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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「クロスフィールド・ルポタージュ 後編」
280/310

第60話

「”多くの人々”が死ぬことには何も感じない。それどころか必要な口減らしの一環だろう」


 一切の迷いなくそう言い切るジェーニャを見て、初めて恐ろしいと思った。

 理屈としてそういう理論があるのは分かる。だが、決定的に違うのは、彼は本気で言っている。

 俺の関係者が死んだのではないかということに謝罪できる慈悲の心を持ちながら、同時に多数の死など厭わないと本気で考えているんだ。


「ロバートくん。君は何故、竜帝国が人間に戦争を仕掛けてくると思う?」

「……領土拡大が目的じゃないのか」

「ふふっ、私がそう考えているのなら今ここで話には出さない。まぁ、その考えも間違ってはいないがね」


 竜帝国ドラゴニア、死の女神とはまた違う人間の天敵。

 正直なところ、俺はこの国の人間ならば当然に持っている竜族への反感を全く持ち合わせていない。

 それどころか俺にとっての竜というのは、クリスの姉ちゃんが乗っていたものなんだ。憧れこそあれ、敵意などない。


「私は、あいつらが戦争を仕掛けてくる理由はドルンの口減らしだと思っている。

 もしも竜帝国がドラガオンだけで成立している国家ならば、彼らは無駄な戦争を仕掛けてこないだろう。

 あるいは人間の方が彼らを支配者に足る存在だと認め、受け入れているかもしれない」


 ……ドルンというのは、人間の半分くらいの背丈で竜帝国の大半を占める多産多死の種族だと聞いている。

 逆にドラガオンの方は翼竜としての姿を解放しない限り、角が生えているくらいで人間とほぼ同じ容姿だとも。


「寿命では死なない存在に、統治してもらおうって訳か」

「そうだ。神に認められた者たちに統治を委ねていた教会時代とそうは変わらない」

「……その意味では魔法時代も同じだと」


 こちらの言葉に心底嬉しそうに頷くジェーニャ。

 ッ……分かっていても、彼女を吸血皇帝だと認識し切れていない自分がいる。


「アマテイト神官、魔法使い、そして私の吸血鬼の国家も同じだ。

 無論、反抗勢力も居たが、私の支配を快く受け入れてくれた者たちも居た。

 そうでなくては国家など築けはしない。私との戦いで人類は滅んでいた」


 しかし現実にはそうならなかった。傀儡になることを恐れ、自由意志で彼に付き従った者たちがいたから国家を築いた。

 その中から血を分け与える者たちを選び、王を生み出し、教会の土地を奪い取ったのだとゾルダンは笑う。

 ……ジェーニャの声で、ジェーニャの顔で。


「なぁ、ロバートくん。どうして教会時代は滅んだと思う?」

「魔法皇帝の誕生、魔法という技術によって教会が分断されていったからだと」

「それはそうだ。しかし、時代という支配者が魔法皇帝を許し、彼を受け入れたのは彼だけの力ではない」


 ……時代という支配者か。


「彼が受け入れられる土台が、既に形成されていたと」

「うんうん、その通りだよ。

 これはなかなか当時を生きていた人間にしか分からないことだと思うが、魔法皇帝が現れていなければ教会時代はもっと酷い形で自己崩壊していただろう」


 そう語る彼女の言葉が気になっている自分がいる。

 目の前にいる相手への憎しみや義憤を横に置いてでも、もっとこいつの言葉を考えを聞いてみたいと思う自分が。

 ……ああ、全くもって恐ろしいな。これが吸血皇帝の他者に取り入る力、天性の振る舞いなのだ。


「いったい何が教会時代を崩壊させる原因だったと?」

「――人口の増加さ。生まれてくる神官の数が比率で決まっているのか、絶対数で決まっているのかは分からないが、どちらにせよ民衆に対して神官の数は慢性的に不足していた。

 たとえば神官に治してもらえば、なんということもない病気で死んでいった人間の数は把握することも困難だったはずだ」


 外の世界は広い。この目でこそ見てはいないが、文献を読んでいれば確かにそういうこともあるのだろうとは分かる。

 人口が多すぎて困るとは、なかなか実感の湧かない話ではあるが。


「魔法皇帝がそうとなる以前に、教会の誤った治療法を一新し、民衆から圧倒的な支持を集めていたというのも理解できる。

 神官にさえ頼ればなんとかなるからな。教会は、神官がいない場合の治療法が正しいか間違っているのか、その精査さえまともにできてはいなかった。

 患者が死ぬ前に神官が間に合うかどうか、太陽の力を与えられるかどうか。結局はそれだけの差しかなかったんだ。その前にどんな薬を与えていたのかなんて真面目に考えもしない」


 ”実際、私が吸血鬼として人体を研究してみると教会で正しいとされていた治療法の1割は間違いだったよ”と笑う吸血皇帝。

 こいつはいったい、そのために何人の人間を犠牲にしてきたのか。それを思うと本当にゾッとする。


「人口が多くても良いことはない。

 無限に領土が拡大できるのならともかく、ドラゴニアを侵略することは魔力が制限された現代魔法では不可能だし、海への開拓も現実的ではないからな。

 この世界という入れ物はすぐに人間でいっぱいになる。今はまだ魔法時代の傷痕が残っているからマシだが、数百年のうちに必ず歪みは広がるだろう」


 ……理論としてそういう話があるのは理解できる。

 実際、彼の危惧することはたぶん間違っていないとは思うんだ。


「それが、お前が人殺しをして良い理由になると?」

「――ああ、私ならドラゴニアから領土も奪えるぞ。ほんの百年でそれができる軍勢を用意してやろう。

 無駄な人口を減らしながら、最強の軍勢を用意できるんだ」

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