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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「クロスフィールド・ルポタージュ 後編」
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第54話

「……しかしアディントンさんよ、本当に来ると思うか? 傀儡や吸血鬼が」


 ここに来て3度目の夜。

 昨日と同じようにアディントンと2人、教会の屋上で周囲の警戒に当たっていた。

 俺は睡眠時間を好きに調節できるからという理由だが、アディントンの方は夜型の生活に慣れているからということらしい。

 そこら辺は同郷のよしみを感じる。といっても、俺のではなくマキシマの同郷という意味だが。


「――首都の方から逃げてきた人を知っているだろ?」

「神官の爺さんが治療している奴だよな」

「ああ。意識を失う前の彼が言っていたんだ、吸血鬼が来る、傀儡が来るって」


 話としてはよく分かる。首都から逃げてきた怪我人がそんなことを話していたら不安にもなるだろう。

 そして、最悪なのは林道へと出て道なりに進むことを考えると行き先がバッテンフェルトかバウムガルデンになるということだ。

 だから大きな迂回路を走破できるような人間しかここから逃げ出せなかったと聞いた。

 だから、姉と父が逃げなかったのはそれに付き合えない自分のせいだと、アルは言ったのだ。


「だが、もう4日だぜ? 来るならもう来てもおかしくねえと思うが」

「それは私も思う。……しかし、偵察に出せるような人間もいないのが現状だ。

 せめてバウムガルデンの方に吸血鬼が出ていなければ、そっちに逃げるということもできたんだけど」


 やはり、そういう事情か。

 こんなところで籠城戦を続けざるを得ないのは、挟み撃ちにされているからだ。


「前門の虎、後門の狼って奴か……なんなら、俺が行こうか?」

「……お願いしたいような、君にいて欲しいような」

「確かに、戦力不足も否めないか。銃があってもそれを使える人間が足りないんじゃな」


 アディントンが、拳銃を売らなければよかったと言ったのは、拳銃なら1人で2丁使えるからというのもある。

 この籠城戦でライフルを使えるくらいの体力を持っているまともな大人の男は、アディントンとアルたちの父親だけだ。

 昼夜交代で1人ずつしかライフルを使えないくらいなら、拳銃の方を残しておけばよかった。彼はそう考えている。


「まぁ、君が来てくれたおかげで助かったけれどね。アドリアーノ」

「そいつはどうも」

「……君のおかげで、アルくんとアシュリーちゃんにも笑顔が戻った」


 ”そいつは買い被り過ぎだ”とだけ答えた時だった。

 俺の聴覚器官が、異様な足音を聞き取ったのは。

 反射的にライフルを構え、スコープを覗く。ほう、良い精度だ。結構遠くまで見える。


「――目が赤いお客さんだな。

 パソコン中毒者ってわけでもないだろうし、吸血鬼……いや、あの感じは傀儡って奴かな」


 星明りに反射した青白い肌と虚ろな赤い瞳。見ていれば分かる。

 あれはもう、この世の人間ではない。

 傀儡というのは見れば分かるものだと聞いてはいたが、確かにその通りらしい。


「……アドリアーノくん。私も初めてなんだ。傀儡というものを目の当たりにするのは」

「つまり、あれが人間ではないという確証を俺たちは持ち得ない」

「ッ……そういうことになる。その前に引き金を引くか、近づくことを許すか」


 アディントンの声が震えているのが分かる。それもそうだろう。

 もし間違えていたら俺たちは取り返しのつかないことをする羽目になる。

 だが、1人ならともかく、数が多い。まだ遠いがじわじわと近づいてきているのだ。

 ご丁寧に教会のある集落へと続く脇道のど真ん中に、1人、2人、3人……マズいな、どんどん増えてきやがった。


「ッ――アドリアーノくん……」

「やはりな。足を撃ち抜いても歩いてきやがる、こりゃ化け物だぜ。人間じゃない」


 ごちゃごちゃと考えるのが面倒だった。だから俺は、俺の直感を信じた。

 あれらはもう既に人間ではない。そう感じた俺の思考を信じた。

 その結果がこれだ。あいつの足をぶち抜いてやったが、あれは立ち上がって近づいてきている。

 驚異的な再生力、これが証拠だ――


「流石だ。……私には、できなかった」

「フン、機械を裁く神は居ねえさ。さぁ、皆を起こせ、敵襲だってな」


 ――あの冬の女神さまは、大盤振る舞いで俺にも神託をくれたが、物言わぬ地球の神々どもが俺を裁くことはないだろう。

 人間でないこの俺を裁くことは。そして、ここには、あの冬の女神もいないのだ。


「分かった。ここを頼む」

「おう、このアドリアーノ・アルジェントが請け負うぜ」


 俺の中にある核の万能鉱石とライフルの中の魔術式が反応しているのが分かる。

 人間以外の命でも魔力に変換できる機械魔法の凄まじさを実感しながら、引き金を引いていく。

 吸血鬼どもの頭を吹っ飛ばす。結局あれほどにやっても再生はしてくるのだろうが、脳みそを砕いているんだ。少しは時間が稼げるだろう。


「……あー、クソ、夜明けとともに全部蒸発してくれれば楽なのによ」


 無限の再生力を持つ化け物なのに、弱点らしい弱点がないなんて最悪にもほどがある。

 勝ち目が見えない。今はまだ距離があるし、こちらには遠距離攻撃の手段がある。

 だが、あの闇の向こう、まだ見えていない宵闇から、あといったい何人の傀儡が現れてくるだろうか。

 その数次第だ。俺たちがこの夜を越えられるか、否かは。


「まったくイカれた夜になりそうだ――」

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