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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「クロスフィールド・ルポタージュ 後編」
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第63話

「――なぁ、ロバート・クロスフィールドよ。私から一度、問わせて欲しい。

 私の血を飲んでみないか? 私と共に悠久の時を生き、絶大な力を得て、まず手始めにベインカーテンを滅ぼしてみようじゃないか」


 優しく微笑む彼女の声色、表情、言葉、その誘いは全てが甘美だった。

 リーチルと出会い、あのクラーケンという化け物と戦った時に、全ては宿命づけられた。

 まだ、ベインカーテンそのものとの接触はないが、目を付けられていてもおかしくないし、そもそも目を付けられていなくてもあいつらは明確な敵だ。

 俺の女神を騙り、死を尊崇する異常者の集団。奴らとの戦いはきっと避けられない。避けてしまえば、それは未来に禍根を残すだけ。


「ベインカーテンを……」

「そうだ。奴らを滅ぼして、君の女神を、その威光を取り戻そうじゃないか。

 そうすれば君だって偽名を使う必要はなくなる。教えてくれないか? 君の本名を」


 俺の、本名……それを名乗るのはいつ以来だろう。

 少なくともこの土地に足を踏み入れてからは一度もなかった。ただの一度も。


「――ロバート・サータイト」

「神子の家系なのか、君自身が」

「ああ、力は継いでないけれど、神子の家系に生まれたんだ」


 こちらの回答に驚いたように息を呑むゾルダン。

 全くこういう素朴な振る舞いを平気でやれるから、彼のことを人間だと思ってしまう。

 彼の誘いを、振る舞いを、快く感じている自分がいる。


「……なるほど、まさか時を越えた先に君のような若者と出会えるとは。

 改めて、君の力になりたい。私と共に、新たな時代を築こう。あのベインカーテンを滅ぼし、ついでに歴史の覇者になる」


 ……悪くない誘いだ。ベインカーテンという組織は強大、有史以前から存在していると言っても過言ではない。

 シェイナさんでさえも、その恐ろしさを事細かに話せるほどに知られ、歴史よりも前から残り続ける巨悪。

 俺は、そんなものと戦おうとしている。サータイトの名を騙る奴らをぶっ潰してやりたいと思っている。

 そうすれば、俺はクロスフィールドを名乗る必要もなくなるんだ。


「……俺が大手を振って、ロバート・サータイトと名乗れるようになる」

「ああ、奴らを恐れなくて良い世界にしよう。君を一番の王にしてあげよう。私と共に戦って欲しい」


 本当に悪くはない話だ。ベインカーテンと戦うには力がいる。

 今のようなヴァン・デアトル1人さえ抑えられない程度の力では、きっと話にならないだろう。

 だから、彼の誘いに乗るのは悪くない。吸血皇帝が復活した時、その一番の王で居られるのならば悪くない地位だ。


「……クロスフィールドって偽名、どうやってつけたか、分かるかい? ジェーニャ」

「クリス・ウィングフィールドから貰ったんだろう? 分かるさ、私も彼女に会っている」


 そうだ、俺の偽名は彼女から連想した。

 10年前、俺を外の世界で待っていると言ってくれたクリスの姉ちゃんから。

 あの日のことは、今でも覚えている。事細かに全てを記憶している訳じゃない。

 それでも、あの人のまっすぐさを、美しく輝く真紅の瞳を、覚えているんだ。


「……なぁ、ゾルダン。あの人は、アンタの誘いに乗ると思うかい?」

「っ、乗らないだろうな。きっとあの娘は、法外な力を求めない。あの日の私とは違う」


 やはり、彼もそういう印象を抱くか。

 本当に彼が出会ったクリスという学院生が、俺の出会ったクリスの姉ちゃんであるという確証はないのだけれど、同じ人だと思うのだ。

 あのゾルダン・ノイエンドルフでさえ、吸血鬼の血を求めはしないだろうと思うほどならば、俺が思う彼女の像と一致している。


「それにな、俺は旅立ちの日に、島を守る妖精に誓った。

 故郷への道を閉ざされてしまうような、邪な者にはならないと」


 リーチルは言ってくれた。

 人の命は短いのだから、神のためにいたずらに命を消費してはいけないと。

 今、ここで俺がゾルダンの誘いに乗ってベインカーテンを倒すために人の道を外れること。

 それこそがあの時、彼女が諫めてくれた神のために命を消費するということだ。

 サータイトのためだと言いながら、俺は人の道を踏み外すことはできない。


「……そうか。残念だよ、ロバートくん」


 静かに微笑むゾルダン・ノイエンドルフ。


「……殺さないのか? 俺はアンタの誘いを断ったんだぞ」

「まさか。そんなことで殺しはしないよ。

 君が仕掛けてくるのなら相手にはなるが、分かっているんだろう? 私との実力差を」

「ああ、吸血鬼1人にさえ手こずった。勝てなかった。アンタに勝てるとは、思っていない」


 それが分かり切っていたからこの状況下でも対話に応じていた。

 目の前にいるのが、今回の惨劇を引き起こした黒幕だとしても戦いを挑むことができなかったし、今もできていない。


「……じゃあ、もう少し私の暇つぶしに付き合ってもらおうかな」


 ゾルダンは静かにそう微笑み、彼の元に真紅の魔力が流れ込んでくる。

 隔絶されたこの空間に、いったいどこから?

 なんて思う方が無粋だな。分かり切っていることだ。


「この街で死んでいく吸血鬼の力を、アンタが手に入れるまでの暇つぶしって訳か」

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