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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「クロスフィールド・ルポタージュ 後編」
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第64話

 ――ゾルダン・ノイエンドルフが生前、最後に仕掛けた計画もほとんど同じものだった。

 吸血鬼の王たちを皇帝直轄領に集めるのと同時、吸血鬼殺しのオーランドや彼らと協力していたバウムガルデンの先祖たちを招き入れた。

 そうして1つの都市の中で、吸血鬼たちがほぼ同時に死ぬように仕掛け、死によって行き場を失った彼らの血を集めた。


「……吸血鬼が吸血鬼の血を飲み、吸血鬼を越えるだったな。ゾルダン」

「ああ、いかにも。あの時、イルザにはそう伝えたし、あいつはその力を奪った」


 複数人の吸血鬼の血を束ね、吸血鬼を超越しようとしていた彼に対し、イルザはその血を奪うことで対抗した。

 そうして彼女が得た力を指して”吸血皇女”と言うのだ。


「……アンタは生前の計画を焼き直して、その後にイルザと戦うつもりなのか?」

「ああ、力を取り戻してやろうとは思っている。

 あいつは力を使わなかった。600年も生きていながら、この土地から外へ広がろうとしない」


 心底呆れたように呟くゾルダン。

 彼は自らの娘が、自らの力を奪っておきながら何も成していないことに怒りを覚えているらしい。

 600年も変わらずに1つの土地を守り続けていることこそ、真の偉業だと思うが、どうも彼は違うようだ。


「しかし、ブラッドバーンに取り込まれかけた男を取り戻したというあの逸話。

 あの力が真実であれば、私の理論は間違ってはいなかった。吸血鬼の血を濃くすれば、我々は神に近づくことができる」

「アンタの思う神とは何だ? いったい神の何を指して、それに近づこうとしている?」


 ――俺と彼の対立は決定的なものとなった。

 それでも、今までと同じように会話を続けている。

 理由は簡単だ。あっちは俺を簡単に殺せるし、俺は何をやってもあっちに勝てない。

 絶対的な実力差が存在するからこそ、あちらの気が変わるまで、この状況を続けざるを得ないのだ。


「私の思う神とは、力場の塊だ。

 この世にいる無数の人間の中から無作為に力を与え神官とする神。

 私はあれをこの世界に流れる力場そのものだと考えている。

 恐らくは妖精こそが最も神に近い存在だとも」


 ……ここで妖精が出てくるのか。ドロップが神に近い存在だと。

 言わんとすることは分かる気もする。

 確かにリーチルを考えれば、彼女らこそ神に近い存在だ。人間よりもよほど。


「そして吸血鬼もまた力場を操る存在。神官として生まれなかった者でさえ、神と同質の存在に近づける唯一の道筋。

 私はまだ、あの力を手に入れたイルザを見ていない。600年前に一瞬ばかり見ただけだ。

 だから確証はないが、今のあいつにとっては自らの姿など仮初だろう。あいつの本質はもう力場の塊でしかない。魔力と言っても良い」


 ……力場の塊、魔力の塊、その流れこそが神の本質。

 人間に力を与える神とはそういうものだと。


「私はね、ロバートくん。知りたいんだ。吸血鬼とは何なのかを。吸血鬼とは、吸血鬼の血を飲んだ人間だ。

 では、最初の吸血鬼はどこにいる? この世で初めて吸血鬼になった者は、いったい誰の血を飲んでそうとなったのだ?

 私は、この計画の果てにそれに至る糸口を掴めると信じている――」


 この世で初めて吸血鬼となった者。吸血鬼のいない世界で、吸血鬼になった最初の人間。

 確かに根源的な疑問だ。神に近づく過程で、その糸口を掴めるかもしれない。

 そう語る彼は、ひとえに好奇心として応援したくはなる。そのためにこんな惨劇を越していなければ、だが。


「……また1人死んだのか、吸血鬼が」

「ああ、この血は、ストークスか……お前は最後まで生き残ると思っていたが、ままならんな」


 儚げな笑みを浮かべるゾルダン。

 本当にこいつは、自らが気に入った相手の死は、心底悲しむのだ。

 それ以外の人間のことなんてどうとも思っていないくせに。


「ロバートくん。私の計画は極めて順調に進んでいる。つまり、時間が経てば経つほど私の力は増大していく」

「……2人も吸血鬼が死ぬよりも前に仕掛けた方が勝ち目があった、ってか?」

「君がその気ならば早く仕掛けた方が良いということさ。本気の君を叩き折ってやれば、意外と欲しくなるんじゃないか? 私の血が」


 クスクスと笑うツラを見ていると確かにぶっ飛ばしたくなる。

 だが、分かっているのだ。勝ち目はない。下手に戦えば、今俺が持っている宝石も、ドロップも奪われかねない。


「……仇の吸血鬼から血を奪ったアンタのように」

「そうだ、それを狙えば勝ち目はないわけじゃない。でも私はあいつとは違う。吸血鬼の殺し方は身につけているけれどね」


 ゾルダン・ノイエンドルフという男が吸血皇帝として数多の王を生み出せたのは、吸血鬼の誕生を恐れなかったからだ。

 自らと同等の力を持つ存在の誕生を恐れなかった理由は2つ。

 1つはそのカリスマ性で反逆など思わせなかったから。もう1つは仮に反逆したところで、その全てを叩き潰す自信があったから。

 実際に彼は、イルザ・オーランドに敗北するまでに幾多の吸血鬼の挑戦を退けている。


「……俺は命を無駄遣いするつもりはない。アンタが仕掛けてこないのなら今は動くときじゃない」

「ふふっ、良いね。流石に聡明だ。あるいは考えているのかな、ここに誰かが来る可能性を」

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