それ以外は元々の私と同じ姿に戻る。

 600年ぶりに完全復活というわけだ。心が躍る。


(……ん? 傀儡の反応がない)


 外に出る直前、イルザとロバートくんに対しては足止めしてきた。

 あれでトドメが刺せたはずもないが、出てくるには今しばらくの時間が掛かるだろう。

 しかし、なんだ? 外に忍ばせていた傀儡たちの反応がない。ベインカーテン構成員たちで作った傀儡が、いないだと……?


「出てきたな――ゾルダン、ノイエンドルフ!!」


 何かが破裂する音、続けて飛び込んでくる魔力を纏った金属片、そして男の叫び声。

 教会の屋根の上、私を狙うように2丁の筒を握る男が立っていた。

 ……あれが噂に聞く機械魔法、拳銃というものか。

 なるほど、それなりに威力はあるようだ。革新的な技術になる可能性を感じる。


「ケッ、頭をぶち抜いても、それかい――!!」


 拳銃を構えたまま男が飛び降りてくる。やれやれ、吸血鬼でもないというのに無茶をする。

 面白い男だ。こいつはそうだな、傀儡にしてやろうか。

 ――額から流れ落ちてくる血を舐め取りながら、同時に男へと影を走らせる。そしてその皮膚を食い破り……


「……お前、なんだ、その身体?」

「フン、教えてやるもんか――」


 纏わりつかせた影を強引に引きちぎって男が迫ってくる。

 ……いったい何かは分からないが、こいつ、人間じゃないな。

 そもそも血が一切流れていないように感じる。

 だが、それがどうした。こいつが放つ魔法など、いくら至近距離でも致命傷にはなり得ない。

 それに、傀儡にできないとしても、それは殺せないということではないのだ。


「チッ……てめえ……!!」

「終わりだ、お前は引きちぎられて死ぬ」


 2つの影で男の右腕と左足を絡めた。あとは引き裂くだけだ。

 さぁ、その奇怪な中身を見せてみろ――


「――こっちを見な。吸血皇帝!」


 聞こえてくる女の声、的確にこちらの頭を狙って放たれる短剣。

 それだけで理解できる。かなりの実力者だと。

 もし、これがこの男のような人間でない何かならば相当に厄介だなと思いながら、影を差し向ける。

 ……クソ、意識が移ると拘束力が落ちたか。謎の男に逃げられた。


(殺すには、まずは女から、だな――)


 男の方は異様に硬い。仮に女も同類だった場合はともかく、そうでなければ一撃で殺せる。

 ――ッ? なんだ、あの動きは。

 なぜ、ここまで私の影を避けられる? なぜ、こちらの攻撃が当たらない……?


「おっと、俺の方を見なくて良いのかい? 吸血皇帝さんよ……!!」


 女の方に注力していた隙を狙うように魔力を帯びた金属片が迫る。

 致命傷にはなり得ないが、再生するまでに時間が掛かるのは事実だ。

 連続で狙われた場合に、致命傷まで追い込まれる可能性はある。

 最も、奴らの手札がこれだけならば問題はないが――


「……チッ、立て籠もりかよ」


 身を守るために、こちらの全身を影で包んだ。

 あとは、ここから全方位に影を放てば1人くらい殺せるだろう。

 そう、影を展開しようとした直前だった。太陽の光が差し込んで来たのは。私の影が、切り開かれたのは。


「――なっ?!」

「仇を、取らせてもらうよ……吸血皇帝!」


 そう呟く見知らぬ男。その右手には純白の刃が握られている。


「アーティファクトか……!!」

「――そうだ、お前を殺す刃だ!」


 マズい、この刃は影を切断してきた。これを身体で受け止めるのはマズい……ッ!!

 影を硬化させて剣を形成する。それでアーティファクトを受け止めようとするが、用意した剣はいとも簡単に切断されてしまう。

 ッ、まさか、ここまで対吸血鬼に特化した武器が存在しているとは。


「畳みかけるぞ!!」


 機械魔法使いが叫び、金属片と投擲用の短剣が迫る。

 いや、これらはもう良い。問題なのは、眼前のアーティファクトだけだ。

 アーティファクトがこちらに対しての切り札だとしても、それを振るう人間は普通のはずだ。

 あの謎の男のように血が流れていない存在でなければ、殺せる。

 この爪を立てれば。そうすれば傀儡が増えてこの小賢しい戦士どもに優位を取れる。


「……ッ??!!」


 男に向けた右手が消し飛んでいた。

 恐らくは、あの血の流れない男が使っていた機械魔法と同種の力だ。

 だが、あれじゃない。威力が段違いだし、もっと遠くから撃ち込まれた。

 どこだ、いったいどこから……いや、それどころじゃない。このまま、アーティファクトで斬られたら終わりだぞ……ッ!!


「舐めるな――ッ!!」

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