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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「クロスフィールド・ルポタージュ 後編」
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第65話

「ふふっ、良いね。流石に聡明だ。あるいは考えているのかな、ここに誰かが来る可能性を」


 ――ほくそ笑むゾルダンを前に肝が冷える。

 そうだ。血が流れてくるのなら領軍は、アイザックは、必ずこの場所を見抜くはず。

 そして大まかな検討さえついてしまえば後は、シェイナがこの司書室から2人出てこない人間がいると伝えてくれれば確定するだろう。

 俺が動くべきはその時だ。外から誰かが仕掛けたその瞬間以外に存在しない。しかし、彼がそれを見透かしているということは……


「吸血鬼の血を集める術式を組んでいるんだ、辿れないはずはない」

「ああ、それは私も自覚している。しかしこの状況下でよくそれを待とうと思えたね」

「……もともと勝ち目がないからな。この程度は考えなきゃ話にならない」


 俺の言葉を受け止めながら、鋭利な視線を送ってくるゾルダン・ノイエンドルフ。


「ここに来るのは誰だと思う? アイザックとかいう兎か、私の娘か、はたまたあのバウムガルデンの末裔か」

「……さぁな、イルザ・オーランドは今、バウムガルデンにいないらしいが」

「ああ、私が他の街で撒いた血の処理に悪戦苦闘しているよ。でも、もしかしたら間に合わせてくるかもしれない」


 ……ああ、マズいな。

 今、この場の主導権を握っているのは絶対的にゾルダンの方だ。

 あいつの気が変わって、仕掛けてきたのなら、その直後に決着がつく。


「だから私にとっては、その前に君を排除しておいた方が安全ということになる」

「ッ――そうだな。その通りだ。暇つぶしはおしまいって訳かい?」

「……君がそれに応えてくれるのなら。私と戦ってくれるのならば、と言いたいところだが、難しいかな」


 ジロリとゾルダンの瞳がこちらを見つめてくる。

 その色は刻一刻と血の赤が濃くなっている。

 吸血鬼の血、その力が濃くなっているのが外からでも見て分かる。


「……俺は、無抵抗で殺されるつもりはないが、アンタ相手に勝てるつもりで戦えるほど盲目でもない」

「では、恭順すればいい。私の血を求めれば、生かしておいてやるぞ」

「そのつもりもないと言ったはずだぞ、ゾルダン、ノイエンドルフ……ッ!!」


 こちらの回答を前に笑うゾルダン。


「つくづく君も哲学者だな。自分の思想のために死ねるという訳だ。

 君は君の中に神を宿しているように見える。だから、信念を通すための死を恐れていない」

「……恐れていない訳じゃない。ただ、生きるために吸血鬼の血を飲むような真似はできないというだけだ」


 ヴァン・デアトルの死に様を見たから。

 リーチルに、クリスの姉ちゃんに、二度と会えなくなる気がするから。

 そうなってしまえば死と変わらない。生きている意味がない。だから命を天秤に乗せられても、傾けることができない。それだけだ。


「……ふふっ、私が心の底から望んだのにもかかわらずここまで強情だった男は他にいない。

 そしてだからこそ欲しくなる。さっさと君を殺してイルザなり、アイザックなり、ここに来る敵に備えた方が良い。

 分かっているのに、それができない。つくづく面白い男だよ、君は」


 随分と本気で気に入られているのだと分かる。

 だからこそ俺は今の今まで生きていられただけで、彼の気分ひとつであっさりと殺されてしまうであろうことも。

 ……クソッ、頼む、来るなら早く来い、誰でも良いんだ、この吸血皇帝と戦おうという意志を持つ者なら!


「無理やりに血を飲ませても面白そうだが、それは私の望む理想形ではない。

 私は、君という男が自由意志で吸血鬼の血を求める様を見てみたい」

「残念ながら、そんな日は来ない。……それに飽きたのなら、仕掛けることだな」


 こちらの挑発を見透かしたように微笑むゾルダン。


「声が震えているよ。それも当然だが、それでも恭順しない君の精神には敬意を表しよう」


 スッと立ち上がる彼につられて、俺も立ち上がる。

 何を仕掛けてくるか分からないのだ。悠長に座っている余裕はなかった。


「――ロバートくん。私の力はまもなく完成する。

 そして恐らく、それと同時くらいで、ここに敵が乗り込んでくるだろう」


 いつの間にか、彼は俺の真後ろに立っていた。

 耳元で彼女の甘い声が囁いてくる。


「私はそれまでの間に、君を殺し、敵に備えるのが最善の手だと思っている」


 彼女の指先が首筋に触れる。そしてすーっと撫で下ろすように胸元へと侵入してくる。

 ……ここで彼が力を籠めれば、それだけで俺は死ぬだろう。そう自覚しながら、彼の元にまた吸血鬼の血が引き寄せられてくるのが分かる。

 バウムガルデンの戦士たちは本当によくやっているのだ。吸血鬼なんていう怪物を相手に勝利を重ねるとは。


「最後通告だ、ロバート・サータイト。私と共に来い、私は君ほどの男をただの傀儡にしたくはないのだ」


 彼女の唇が俺の首筋に触れる。彼女の舌先が、静かに俺の肌を撫でる。

 ……なるほど、俺の血を吸って傀儡にするつもりか。

 そう思いながら隠し持っていた風の宝石を握り締める。氷はダメだ、ここには水がない。


「――ッ、ァアア! 生きているか?! ロバート、クロスフィールド!!」

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